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第一章 静かな目覚め
9. 外泊
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レヴィルは僕に寝かしつけられた事を悔しそうにしていたが、怒りはしなかった。そしてその晩から慌ただしく仕事をし、僕の体調がすっかり良くなったのを確認して、翌々日には王都へ帰っていった。
以前は兄が居なくなるとあまりにも寂しくて数日は落ち込んでしまっていたが、今回は僕が寂しいと素直に言ったので、出発直前までたくさん甘やかして貰えた。もちろん寂しいけど落ち込むほどではない。レヴィルを安心させるためにも、今は自分にできる事を精一杯やるしかない。
僕は日常に戻り、季節は新緑の節を迎えようとしていた。
「ティト様、ハリス様よりお手紙が届きました。」
「あ、ありがとう。」
朝食の場にアズレトが手紙とペーパーナイフをトレイに乗せて持ってきた。僕はそれを受け取る。宛名に書かれた彼の美しい文字を確認して、封は開けずにそっとテーブルの隅に置いた。
「ご覧にならないのですか?」
僕の向かいに座っていたリノが首を傾げながらそう聞いてきた。僕はなんとも言えない顔で笑う。
「なんとなくリノの前でハリスの手紙を見るのは申し訳なくて…。」
僕は肩をすくめて食事を再開した。
僕がレヴィルとリノと婚約者になった事で、日常にいくつかの変化があった。そのひとつが食事だ。リノは給仕服ではなく私服を着るようになり、食事も一緒に食べてくれる様になった。僕は彼との食事が楽しいからか、かなりの食事量を食べれるようになっていた。
今までは気にしていなかったが、リノはもう僕の婚約者だ。いくら何人もの恋人や妻を持つことを義務付けられてるとは言っても、求婚した相手に他の相手とのやり取りを見られるのはやはり申し訳なかった。
リノはきょとんとした顔をした後にくすりと笑った。
「気になさらなくても大丈夫ですよ。」
「…そう言われるのはそれはそれで微妙だよ…。」
「そうですか?」
今後、僕に良い相手を見つけるのは妻になるレヴィルとリノの仕事だ。リノとレヴィルは、僕とは10歳の年の差がある。保護者であった時間が長かったから、まだ僕は2人から男性の扱いを受けていない様に思う。もしかすると僕が他のエバを相手にしていてもあまり気にしないのかもしれない。
「僕が他の人に夢中になっても、リノは全然気にしないって言われてるみたいで複雑になる…。」
「えっ違いますよ。」
リノはびっくりしたように目を丸くした。
「私はハリス様にお優しいティト様が素敵だとと思っているんですよ。だからハリス様と一緒にいらっしゃるティト様を拝見するのが好きなだけです。」
「そう、なの…?」
「はい。」
「じゃあ僕が他の人に夢中になったら嫉妬する?」
「うーん、そうですね…ティト様を独り占めする事はできないので、貴方に妻や恋人が何人できても嫌じゃないですけど…私のことを見てくださらなくなったら悲しくなってしまうと思います。」
リノはうーんと悩む仕草をした後、そう答えた。僕は嬉しくて思わずふにゃっとした笑顔になる。
「リノの事を見なくなるなんて絶対ないよ。」
「ありがとうございます…嬉しい。」
優しく笑うリノに思わずきゅんとしてしまった。僕は頷く拍子に思わず紅茶をごくんと嚥下する。
「ティト様?」
「早くデートに行きたいなって思って。」
「ふふ、今日はたくさん楽しみましょうね。」
「うん。」
僕は素直にこくりと頷いた。そう、今日はリノとデートだ。しかも初めての泊まりがけだ。今までは精々屋敷の庭や近くの村へ散歩する程度だったのだが、最近僕の様子が随分と落ち着いて来ているのでレヴィルから宿泊の許可がでたのだ。僕はずっと楽しみにしていたデートに気が逸っていた。
食後のお茶が運ばれてきたあたりで、僕はリノの気遣いに甘えてハリスからの手紙を読むことにした。ペーパーナイフで封を開ける。便箋からは少し花の香りがするような気がした。
