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貴族街で買いたいものがあるというアネットと別れて、シルヴィは城に帰った。
王都の郊外にあるドニエ公爵家の城から学園までは、馬車で通っている。いつも一緒というわけではないので、シルヴィとアネットにはそれぞれ小型の馬車が与えられていた。
一頭立ての小さな馬車で王都の石畳を走っていると、四辻になっているあたりで馬がヒヒーンといなないた。
馬車が急停車して、シルヴィは前のめりにつんのめった。
「どうかしたの?」
「人を撥ねそうになって」
「まあ!」
急いで馬車を下りたシルヴィは、道に倒れている質素な身なりの青年に駆け寄った。
「ごめんなさい。大丈夫ですか?」
青年が顔を上げた。
艶のある栗色の髪は少し乱れているが、美しい顔立ちの青年だった。
朝の森のような緑色の瞳が印象的だ。
「本当に、ごめんなさい」
心配で覗き込むシルヴィに青年は軽く笑って首を振った。
「よそ見をしていた僕がいけなかったんです」
「お怪我は?」
「大丈夫です。ありがとう」
よく見ると、転んだ時に突いたのか、右手を少し擦りむいている。
「血が出ているわ」
シルヴィはポーチからハンカチを出して青年の右手に当てた。
「汚してしまう」
「いいんです。これは差し上げますから、早めに傷を洗ってくださいね」
シルヴィがかすかに微笑むと、青年の緑の目がパチリと瞬いた。
「あなたは……?」
「ドニエ公爵家の者です。もし何かあったら、ドニエ公爵家まで連絡をください」
青年が立ち上がり、手のほかはどこも怪我がないことをシルヴィに示す。
シルヴィはほっとしてにこりと笑った。
どこかぼうっとした様子で青年が微笑み返した。
本当にごめんなさい、ともう一度謝って、シルヴィは馬車に戻った。
王都の郊外にあるドニエ公爵家の城から学園までは、馬車で通っている。いつも一緒というわけではないので、シルヴィとアネットにはそれぞれ小型の馬車が与えられていた。
一頭立ての小さな馬車で王都の石畳を走っていると、四辻になっているあたりで馬がヒヒーンといなないた。
馬車が急停車して、シルヴィは前のめりにつんのめった。
「どうかしたの?」
「人を撥ねそうになって」
「まあ!」
急いで馬車を下りたシルヴィは、道に倒れている質素な身なりの青年に駆け寄った。
「ごめんなさい。大丈夫ですか?」
青年が顔を上げた。
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朝の森のような緑色の瞳が印象的だ。
「本当に、ごめんなさい」
心配で覗き込むシルヴィに青年は軽く笑って首を振った。
「よそ見をしていた僕がいけなかったんです」
「お怪我は?」
「大丈夫です。ありがとう」
よく見ると、転んだ時に突いたのか、右手を少し擦りむいている。
「血が出ているわ」
シルヴィはポーチからハンカチを出して青年の右手に当てた。
「汚してしまう」
「いいんです。これは差し上げますから、早めに傷を洗ってくださいね」
シルヴィがかすかに微笑むと、青年の緑の目がパチリと瞬いた。
「あなたは……?」
「ドニエ公爵家の者です。もし何かあったら、ドニエ公爵家まで連絡をください」
青年が立ち上がり、手のほかはどこも怪我がないことをシルヴィに示す。
シルヴィはほっとしてにこりと笑った。
どこかぼうっとした様子で青年が微笑み返した。
本当にごめんなさい、ともう一度謝って、シルヴィは馬車に戻った。
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