15 / 34
15
しおりを挟む
週末、シルヴィはテオドールの慈善活動に同行する形で王立病院を訪ねた。
新しい毛布を購入するための催しがあり、教会と同じように、着なくなったドレスや使わなくなった装身具を販売するバザーも行われていた。
シルヴィもドレスを四着と髪飾りを十数点、寄付した。
「いいのかい、シルヴィ」
「アネットから、しゅっちゅうお下がりが回ってくるの。あんなにたくさんあっても、着られないから」
「アネットは新しいものが好きだからなぁ」
毎週のようにパーティーに出かけていくのに、同じドレスは着たくないとアネットは言う。学園の帰りに貴族街で買い物をするのは、もはや日課だ。
どんどん新しいドレスを買い、いらなくなったドレスはジルヴィに押し付けてくる。
あげるわ、と押し付けられたドレスで、シルヴィの衣装室はパンパンだった。
むしろ寄付する先があるとほっとする。
貴族も平民も交じり合うガーデンパーティーの会場で軽食を摘まんでいると、テオドールの視線が建物のほうに向いた。
「おや、テランスだ」
兄の言葉にシルヴィも振り返る。
背の高い青年が、病院長と一緒に正面扉から出てきたところだった。
相変わらず質素な身なりをしているが、姿勢がよく堂々としているせいか、どことなく威厳や品格を感じる。
視線を向けていると、テランスがこちらを見た。
シルヴィと目が合うと、びっくりするほど親し気に甘い笑みを浮かべる。
(な、何……?)
心臓がドキッと跳ねる。
病院長と一緒に近くまで来ると、テランスが兄に声をかけた。
「テオドール」
「やあ、テランス。忙しいだろうに、マメだな」
「何、いろいろと把握したいことがあるからな」
「その上、婚約までしたのでは、身体がいくつあっても足りないだろう」
兄の言葉に、シルヴィの身体が冷水を浴びたように一瞬で冷たくなった。
「きみがあんなに強い結婚願望を持ってたとは、驚きだった。帰国後、即、婚約とは」
「求婚者が殺到していると噂で聞いたんだ。ほかの誰かに取られてしまう前にと思って、少々焦ってしまった」
テランスがにこりと笑ってシルヴィを見る。甘い微笑にシルヴィは困惑した。
(もしかして、こういう笑い方なの? いつもこうなの?)
どこか責めるように心の中で呟く。
だったら、なんて罪作りな人なのだろう。
シルヴィの心臓は、きゅっと切ない傷みを覚えていた。
短い会話を交わしただけで、テランスはすぐに病院長のところへ戻り、ほかの参加者たちと話をし始めた。
「相変わらず真面目だな。四年前と少しも変わっていない」
学園を卒業するまでのテランスは堅物で有名だったのだとテオドールが語る。
女性に興味などなさそうだったのに、思いもしないスピードで婚約を決めたので驚いたなどと続けた。
「シルヴィ、どうかしたかい?」
「え……?」
「なんだか顔色が悪いよ。少し、疲れたのかな」
妹思いのテオドールは、「今日はもう帰ろうか」と言って、優しくシルヴィの肩を抱きよせた。
御者に手を挙げて馬車を近くまで呼ぶ。
馬車に乗り込むと、なぜだか少し考えるように窓の外を眺め、独り言のように呟いた。
「それにしても、アネットを選んだのは、ちょっと意外だったな……。僕は、シルヴィかと思ってた」
「お兄様……?」
なぜ急にジェラルド王子とアネットの話をするのか不思議だった。
かすかに眉を寄せたシルヴィにテオドールは励ますように言葉をかける。
「大丈夫。シルヴィにも、きっといい人が現れるよ」
新しい毛布を購入するための催しがあり、教会と同じように、着なくなったドレスや使わなくなった装身具を販売するバザーも行われていた。
シルヴィもドレスを四着と髪飾りを十数点、寄付した。
「いいのかい、シルヴィ」
「アネットから、しゅっちゅうお下がりが回ってくるの。あんなにたくさんあっても、着られないから」
「アネットは新しいものが好きだからなぁ」
毎週のようにパーティーに出かけていくのに、同じドレスは着たくないとアネットは言う。学園の帰りに貴族街で買い物をするのは、もはや日課だ。
どんどん新しいドレスを買い、いらなくなったドレスはジルヴィに押し付けてくる。
あげるわ、と押し付けられたドレスで、シルヴィの衣装室はパンパンだった。
むしろ寄付する先があるとほっとする。
貴族も平民も交じり合うガーデンパーティーの会場で軽食を摘まんでいると、テオドールの視線が建物のほうに向いた。
「おや、テランスだ」
兄の言葉にシルヴィも振り返る。
背の高い青年が、病院長と一緒に正面扉から出てきたところだった。
相変わらず質素な身なりをしているが、姿勢がよく堂々としているせいか、どことなく威厳や品格を感じる。
視線を向けていると、テランスがこちらを見た。
シルヴィと目が合うと、びっくりするほど親し気に甘い笑みを浮かべる。
(な、何……?)