僕はハリスにレヴィルとリノが正式に婚約者になった事を報告していた。彼に伝えないのは不誠実だと思ったからだ。
ハリスは手紙で2人と婚約者になった事を素直に祝ってくれていた。そして、自分のことを気に病んだりしないでほしい。どんな貴方でも好きだし、待っています。という旨が書かれていた。
彼は本当に純粋で良い子だ。できれば彼の想いにちゃんと誠実に答えてあげたいなという思いと、全幅の信頼を寄せてくれている事に少し責任を感じる。
僕は読み終わった手紙を丁寧にしまい、またアズレトに預けた。僕の私室に運んでくれるはずだ。
「ハリス様はなんて?」
リノは紅茶を飲みながら微笑んだ。
「婚約のお祝いと自分の事を気に病んだりしないでほしいと。あとは今度パーティーで僕に会えるのを楽しみにしてくれているみたい。」
「そうですか、ハリス様は本当に心根の優しい方ですね。」
「うん、本当にそう思う。」
僕は頷いた。
「ティト様はハリス様の事を妻に迎えたいと思っていらっしゃいますか?」
「…分からない。でもハリスは純真な子だから、彼が望むならできればそうしてあげたいとは思う。」
「そうですね。」
「それに……きっと彼は社交界デビューする前に僕に抱かれたいと思ってくれているから…それを叶えて上げられればいいのになって思う。」
「そう、ですか。」
リノは少し悩むように返事をした。僕がこういったことについてリノの前で発言するのは初めてだ。ハリスの想いを叶えるにはクリアしなくてはいけない事がいくつもある。僕が思い悩むようにテーブルを見つめていると、リノの手が僕の手に重なった。
「ティト様、焦らずに少しずつ進んでいきましょう。」
「うん…。」
「まずは、今日の私とのデートを目いっぱい楽しむところからですよ。」
「うん、そうだね。」
僕たちは微笑みあった。そしてしばらく休憩をした後にデートに出発をすることにした。
エントランスに出て、僕はコットン生地のチェスターコートを羽織った。リノは優雅なシルエットのケープコートだ。彼はアッシュブラウンの髪をざっくりと三つ編みにして金の髪飾りで留めていた。この髪飾りは前のデートの時に似合ってるねと褒めたものだ。オリーブ色のスプリングコートも相まってすごく可愛い。小さい頃からほとんどリノの従者服姿しか見た事がなかったので最近は毎日が新鮮だ。
「リノ、今日のコートも髪型もすっごく素敵だね。髪飾りも素敵だ。」
「ふふ、ありがとうございます。ティト様も素敵ですよ。」
「ありがとう。」
僕たちはお互いの服を褒めあって屋敷の外に出る。外にはガッシリとした大柄の男性と御者が待っていた。
「ジェイデン、今日は付き合ってくれてありがとう。よろしくね。」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。」
体格の良い短髪の男性は少し微笑んで会釈をした。
僕は御者にも声をかけてから、リノをエスコートして馬車に乗り込む。ジェイデンは身軽な所作で馬の背に乗った。
ジェイデンはこの春から僕の剣術と体術の教師と護衛の兼任として来てくれた人だ。今回の外泊は彼もついて行く事を条件にレヴィルとアズレトから許しが出た。
彼が来てくれたおかげで僕の行動範囲は各段に広がった。それに剣術と体術の稽古を初めたからか、急に身長も伸び始めている。
僕たちがしっかりと乗り込んだ事を確認して御者が馬車を出発させた。その後ろにジェイデンが続く。
「僕、クーペルーベンに行くの、お母様と行った時以来だよ。」
「ええ、私もその時にお供して以来です。すごく楽しみですね。」
僕は頷いた。
クーペルーベンはこの領地にあるリゾート地の名前だ。僕たちの屋敷と王都のちょうど間にあって、この屋敷からは馬車で40分ほどの距離だ。王都からも1時間半程度で行ける場所にあるので、社交界シーズンに王都に上がった貴族たちが、余暇にこぞって遊びに行く人気の場所だ。
今日はそのクーペルーベンにあるヴィラの視察を兼ねたお泊まりデートの予定だ。
