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 王室主催の舞踏会――ボールは、さすがの豪華さだった。
 参加者が二百人程度のダンスパーティーを舞踏会ボールと呼ぶ人もいるけれど、正式にボールと呼ぶには五百人以上の参加者がいなくては。
 
 アネットは舞踏会に参加できる、あるいは開ける程度の貴族でなければ、貴族とは言えないのではないかと思う。
 このまえ覗いた慈善パーティーみたいので満足している人たちの仲間にはなりたくないなと思った。

「お兄様、ジェラルド様はどこ?」
「今日は彼が主役のようなものだから、国王陛下と王后陛下のお出まし後になるかもしれないな」

 テオドールの予想通り、両陛下がまず現れて正面の一段高くなった席に立ってお言葉を述べ、そこで紹介される形で、「留学から戻ったばかりの王太子」ジェラルドが入室した。 

 その瞬間、わっとホール中に歓声が響いた。

「美しい方だとお聞きしていましたけど、本当に素敵……」
「背もお高くて、騎士物語の主人公のようですわね」

 令嬢だけでなく、夫人たちまで声のトーンを一段上げて、うっとりとジェラルドに視線を向ける。

 やがて楽士たちが音楽を奏で始めると、王と王妃が最初のダンスをジェラルドに譲った。
 中央に進み出たジェラルドがぐるりと周囲を見回す。

 テオドールに軽く笑みを向けた後、アネットの前に来て膝を突き手を差し出した。
 ホール全体がどよめく。

「ドニエ公爵家の……」
「やっぱり、ドニエ公爵家か」
「あれは、アネット? それとも、シルヴィ?」

 人々が固唾をのんで見守る中、魅惑の笑みを浮かべた王太子ジェラルドが言葉を発した。

「踊っていただけますか? アネット嬢」

 頬を紅潮させ、目をらんらんと光らせて、アネットは「もちろんですわ」と答えた。
 そして、ジェラルドの手を取った。

(やったわ! わかってたことだけど、やっぱり私が選ばれた! シルヴィではなく、私が!)

 ジェラルドは、はっきりと「アネット」と言った。
 念のためシルヴィが来ないように画策しておいたが、その必要もなかったのだ。
 
 もし別の令嬢がダンスに誘われたら、後で悪い噂を流そうと思って何人かの弱みを握っておいた。
 それも無駄になりそうだ……。

 こんなにうまくいくなんて。

 ジェラルドのリードで羽のように軽やかにダンスを踊りながら、アネットは最高の気分を味わっていた。

 しかも、翌日には王宮から内内に婚約の打診があった。
 父、ドニエ公爵に話を聞いたアネットが、飛びつくように了承したのは言うまでもない。
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