9 / 57
9.恐怖と戸惑いと
しおりを挟む
「っ……」
声を出さないよう、カルナは唇を噛んで耐えた。
いままで、誰かに乳を吸わせたことなんて一度もない。というか、自分のミルクを他人に飲ませること自体、カルナは今日がはじめてだった。
恥ずかしくてたまらないが、そんなことを言っている場合ではない。
命の恩人であるシュラトの騎士生命がかかっているのだ。
そのシュラトは、なんとか乳を吸っているようだが、毒で体が弱っている所為か、はたまた遠慮しているのか、あまりうまく乳を吸えていないようだった。
カルナは迷いつつ、シュラトが吸っている方の胸の下側を、いつも搾乳のときにやっているように片手の指先でムギュっと押した。
「んっ……」
「あっ、ご、ごめんなさいっ、手伝おうと思って……」
突如噴き出たミルクに驚いたらしいシュラトが、カルナの乳首から口を離した。
自身の唇付近にかかったミルクを、シュラトはぺろりと器用に舐め取る。
どことなく、先ほどよりも顔色が良くなっている気がした。
「……甘いな」
「気分はどうですか?」
「ああ、痛みがだいぶ引いてる。本当に効果があるみたいだ」
「良かったぁ……」
カルナはホッとして笑った。
見れば、シュラトの背中にあった青緑色の部分が先ほどよりも少し小さくなっている気がする。おそらく、ちゃんと解毒されているのだ。
「あ、あの、さっきも言ったんですけど、このミルクのことは内密にお願いします……」
「ああ、わかってる。俺とあなたの秘密だな」
そう囁いたシュラトの視線が、じっとカルナへと注がれる。妙に熱のこもった、どこか悩ましげな視線だった。
「……もっと飲みたい」
「あ、はい」
求められるがままカルナが胸を差し出すと、シュラトは今度は迷いなく乳首を口に含み、絶妙な力加減で乳を吸った。心なしか、さっきより上手く吸えているような気がする。
──すごく格好いいひとなのに、なんだか赤ちゃんみたいですごく可愛い。
カルナはなぜだか少しドキドキしていた。これが母性本能というやつなのだろうか。
そうして、伏せられたシュラトの長い睫毛をぼんやりと見つめていると、突然シュラトの長い腕がカルナの背中に回り、そのまま優しく抱きしめられる。
「~~~~ッ!」
その瞬間、ぞくぞくとした寒気にも近い感覚が、カルナの体中を電流のように駆け巡った。
──こわいっ!
シュラトが肉食獣人であろうことは、出会った瞬間からカルナも気づいていた。
けれど、自身がこれほどまでに肉食獣人に対して本能的な恐怖を抱いていることは、カルナも今日初めて知ったのだ。
それに、突然抱き付かれるなんてカルナも予想外だ。
確かに体勢的にはこのほうが飲みやすいのかもしれないが、カルナは今までこんな風に他人に抱きしめられたことなんて一度もない。
恥ずかしくて、気まずくて、どうしたらいいのかわからなかった。
自然と、シュラトの肌と触れ合った部分が熱くなる。
そんなカルナの怯えも戸惑いも知らず、シュラトは無心でカルナの乳を吸っていた。
背中に回った腕が、二人を密着させるようにさらにカルナの上半身を引き寄せる。
「あっ……」
ジュッと強く乳首を吸われた瞬間、カルナの口から勝手に少し高い声が漏れた。
恥ずかしくて、咄嗟に口を片手で覆う。
シュラトの伏せられた瞼が持ち上がり、深緑の美しい瞳が上目遣いでカルナを見た。
すると、口に含まれている方の乳首にピリッとした小さな痛みが走る。
「か、噛んじゃダメですっ」
「ああ、すまない……」
素直に謝ったシュラトはすぐに唇を離し、詫びるようにペロペロとそこを舐める。
舌で乳首を舐められるたび、ジンジンと痺れるような感覚が走って、カルナはわけもわからずギュッと目を瞑った。
声を出さないよう、カルナは唇を噛んで耐えた。
いままで、誰かに乳を吸わせたことなんて一度もない。というか、自分のミルクを他人に飲ませること自体、カルナは今日がはじめてだった。
恥ずかしくてたまらないが、そんなことを言っている場合ではない。
命の恩人であるシュラトの騎士生命がかかっているのだ。
そのシュラトは、なんとか乳を吸っているようだが、毒で体が弱っている所為か、はたまた遠慮しているのか、あまりうまく乳を吸えていないようだった。
カルナは迷いつつ、シュラトが吸っている方の胸の下側を、いつも搾乳のときにやっているように片手の指先でムギュっと押した。
「んっ……」
「あっ、ご、ごめんなさいっ、手伝おうと思って……」
突如噴き出たミルクに驚いたらしいシュラトが、カルナの乳首から口を離した。
自身の唇付近にかかったミルクを、シュラトはぺろりと器用に舐め取る。
どことなく、先ほどよりも顔色が良くなっている気がした。
「……甘いな」
「気分はどうですか?」
「ああ、痛みがだいぶ引いてる。本当に効果があるみたいだ」
「良かったぁ……」
カルナはホッとして笑った。
見れば、シュラトの背中にあった青緑色の部分が先ほどよりも少し小さくなっている気がする。おそらく、ちゃんと解毒されているのだ。
「あ、あの、さっきも言ったんですけど、このミルクのことは内密にお願いします……」
「ああ、わかってる。俺とあなたの秘密だな」
そう囁いたシュラトの視線が、じっとカルナへと注がれる。妙に熱のこもった、どこか悩ましげな視線だった。
「……もっと飲みたい」
「あ、はい」
求められるがままカルナが胸を差し出すと、シュラトは今度は迷いなく乳首を口に含み、絶妙な力加減で乳を吸った。心なしか、さっきより上手く吸えているような気がする。
──すごく格好いいひとなのに、なんだか赤ちゃんみたいですごく可愛い。
カルナはなぜだか少しドキドキしていた。これが母性本能というやつなのだろうか。
そうして、伏せられたシュラトの長い睫毛をぼんやりと見つめていると、突然シュラトの長い腕がカルナの背中に回り、そのまま優しく抱きしめられる。
「~~~~ッ!」
その瞬間、ぞくぞくとした寒気にも近い感覚が、カルナの体中を電流のように駆け巡った。
──こわいっ!
