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 いったい、どういうこと?

 アネットも目を見開いていたが、シルヴィも同様だった。

 アネットは、テランスの顔を見て「殿下」と言った。
 それって、いったいどういうこと?

「ち、違うんです……、今のは……っ」

 アネットが引きつった笑いを浮かべてテランスに近づく。

「ま、まさか、ジェラルド殿下がいらっしゃってるとは思わなくて……」
「みすぼらしい人で、すまなかったね」
「そ、そうじゃなくて、私は、その……」

 いつになく、しどろもどろに言葉を探すアネットは、顔には必死に笑顔を貼り付けているが、身体は小刻みに震えていた。
 目を何度かパチパチさせた後で、急に早口で話し始める。

「私を選んでくださって、とても光栄に思っています。直接、お会いしてお礼を言う機会がなかなかなくて、残念に思っていたんです。本当にありがとうございます。時に、婚約披露のための舞踏会ですけど、お父様にお聞きして、とても楽しみに……」
「そのことで、あなたとドニエ公爵に謝らなければならないことがある」

 テランスはサクッとアネットの言葉を遮った。

「あ、謝っていただくようなことは、何もないはずですわ!」

 アネットは叫ぶように言った。

「申し訳ないが、僕は……」
「私は……、王太子殿下の婚約者になれて、本当に光栄に思っています!」

 怖いほどの笑顔でアネットは言い放つ。

 テランスはため息を一つ吐いて、静かに言った。

「あなたと婚約したのは間違いだった」
「間違いで済まされるわけがないでしょう!」
「それはそうだ。しかし、たった今、あなたも言ったではないか。僕のような人間とは関わりたくはないと。それを聞いて、安心した」
「だから、それは……!」
「聞き違いではない。ここにいる、あなたの家族全員が証人だ」

 テオドールがアネットに首を振ってみせる。
 マチルドと両親は視線を伏せ、次兄のクレマンは憐れむような目でアネットを見ていた。

 テランスはエメラルド色の瞳を冷たく光らせて、アネットを見下ろす。

 アネットの唇がわなわなと震えた。
 落ち着きなく視線を彷徨わせたかと思うと、シルヴィに目をとめ、きつく睨んだ。

「そう、わかったわ。シルヴィお姉様なのね……。お姉様が、罠をしかけて、私から殿下を横取りしようとしてるのね! 自分にいい相手が見つからなくて、嫉妬してるんだわ! ジェラルド殿下、これは全部、そこにいるシルヴィお姉様がたくらんだことなんです。私は、何も知らなくて……!」

「アネット、何を言うの?」
「アネット、もうやめなさい」

 シルヴィの声に重ねてアネットを止めたのはテオドールだった。

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