心臓がドキッと跳ねる。
病院長と一緒に近くまで来ると、テランスが兄に声をかけた。
「テオドール」
「やあ、テランス。忙しいだろうに、マメだな」
「何、いろいろと把握したいことがあるからな」
「その上、婚約までしたのでは、身体がいくつあっても足りないだろう」
兄の言葉に、シルヴィの身体が冷水を浴びたように一瞬で冷たくなった。
「きみがあんなに強い結婚願望を持ってたとは、驚きだった。帰国後、即、婚約とは」
「求婚者が殺到していると噂で聞いたんだ。ほかの誰かに取られてしまう前にと思って、少々焦ってしまった」
テランスがにこりと笑ってシルヴィを見る。甘い微笑にシルヴィは困惑した。
(もしかして、こういう笑い方なの? いつもこうなの?)
どこか責めるように心の中で呟く。
だったら、なんて罪作りな人なのだろう。
シルヴィの心臓は、きゅっと切ない傷みを覚えていた。
短い会話を交わしただけで、テランスはすぐに病院長のところへ戻り、ほかの参加者たちと話をし始めた。
「相変わらず真面目だな。四年前と少しも変わっていない」
学園を卒業するまでのテランスは堅物で有名だったのだとテオドールが語る。
女性に興味などなさそうだったのに、思いもしないスピードで婚約を決めたので驚いたなどと続けた。
「シルヴィ、どうかしたかい?」
「え……?」
「なんだか顔色が悪いよ。少し、疲れたのかな」
妹思いのテオドールは、「今日はもう帰ろうか」と言って、優しくシルヴィの肩を抱きよせた。
御者に手を挙げて馬車を近くまで呼ぶ。
馬車に乗り込むと、なぜだか少し考えるように窓の外を眺め、独り言のように呟いた。
「それにしても、アネットを選んだのは、ちょっと意外だったな……。僕は、シルヴィかと思ってた」
「お兄様……?」
なぜ急にジェラルド王子とアネットの話をするのか不思議だった。
かすかに眉を寄せたシルヴィにテオドールは励ますように言葉をかける。
「大丈夫。シルヴィにも、きっといい人が現れるよ」
54
お気に入りに追加
5,781
あなたにおすすめの小説
妹ばかりを贔屓し溺愛する婚約者にウンザリなので、わたしも辺境の大公様と婚約しちゃいます
新世界のウサギさん
恋愛
わたし、リエナは今日婚約者であるローウェンとデートをする予定だった。
ところが、いつになっても彼が現れる気配は無く、待ちぼうけを喰らう羽目になる。
「私はレイナが好きなんだ!」
それなりの誠実さが売りだった彼は突如としてわたしを捨て、妹のレイナにぞっこんになっていく。
こうなったら仕方ないので、わたしも前から繋がりがあった大公様と付き合うことにします!
婚約者の心の声が聞こえるようになったけど、私より妹の方がいいらしい
今川幸乃
恋愛
父の再婚で新しい母や妹が出来た公爵令嬢のエレナは継母オードリーや義妹マリーに苛められていた。
父もオードリーに情が移っており、家の中は敵ばかり。
そんなエレナが唯一気を許せるのは婚約相手のオリバーだけだった。
しかしある日、優しい婚約者だと思っていたオリバーの心の声が聞こえてしまう。
”またエレナと話すのか、面倒だな。早くマリーと会いたいけど隠すの面倒くさいな”
失意のうちに街を駆けまわったエレナは街で少し不思議な青年と出会い、親しくなる。
実は彼はお忍びで街をうろうろしていた王子ルインであった。
オリバーはマリーと結ばれるため、エレナに婚約破棄を宣言する。
その後ルインと正式に結ばれたエレナとは裏腹に、オリバーとマリーは浮気やエレナへのいじめが露見し、貴族社会で孤立していくのであった。
【完結】殿下が倹約に目覚めて婚約破棄されました〜結婚するなら素朴な平民の娘に限る?では、王室に貸した国家予算の八割は回収しますので
冬月光輝
恋愛
大資産家であるバーミリオン公爵家の令嬢、ルージア・バーミリオンは突然、王国の皇太子マークスに婚約破棄される。
「前から思ってたんだけど、君って贅沢だよね?」
贅沢に溺れる者は国を滅ぼすと何かの本で読んだマークスは高級品で身を固めているルージアを王室に害をもたらすとして、実家ごと追放しようと目論む。
しかし、マークスは知らない。
バーミリオン公爵家が既に王室を遥かに上回る財を築いて、国家予算の八割を貸しつけていることを。
「平民の娘は素朴でいい。どの娘も純な感じがして良かったなぁ」
王子という立場が絶対だと思い込んでいるマークスは浮気を堂々と告白し、ルージアの父親であるバーミリオン公爵は激怒した。
「爵位を捨てて別の国に出ていきますから、借金だけは返してもらいますぞ」
マークスは大好きな節約を強いられることになる――
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
婚約破棄ですか、すでに解消されたはずですが
ふじよし
恋愛
パトリツィアはティリシス王国ラインマイヤー公爵の令嬢だ。
隣国ルセアノ皇国との国交回復を祝う夜会の直前、パトリツィアは第一王子ヘルムート・ビシュケンスに婚約破棄を宣言される。そのかたわらに立つ見知らぬ少女を自らの結婚相手に選んだらしい。
けれど、破棄もなにもパトリツィアとヘルムートの婚約はすでに解消されていた。
※現在、小説家になろうにも掲載中です
継母や義妹に家事を押し付けられていた灰被り令嬢は、嫁ぎ先では感謝されました
今川幸乃
恋愛
貧乏貴族ローウェル男爵家の娘キャロルは父親の継母エイダと、彼女が連れてきた連れ子のジェーン、使用人のハンナに嫌がらせされ、仕事を押し付けられる日々を送っていた。
そんなある日、キャロルはローウェル家よりもさらに貧乏と噂のアーノルド家に嫁に出されてしまう。
しかし婚約相手のブラッドは家は貧しいものの、優しい性格で才気に溢れていた。
また、アーノルド家の人々は家事万能で文句ひとつ言わずに家事を手伝うキャロルに感謝するのだった。
一方、キャロルがいなくなった後のローウェル家は家事が終わらずに滅茶苦茶になっていくのであった。
※4/20 完結していたのに完結をつけ忘れてましたので完結にしました。
今まで尽してきた私に、妾になれと言うんですか…?
水垣するめ
恋愛
主人公伯爵家のメアリー・キングスレーは公爵家長男のロビン・ウィンターと婚約していた。
メアリーは幼い頃から公爵のロビンと釣り合うように厳しい教育を受けていた。
そして学園に通い始めてからもロビンのために、生徒会の仕事を請け負い、尽していた。
しかしある日突然、ロビンは平民の女性を連れてきて「彼女を正妻にする!」と宣言した。
そしえメアリーには「お前は妾にする」と言ってきて…。
メアリーはロビンに失望し、婚約破棄をする。
婚約破棄は面子に関わるとロビンは引き留めようとしたが、メアリーは婚約破棄を押し通す。
そしてその後、ロビンのメアリーに対する仕打ちを知った王子や、周囲の貴族はロビンを責め始める…。
※小説家になろうでも掲載しています。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる