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 週末、シルヴィはテオドールの慈善活動に同行する形で王立病院を訪ねた。
 新しい毛布を購入するための催しがあり、教会と同じように、着なくなったドレスや使わなくなった装身具を販売するバザーも行われていた。
 シルヴィもドレスを四着と髪飾りを十数点、寄付した。

「いいのかい、シルヴィ」
「アネットから、しゅっちゅうお下がりが回ってくるの。あんなにたくさんあっても、着られないから」
「アネットは新しいものが好きだからなぁ」

 毎週のようにパーティーに出かけていくのに、同じドレスは着たくないとアネットは言う。学園の帰りに貴族街で買い物をするのは、もはや日課だ。
 どんどん新しいドレスを買い、いらなくなったドレスはジルヴィに押し付けてくる。
 あげるわ、と押し付けられたドレスで、シルヴィの衣装室はパンパンだった。

 むしろ寄付する先があるとほっとする。

 貴族も平民も交じり合うガーデンパーティーの会場で軽食を摘まんでいると、テオドールの視線が建物のほうに向いた。

「おや、テランスだ」

 兄の言葉にシルヴィも振り返る。
 背の高い青年が、病院長と一緒に正面扉から出てきたところだった。
 相変わらず質素な身なりをしているが、姿勢がよく堂々としているせいか、どことなく威厳や品格を感じる。

 視線を向けていると、テランスがこちらを見た。
 シルヴィと目が合うと、びっくりするほど親し気に甘い笑みを浮かべる。

(な、何……?)

 心臓がドキッと跳ねる。

 病院長と一緒に近くまで来ると、テランスが兄に声をかけた。

「テオドール」
「やあ、テランス。忙しいだろうに、マメだな」
「何、いろいろと把握したいことがあるからな」
「その上、婚約までしたのでは、身体がいくつあっても足りないだろう」

 兄の言葉に、シルヴィの身体が冷水を浴びたように一瞬で冷たくなった。

「きみがあんなに強い結婚願望を持ってたとは、驚きだった。帰国後、即、婚約とは」
「求婚者が殺到していると噂で聞いたんだ。ほかの誰かに取られてしまう前にと思って、少々焦ってしまった」

 テランスがにこりと笑ってシルヴィを見る。甘い微笑にシルヴィは困惑した。

(もしかして、こういう笑い方なの? いつもこうなの?)

 どこか責めるように心の中で呟く。

 だったら、なんて罪作りな人なのだろう。
 シルヴィの心臓は、きゅっと切ない傷みを覚えていた。

 短い会話を交わしただけで、テランスはすぐに病院長のところへ戻り、ほかの参加者たちと話をし始めた。

「相変わらず真面目だな。四年前と少しも変わっていない」

 学園を卒業するまでのテランスは堅物で有名だったのだとテオドールが語る。
 女性に興味などなさそうだったのに、思いもしないスピードで婚約を決めたので驚いたなどと続けた。

「シルヴィ、どうかしたかい?」
「え……?」
「なんだか顔色が悪いよ。少し、疲れたのかな」

 妹思いのテオドールは、「今日はもう帰ろうか」と言って、優しくシルヴィの肩を抱きよせた。
 御者に手を挙げて馬車を近くまで呼ぶ。
 馬車に乗り込むと、なぜだか少し考えるように窓の外を眺め、独り言のように呟いた。

「それにしても、アネットを選んだのは、ちょっと意外だったな……。僕は、シルヴィかと思ってた」
「お兄様……?」

 なぜ急にジェラルド王子とアネットの話をするのか不思議だった。
 かすかに眉を寄せたシルヴィにテオドールは励ますように言葉をかける。

「大丈夫。シルヴィにも、きっといい人が現れるよ」

  
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