シュラトが肉食獣人であろうことは、出会った瞬間からカルナも気づいていた。
けれど、自身がこれほどまでに肉食獣人に対して本能的な恐怖を抱いていることは、カルナも今日初めて知ったのだ。
それに、突然抱き付かれるなんてカルナも予想外だ。
確かに体勢的にはこのほうが飲みやすいのかもしれないが、カルナは今までこんな風に他人に抱きしめられたことなんて一度もない。
恥ずかしくて、気まずくて、どうしたらいいのかわからなかった。
自然と、シュラトの肌と触れ合った部分が熱くなる。
そんなカルナの怯えも戸惑いも知らず、シュラトは無心でカルナの乳を吸っていた。
背中に回った腕が、二人を密着させるようにさらにカルナの上半身を引き寄せる。
「あっ……」
ジュッと強く乳首を吸われた瞬間、カルナの口から勝手に少し高い声が漏れた。
恥ずかしくて、咄嗟に口を片手で覆う。
シュラトの伏せられた瞼が持ち上がり、深緑の美しい瞳が上目遣いでカルナを見た。
すると、口に含まれている方の乳首にピリッとした小さな痛みが走る。
「か、噛んじゃダメですっ」
「ああ、すまない……」
素直に謝ったシュラトはすぐに唇を離し、詫びるようにペロペロとそこを舐める。
舌で乳首を舐められるたび、ジンジンと痺れるような感覚が走って、カルナはわけもわからずギュッと目を瞑った。
70
お気に入りに追加
2,384
あなたにおすすめの小説
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
婚活パーティーで、国一番の美貌の持ち主と両想いだと発覚したのだが、なにかの間違いか?
ぽんちゃん
BL
日本から異世界に落っこちた流星。
その時に助けてくれた美丈夫に、三年間片思いをしていた。
学園の卒業を目前に控え、商会を営む両親に頼み込み、婚活パーティーを開いてもらうことを決意した。
二十八でも独身のシュヴァリエ様に会うためだ。
お話出来るだけでも満足だと思っていたのに、カップル希望に流星の名前を書いてくれていて……!?
公爵家の嫡男であるシュヴァリエ様との身分差に悩む流星。
一方、シュヴァリエは、生涯独り身だと幼い頃より結婚は諦めていた。
大商会の美人で有名な息子であり、密かな想い人からのアプローチに、戸惑いの連続。
公爵夫人の座が欲しくて擦り寄って来ていると思っていたが、会話が噛み合わない。
天然なのだと思っていたが、なにかがおかしいと気付く。
容姿にコンプレックスを持つ人々が、異世界人に愛される物語。
女性は三割に満たない世界。
同性婚が当たり前。
美人な異世界人は妊娠できます。
ご都合主義。
弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!
灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」
そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。
リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。
だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く、が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。
みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。
追いかけてくるまで説明ハイリマァス
※完結致しました!お読みいただきありがとうございました!
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました
白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。
攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。
なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!?
ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。
炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています
ぽんちゃん
BL
男爵家出身のレーヴェは、婚約者と共に魔物討伐に駆り出されていた。
婚約者のディルクは小隊長となり、同年代の者たちを統率。
元子爵令嬢で幼馴染のエリンは、『医療班の女神』と呼ばれるようになる。
だが、一方のレーヴェは、荒くれ者の集まる炊事班で、いつまでも下っ端の炊事兵のままだった。
先輩たちにしごかれる毎日だが、それでも魔物と戦う騎士たちのために、懸命に鍋を振っていた。
だがその間に、ディルクとエリンは深い関係になっていた――。
ディルクとエリンだけでなく、友人だと思っていたディルクの隊の者たちの裏切りに傷ついたレーヴェは、炊事兵の仕事を放棄し、逃げ出していた。
(……僕ひとりいなくなったところで、誰も困らないよね)
家族に迷惑をかけないためにも、国を出ようとしたレーヴェ。
だが、魔物の被害に遭い、家と仕事を失った人々を放ってはおけず、レーヴェは炊き出しをすることにした。
そこへ、レーヴェを追いかけてきた者がいた。
『な、なんでわざわざ総大将がっ!?』
同性婚が可能な世界です。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。
拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ
親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。
え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか
※独自の世界線
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる