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家族全員から非難を受けたアネットは、自分の部屋のベッドに身を投げ、顔を覆った。
涙は出ていない。むしろギリギリと歯噛みをする元気があった。
「ひどいわ」
絶対、シルヴィのせいだ。
あんなところで、あんな格好をした王太子殿下と話をしているなんて、ふつうに考えて、ありえない。
テオドールが何かいろいろ言っていたけれど、アネットは興奮していて、よくわからなかった。
よくわからなかったけれど、きっとシルヴィが何かして、アネットを陥れようとしたのだ。
アネットに嫉妬して。
自分にはろくな求婚者がいないから……。
そこまで考えて、「二十四人」という数字が記憶によみがえる。
アネットの三倍。
しかも、公爵家の嫡男や資産家の侯爵まで含まれているらしい。
そんなこと、シルヴィは一言も言ってなかった。
陰で笑っていたのだろうか。
アネットをバカにして……。
「シルヴィお姉様、許さないわ。絶対、仕返ししてやるから」
そうよ……。
なんだかんだ言ったって、家族はみんな末っ子のアネットのことが可愛いのだ。
二日か三日、様子を見てから、ちょっと甘えてみせればコロッと態度を変えるに決まっている。
そしたら、また、「シルヴィお姉様がアネットをバカにする」と言って父や兄に泣きつけばいい。
同じ顔をしていてもシルヴィは甘えるのが下手だ。
バカだなと思う。
甘えられたほうが、みんな嬉しいはずなのに。
優しくしてくれるのに。
覆った手の中で、にやりと笑った。
そんなこともわからないシルヴィに、自分が負けるはずがない。
美しき公爵令嬢は、二人もいらない。
シルヴィはアネットの影になって引っ込んでいればいいのだ。
さっきはちょっと気まずかったし、父は悲観的なことを言っていたけれど、王家と公爵家が正式に交わした婚約が、そう簡単に破棄されるとは思えない。
ジェラルドは、シルヴィと間違えたとかなんとか寝ぼけたことを言っていたが、間違えるくらいなのだから、どっちでもいいということではないか。
面白くはないが、どっちでもいいならアネットでもいいはずだ。
そう言って、父に押し切ってもらえばいい。
妙に冷たく「自業自得だ」と言った父の態度は気になったが、すぐに機嫌は直るはず。
アネットは、自分が王太子妃になっても、絶対にシルヴィを引き立ててなどやるものかと思った。
公爵夫人になったシルヴィを、王太子妃の自分は無視するのだ。
そう思うと少しは気が晴れた。
誰かが部屋を覗くたびに泣きまねをし、運ばれた食事だけはしっかりと食べ、こっそりシャワーも浴びた。
けれど、それ以外は部屋に閉じこもって、ほとぼりが冷めるのを待つことにした。
翌日は学園も休んで部屋に閉じこもっていた。
階下が少し騒がしいなと思いながら、のんびり最新ドレスのカタログを眺めていたアネットは、ドアをノックされて慌てて泣きまねの準備をした。
「アネット……」
ドアを開けたのは母だった。
直接、訪ねてくるなんて珍しい。
「お母様」
顔を上げて、甘えるように手を伸ばす。
その手を握って、母は言った。
「今、王家からの使者の方がいらして、ジェラルド殿下とあなたとの婚約は白紙になりました」
顔に甘えた笑みを貼り付けたまま、アネットは固まった。
「嘘でしょ……」
涙は出ていない。むしろギリギリと歯噛みをする元気があった。
「ひどいわ」
絶対、シルヴィのせいだ。
あんなところで、あんな格好をした王太子殿下と話をしているなんて、ふつうに考えて、ありえない。
テオドールが何かいろいろ言っていたけれど、アネットは興奮していて、よくわからなかった。
よくわからなかったけれど、きっとシルヴィが何かして、アネットを陥れようとしたのだ。
アネットに嫉妬して。
自分にはろくな求婚者がいないから……。
そこまで考えて、「二十四人」という数字が記憶によみがえる。
アネットの三倍。
しかも、公爵家の嫡男や資産家の侯爵まで含まれているらしい。
そんなこと、シルヴィは一言も言ってなかった。
陰で笑っていたのだろうか。
アネットをバカにして……。
「シルヴィお姉様、許さないわ。絶対、仕返ししてやるから」
そうよ……。
なんだかんだ言ったって、家族はみんな末っ子のアネットのことが可愛いのだ。
二日か三日、様子を見てから、ちょっと甘えてみせればコロッと態度を変えるに決まっている。
そしたら、また、「シルヴィお姉様がアネットをバカにする」と言って父や兄に泣きつけばいい。
同じ顔をしていてもシルヴィは甘えるのが下手だ。
バカだなと思う。
甘えられたほうが、みんな嬉しいはずなのに。
優しくしてくれるのに。
覆った手の中で、にやりと笑った。
そんなこともわからないシルヴィに、自分が負けるはずがない。
美しき公爵令嬢は、二人もいらない。
シルヴィはアネットの影になって引っ込んでいればいいのだ。
さっきはちょっと気まずかったし、父は悲観的なことを言っていたけれど、王家と公爵家が正式に交わした婚約が、そう簡単に破棄されるとは思えない。
ジェラルドは、シルヴィと間違えたとかなんとか寝ぼけたことを言っていたが、間違えるくらいなのだから、どっちでもいいということではないか。
面白くはないが、どっちでもいいならアネットでもいいはずだ。
そう言って、父に押し切ってもらえばいい。
妙に冷たく「自業自得だ」と言った父の態度は気になったが、すぐに機嫌は直るはず。
アネットは、自分が王太子妃になっても、絶対にシルヴィを引き立ててなどやるものかと思った。
公爵夫人になったシルヴィを、王太子妃の自分は無視するのだ。
そう思うと少しは気が晴れた。
誰かが部屋を覗くたびに泣きまねをし、運ばれた食事だけはしっかりと食べ、こっそりシャワーも浴びた。
けれど、それ以外は部屋に閉じこもって、ほとぼりが冷めるのを待つことにした。
翌日は学園も休んで部屋に閉じこもっていた。
階下が少し騒がしいなと思いながら、のんびり最新ドレスのカタログを眺めていたアネットは、ドアをノックされて慌てて泣きまねの準備をした。
「アネット……」
ドアを開けたのは母だった。
直接、訪ねてくるなんて珍しい。
「お母様」
顔を上げて、甘えるように手を伸ばす。
その手を握って、母は言った。
「今、王家からの使者の方がいらして、ジェラルド殿下とあなたとの婚約は白紙になりました」
顔に甘えた笑みを貼り付けたまま、アネットは固まった。
「嘘でしょ……」
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