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第一章.狂犬
隣の鬼潟くん
しおりを挟むそれから少しして、鬼潟くんはゆっくりと私の首元に埋めていた顔を上げ、抱き締めていた腕も解かれ離れて行った。
何も言わず離れて行った鬼潟くんに、もう少しこのままが良かったと内心思ってしまった自分に恥ずかしくなる。
そのまま何も言わず鬼潟くんは立ち上がり、それを見上げていた私は腕を取られ引かれて立ち上がった。その行為にぽかんとした顔の私に、「いつまでも膝付けてたらいてーだろ」っとぶっきらぼうに告げ、ぷいっと顔を背けた。
その言葉にそういえばずっと地面に膝を付けていたままだったと、自分の膝を見下ろしながらふと思う。両膝は赤くなっていて、確かに言われてみれば膝が痛いかもしれない。
「ありがとう、鬼潟くん!」
「……別に」
気を使ってくれた事が嬉しくて笑みが零れる。見上げて告げれば、鬼潟くんは顔は背けたまま目線だけでちらりと私を見下ろした後、また目線もそっぽを向けてしまうし、掴んでくれていた腕からも手を離されてしまった。
先程よりも離れてしまった距離に、少し寂しさを感じたが気にせず鬼潟くんを見上げる。背ける鬼潟くんの横顔をじっと見つめていると、視線を向けた鬼潟くんとバチリと目が合った。
瞬間、鬼潟くんはくるりと回って私に背を向けてしまう。
急に背を向けてしまった鬼潟くんに不思議に思い、その背に声をかけようとした時、私よりも早く鬼潟くんが告げた。
「明日から、覚悟しろよ」
「え――?」
背を向けたまま呟かれた言葉。
その言葉の意味を考えていた時、背を向けていた鬼潟くんはくるりと私の方を向いてその手を伸ばして来た。
大きな手に驚く間もなく、気付いたらその手は私の頭の後ろに添えられグイッと引かれ、目の前には鬼潟くんの顔が目と鼻の先にまで迫っている。
あと少しで唇が触れそうな所で、ピタリと鬼潟くんは止まり緑色の瞳を細めた。
「何度もチャンスをやったのに、それでも俺に近付いて来たお前が悪いんだからな。だから明日からは……もう知らねえから」
「それって、どういう――?」
その瞬間、風が強く吹いた。
「絶対……逃がさねえ」
吹き抜けて行く風と共に長い鬼潟くんの前髪は靡き、見つめる緑色はギラギラと輝いていてその目の前の鋭さと真剣さにドクリと心臓が高鳴る。
何か言わないとと思って口を開こうとした時、また強く風が吹き抜け髪が顔にかかり視界を塞ぐ。慌てて髪を払うと、目の前にはもう鬼潟くんの姿はなくなっていた。
いつの間にかいなくなった鬼潟くんに、私は一人公園で唖然と立ち尽くすしかなかった。
そして昨日の衝撃が抜けきらないうちに、現在今の状況に私は衝撃を隠しきれない。
「及川ー」
「はーい!」
「鬼潟ー……は、今日も――」
「へーい」
「……は?」
ホームルームでの出席確認。
いつもなら上がらない声が上がり、教室は騒然とした。及川くんの後いつも名前を呼ばれても答える人はいない。けれど今日は違った。
私の隣の席の、鬼潟くんがそこにはいた。
今まで一切教室に姿を表さなかった鬼潟くんの姿に、クラス中のざわめきが止まらない。
そして私は、別の意味でざわめきが止まらなかった。
「……」
「……」
じーっと。
ずっと横から感じる視線に、私は耐えられず遂にちらりとその視線の元へと視線を向ける。
だるそうに机に突っ伏しその腕に顔を乗せ、その顔は前を見ておらず私を見ていた。
その熱い視線に恥ずかしくなって赤くなる顔を誤魔化すようにまた前に向き直る。
これから毎日こうだったら、私の心臓は果たして持つのだろうか。
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