「僕、やっぱりスパが楽しみだなぁ。」
「ええ、私もです。今日は貸し切りの所だけですけど、楽しみましょうね。」
「うん。」
僕の家では、毎年初夏にガーデンパーティを開いていた。うちの屋敷の庭は初夏が本当に美しいので、庭を自慢をしたかった母が僕の誕生日パーティーと託けて王都に来ている知人たちを招待していたのだ。
母の死後はパーティー自体を行っていなかったが、今年は僕とレヴィルとリノの婚約を発表するために久しぶりに開催する事になった。招待するのは母の時代とは違い、極々近しい方のみのささやかなパーティーだ。
昔は、招待客を屋敷に宿泊させていたが、レヴィルとリノが僕の負担を心配してくれた。そのため今年は招待客をクーペルーベンの宿泊施設にご招待をする事になったのだ。
「レヴィルも来れたら良かったのにね。」
「ふふ、相当残念そうにしてたようですよ。」
「そっか。」
僕は笑って頷く。ちょっと意地悪だが、僕はレヴィルが今回来れない事を残念に思ってくれているのが少し嬉しかった。少なからず僕と一緒に居たいと思ってくれているという事だ。
僕が笑ってリノの方を見ると、リノは僕の事をじっと見ていた。
「リノ?」
「ティト様、今日はレヴィル様の事じゃなくて私を見てくださらないと…焼き餅焼いちゃいます。」
リノは少しほっぺたを膨らませた。その素振りがいつも大人なリノには珍しくてすごく可愛い。
「ごめん、今日はリノの事だけを考えるよ。」
僕は慌ててリノに謝罪をした。
謝罪をしつつもリノが焼き餅を焼いてくれるのが嬉しかった。僕は思わずリノを引き寄せて、彼の柔らかな髪にキスを落とす。
「今日は…1日リノと恋人らしく過ごしたいな…。」
「…はい。」
恥ずかしそうなリノがいじらしくて、僕は思わず身を乗り出してリノに唇を重ねる。
何だかそれだけじゃ足りなくて僕はリノの足を少し持ち上げ、僕の上に跨がらせた。そしてリノのケープをたくし上げて、なだらかな腰を優しく撫であげる。
「ん…ティト様、馬車の中じゃ、危ないです。」
「うん…ちょっとだけ。首に捕まってて。」
「あ…ティト様……んっ…。」
リノの手を僕の首に絡めさせて、そのまま吸い上げる様にキスをする。流石に馬車の揺れもあるので余り深く絡めずに何度も何度も口付けを重ねてバードキスをした。車内にはちゅっちゅっというリップ音が響く。
僕はリノとのキスを堪能しながら、ゆっくりと彼の尻へ手を滑らせた。柔らかな感触を楽しみながら、スラックス越しになるべくソフトタッチにゆっくりと尻たぶを揉む。
「ん……。」
「気持ちいい?」
僕は囁きながら、彼の尻をなぞる様に揉んだ。時々指が会陰部を撫でるとリノから声が漏れる。
「ぁ…気持ち、良いから…だめです…。」
彼は吐息混じりの声で答えた。刺激から逃れる様に腰をゆらゆらと揺らす。その艶かしい姿に僕は堪らずに、彼の腰を引き寄せてお互いのものをすり合わせた。
「ぁっ…ティト様…だめ…。」
リノは頬を紅潮させてふるふると首を振った。こんな状態なのに彼はフェロモンの匂いをさせてくれていない。
僕とリノは婚約者になってから毎日一緒に過ごしている事もあり、日常的にキスをする様になっていた。けれど、それ以上の事はまだ許してもらえていない。僕がフェロモンで具合を悪くしたら困るからと頑なに拒否されてしまっているのだ。僕は切なくて思わず懇願するように声を絞り出す。
「リノ…先に進みたいよ…。」
「…っ…だめ……。」
リノは頑なに首を振って僕を拒んだ。僕は諦めた様にため息をついて、宥める様にリノの背中を撫でた。
「…分かった。もうしないよ。」
背中からそっと手を離す。導くようにエスコートすると彼はゆっくりと隣の席に戻った。
「ごめんね。」
「いえ、私こそ…。」
リノは乱れた息を整えて、髪をそっと直す。僕には彼も明らかに名残惜しそうにしているように思えた。お互い我慢比べになってしまっている。
僕は堪らなくてリノをそっと抱き寄せた。彼もそれには抵抗せずにそっと僕に頭を寄せる。
「リノ…ヴィラについたら、もう少し触れていい?」
