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 父の書斎から出たブリジットは、クロードの来訪を知らされて居間に向かった。
 居間にはメリザンドもいて、何やらはしゃいだ声で話している。クロードを見ると、どこか疲れたようなウンザリした表情を浮かべていた。

「ブリジット!」

 救いの女神を発見したとでもいうように顔を輝かせたクロードが、さっと立ち上がる。
 メリザンドはバカにしたようにブリジットを振り向いた。

「お父様から叱られて大変だったわね」
「叱られていたわけじゃないわ。あなたのことで話し合っていたのよ」
「私のことで?」

 本気でわかっていない様子に、ため息が出そうになる。
 この子は本当にバカなのだ。

「ダニオとかいう低俗な新聞を売る新聞売りに、今回の記事のことでお父様がクレームを入れたの」

 ふだん、そんな新聞があることも知らなかった父だが、取引先の某氏から、どうもお宅のお嬢さんのことが書かれているようだとペラい新聞を見せられたという。
 はっきりとエモニエ子爵家のブリジットだとわかる書き方に、父は激怒した。
 すぐに自らダニオを捕まえに行き、書いたのは誰かと問い詰めた。

『ふつうは教えないんですけどね。今回は、特別な状況だから、教えておきます』

 そう言ってダニオが口にした名前に、父はさらに激怒した。
 あまりに腹が立ったので、冷静になるために、まずはブリジットに相談したのが、先ほどの会合である。

「結論から言うと、あなたはカシミロの修道院に行くことになったわ」
「え? 何を言ってるの? お姉様……」
「お父様は、今は直接話す気もないらしいから、私から言うわ。あなたがしたことは、人としても貴族としてもとても恥ずべき事よ。ああいう記事を書くことを仕事にしている人もいるけど、あなたの書き方は、あまりにも人をバカにし過ぎている。書かれた人が怒らないはずがないでしょう」
「だって、バカなことをするから書かれるんじゃない」
「それでも、書き方というものがあるわよ。小さな失敗を見つけて、鬼の首でも取ったように徹底的に笑い者にする。自分がたまたま知っていることを知らない人がいることが、そんなに楽しい? その人をみんなで笑うことがそんなに嬉しい? あなただって、知らないことくらいいくらでもあるでしょう?」

 はっ、とメリザンドは笑った。

「自分の無知を笑われたのが、そんなに悔しいの? お姉様」
「無知を恥だとは思っていません」
「負け惜しみを言うのはみっともないわよ」
「負け惜しみだと思うのはあなたの勝手だけど、知らないことがあるのは恥ずかしいじゃないと、私は本気で思ってるわよ。だって、知らないことは調べたり人に教えてもらったりすれば済むことでしょう? 知らなかったり間違えたりした人に正しい知識を教えもしないで、バカにして笑うほうが恥ずかしいことだと思うわ」

 メリザンドはプイッと横を向いた。
 考えることから逃げたのだと思った。

「とにかく、事が公になればお父様の事業にも影響が出るかもしれないし、あなたには遠くに行ってもらうことになったから」
「嫌よ! 何で、私が!」
「もう決まったの。カシミロの修道院は厳しいところだから、覚悟しなさい」
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