「……。」
リノは僕の肩に顔を埋めるだけで、何も言わなかった。
僕たちは灯ってしまった熱を慰め合うようにそっと寄り添って馬車の旅を過ごした。
以前は兄が居なくなるとあまりにも寂しくて数日は落ち込んでしまっていたが、今回は僕が寂しいと素直に言ったので、出発直前までたくさん甘やかして貰えた。もちろん寂しいけど落ち込むほどではない。レヴィルを安心させるためにも、今は自分にできる事を精一杯やるしかない。
僕は日常に戻り、季節は新緑の節を迎えようとしていた。
「ティト様、ハリス様よりお手紙が届きました。」
「あ、ありがとう。」
朝食の場にアズレトが手紙とペーパーナイフをトレイに乗せて持ってきた。僕はそれを受け取る。宛名に書かれた彼の美しい文字を確認して、封は開けずにそっとテーブルの隅に置いた。
「ご覧にならないのですか?」
僕の向かいに座っていたリノが首を傾げながらそう聞いてきた。僕はなんとも言えない顔で笑う。
「なんとなくリノの前でハリスの手紙を見るのは申し訳なくて…。」
僕は肩をすくめて食事を再開した。
僕がレヴィルとリノと婚約者になった事で、日常にいくつかの変化があった。そのひとつが食事だ。リノは給仕服ではなく私服を着るようになり、食事も一緒に食べてくれる様になった。僕は彼との食事が楽しいからか、かなりの食事量を食べれるようになっていた。
今までは気にしていなかったが、リノはもう僕の婚約者だ。いくら何人もの恋人や妻を持つことを義務付けられてるとは言っても、求婚した相手に他の相手とのやり取りを見られるのはやはり申し訳なかった。
リノはきょとんとした顔をした後にくすりと笑った。
「気になさらなくても大丈夫ですよ。」
「…そう言われるのはそれはそれで微妙だよ…。」
「そうですか?」
今後、僕に良い相手を見つけるのは妻になるレヴィルとリノの仕事だ。リノとレヴィルは、僕とは10歳の年の差がある。保護者であった時間が長かったから、まだ僕は2人から男性の扱いを受けていない様に思う。もしかすると僕が他のエバを相手にしていてもあまり気にしないのかもしれない。
「僕が他の人に夢中になっても、リノは全然気にしないって言われてるみたいで複雑になる…。」
「えっ違いますよ。」
リノはびっくりしたように目を丸くした。
「私はハリス様にお優しいティト様が素敵だとと思っているんですよ。だからハリス様と一緒にいらっしゃるティト様を拝見するのが好きなだけです。」
「そう、なの…?」
「はい。」
「じゃあ僕が他の人に夢中になったら嫉妬する?」
「うーん、そうですね…ティト様を独り占めする事はできないので、貴方に妻や恋人が何人できても嫌じゃないですけど…私のことを見てくださらなくなったら悲しくなってしまうと思います。」
リノはうーんと悩む仕草をした後、そう答えた。僕は嬉しくて思わずふにゃっとした笑顔になる。
「リノの事を見なくなるなんて絶対ないよ。」
「ありがとうございます…嬉しい。」
優しく笑うリノに思わずきゅんとしてしまった。僕は頷く拍子に思わず紅茶をごくんと嚥下する。
「ティト様?」
「早くデートに行きたいなって思って。」
「ふふ、今日はたくさん楽しみましょうね。」
「うん。」
僕は素直にこくりと頷いた。そう、今日はリノとデートだ。しかも初めての泊まりがけだ。今までは精々屋敷の庭や近くの村へ散歩する程度だったのだが、最近僕の様子が随分と落ち着いて来ているのでレヴィルから宿泊の許可がでたのだ。僕はずっと楽しみにしていたデートに気が逸っていた。
食後のお茶が運ばれてきたあたりで、僕はリノの気遣いに甘えてハリスからの手紙を読むことにした。ペーパーナイフで封を開ける。便箋からは少し花の香りがするような気がした。
僕はハリスにレヴィルとリノが正式に婚約者になった事を報告していた。彼に伝えないのは不誠実だと思ったからだ。
ハリスは手紙で2人と婚約者になった事を素直に祝ってくれていた。そして、自分のことを気に病んだりしないでほしい。どんな貴方でも好きだし、待っています。という旨が書かれていた。
彼は本当に純粋で良い子だ。できれば彼の想いにちゃんと誠実に答えてあげたいなという思いと、全幅の信頼を寄せてくれている事に少し責任を感じる。
僕は読み終わった手紙を丁寧にしまい、またアズレトに預けた。僕の私室に運んでくれるはずだ。
「ハリス様はなんて?」
リノは紅茶を飲みながら微笑んだ。
「婚約のお祝いと自分の事を気に病んだりしないでほしいと。あとは今度パーティーで僕に会えるのを楽しみにしてくれているみたい。」
「そうですか、ハリス様は本当に心根の優しい方ですね。」
「うん、本当にそう思う。」
僕は頷いた。
「ティト様はハリス様の事を妻に迎えたいと思っていらっしゃいますか?」
「…分からない。でもハリスは純真な子だから、彼が望むならできればそうしてあげたいとは思う。」
「そうですね。」
「それに……きっと彼は社交界デビューする前に僕に抱かれたいと思ってくれているから…それを叶えて上げられればいいのになって思う。」
「そう、ですか。」
リノは少し悩むように返事をした。僕がこういったことについてリノの前で発言するのは初めてだ。ハリスの想いを叶えるにはクリアしなくてはいけない事がいくつもある。僕が思い悩むようにテーブルを見つめていると、リノの手が僕の手に重なった。
「ティト様、焦らずに少しずつ進んでいきましょう。」
「うん…。」
「まずは、今日の私とのデートを目いっぱい楽しむところからですよ。」
「うん、そうだね。」
僕たちは微笑みあった。そしてしばらく休憩をした後にデートに出発をすることにした。
エントランスに出て、僕はコットン生地のチェスターコートを羽織った。リノは優雅なシルエットのケープコートだ。彼はアッシュブラウンの髪をざっくりと三つ編みにして金の髪飾りで留めていた。この髪飾りは前のデートの時に似合ってるねと褒めたものだ。オリーブ色のスプリングコートも相まってすごく可愛い。小さい頃からほとんどリノの従者服姿しか見た事がなかったので最近は毎日が新鮮だ。
「リノ、今日のコートも髪型もすっごく素敵だね。髪飾りも素敵だ。」
「ふふ、ありがとうございます。ティト様も素敵ですよ。」
「ありがとう。」
僕たちはお互いの服を褒めあって屋敷の外に出る。外にはガッシリとした大柄の男性と御者が待っていた。
「ジェイデン、今日は付き合ってくれてありがとう。よろしくね。」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。」
体格の良い短髪の男性は少し微笑んで会釈をした。
僕は御者にも声をかけてから、リノをエスコートして馬車に乗り込む。ジェイデンは身軽な所作で馬の背に乗った。
ジェイデンはこの春から僕の剣術と体術の教師と護衛の兼任として来てくれた人だ。今回の外泊は彼もついて行く事を条件にレヴィルとアズレトから許しが出た。
彼が来てくれたおかげで僕の行動範囲は各段に広がった。それに剣術と体術の稽古を初めたからか、急に身長も伸び始めている。
僕たちがしっかりと乗り込んだ事を確認して御者が馬車を出発させた。その後ろにジェイデンが続く。
「僕、クーペルーベンに行くの、お母様と行った時以来だよ。」
「ええ、私もその時にお供して以来です。すごく楽しみですね。」
僕は頷いた。
クーペルーベンはこの領地にあるリゾート地の名前だ。僕たちの屋敷と王都のちょうど間にあって、この屋敷からは馬車で40分ほどの距離だ。王都からも1時間半程度で行ける場所にあるので、社交界シーズンに王都に上がった貴族たちが、余暇にこぞって遊びに行く人気の場所だ。
今日はそのクーペルーベンにあるヴィラの視察を兼ねたお泊まりデートの予定だ。
「僕、やっぱりスパが楽しみだなぁ。」
「ええ、私もです。今日は貸し切りの所だけですけど、楽しみましょうね。」
「うん。」
僕の家では、毎年初夏にガーデンパーティを開いていた。うちの屋敷の庭は初夏が本当に美しいので、庭を自慢をしたかった母が僕の誕生日パーティーと託けて王都に来ている知人たちを招待していたのだ。
母の死後はパーティー自体を行っていなかったが、今年は僕とレヴィルとリノの婚約を発表するために久しぶりに開催する事になった。招待するのは母の時代とは違い、極々近しい方のみのささやかなパーティーだ。
昔は、招待客を屋敷に宿泊させていたが、レヴィルとリノが僕の負担を心配してくれた。そのため今年は招待客をクーペルーベンの宿泊施設にご招待をする事になったのだ。
「レヴィルも来れたら良かったのにね。」
「ふふ、相当残念そうにしてたようですよ。」
「そっか。」
僕は笑って頷く。ちょっと意地悪だが、僕はレヴィルが今回来れない事を残念に思ってくれているのが少し嬉しかった。少なからず僕と一緒に居たいと思ってくれているという事だ。
僕が笑ってリノの方を見ると、リノは僕の事をじっと見ていた。
「リノ?」
「ティト様、今日はレヴィル様の事じゃなくて私を見てくださらないと…焼き餅焼いちゃいます。」
リノは少しほっぺたを膨らませた。その素振りがいつも大人なリノには珍しくてすごく可愛い。
「ごめん、今日はリノの事だけを考えるよ。」
僕は慌ててリノに謝罪をした。
謝罪をしつつもリノが焼き餅を焼いてくれるのが嬉しかった。僕は思わずリノを引き寄せて、彼の柔らかな髪にキスを落とす。
「今日は…1日リノと恋人らしく過ごしたいな…。」
「…はい。」
恥ずかしそうなリノがいじらしくて、僕は思わず身を乗り出してリノに唇を重ねる。
何だかそれだけじゃ足りなくて僕はリノの足を少し持ち上げ、僕の上に跨がらせた。そしてリノのケープをたくし上げて、なだらかな腰を優しく撫であげる。
「ん…ティト様、馬車の中じゃ、危ないです。」
「うん…ちょっとだけ。首に捕まってて。」
「あ…ティト様……んっ…。」
リノの手を僕の首に絡めさせて、そのまま吸い上げる様にキスをする。流石に馬車の揺れもあるので余り深く絡めずに何度も何度も口付けを重ねてバードキスをした。車内にはちゅっちゅっというリップ音が響く。
僕はリノとのキスを堪能しながら、ゆっくりと彼の尻へ手を滑らせた。柔らかな感触を楽しみながら、スラックス越しになるべくソフトタッチにゆっくりと尻たぶを揉む。
「ん……。」
「気持ちいい?」
僕は囁きながら、彼の尻をなぞる様に揉んだ。時々指が会陰部を撫でるとリノから声が漏れる。
「ぁ…気持ち、良いから…だめです…。」
彼は吐息混じりの声で答えた。刺激から逃れる様に腰をゆらゆらと揺らす。その艶かしい姿に僕は堪らずに、彼の腰を引き寄せてお互いのものをすり合わせた。
「ぁっ…ティト様…だめ…。」
リノは頬を紅潮させてふるふると首を振った。こんな状態なのに彼はフェロモンの匂いをさせてくれていない。
僕とリノは婚約者になってから毎日一緒に過ごしている事もあり、日常的にキスをする様になっていた。けれど、それ以上の事はまだ許してもらえていない。僕がフェロモンで具合を悪くしたら困るからと頑なに拒否されてしまっているのだ。僕は切なくて思わず懇願するように声を絞り出す。
「リノ…先に進みたいよ…。」
「…っ…だめ……。」
リノは頑なに首を振って僕を拒んだ。僕は諦めた様にため息をついて、宥める様にリノの背中を撫でた。
「…分かった。もうしないよ。」
背中からそっと手を離す。導くようにエスコートすると彼はゆっくりと隣の席に戻った。
「ごめんね。」
「いえ、私こそ…。」
リノは乱れた息を整えて、髪をそっと直す。僕には彼も明らかに名残惜しそうにしているように思えた。お互い我慢比べになってしまっている。
僕は堪らなくてリノをそっと抱き寄せた。彼もそれには抵抗せずにそっと僕に頭を寄せる。
「リノ…ヴィラについたら、もう少し触れていい?」
「……。」
リノは僕の肩に顔を埋めるだけで、何も言わなかった。
僕たちは灯ってしまった熱を慰め合うようにそっと寄り添って馬車の旅を過ごした。
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