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銭ゲバ事件簿2

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「それじゃあ、やっぱり、ニコラちゃんは、本当に肉ドロボーを追っかけてただけなのか」

ジャンは、納得してしまう。

この娘の行動原則は、ほぼ銭。オットーはニコラの行動を、勇敢で非常に気高い美少女が、正義感に基づいて捜査の協力をして、オットーの案件を解決に導いたのだと思い込んでいるが、今回のは本当にただのまぐれ。偶然。いや、美少女である事は全く間違いではないが。

「そうなの、ジャン様。大損だわ。結局お肉代弁償してもらえなかったのですもの」

ニコラはブツブツと文句言いながらジャンの持ってきてれたお菓子を食べる。
ようやく事件は解決に向かい、今日はやっとお休みをとってくれたジャンが、王立博物館の敷地内に不法占拠しているニコラの家に、遊びにきてくれているのだ。

「あ、お前はまた私の食べ物を!」

ニコラの足元に落ちたクッキーの破片を、バク!と旨そうに食ったのは、ニコラの肉をドロボーした大きな犬。
捕物の後、屋敷から抜け出してきたこの犬は、ニコラの後を追いかけてきて、そのままなんだかニコラの家に居座っているのだ。
まあ別にニコラの家のあたりでウロウロして、自分で食事もとってきている様子だし、夜の寒い時には家に入れてやるくらい。この犬の飼い主である公爵家は、荒れ果てて誰もいないし、しょうがないので、ニコラも放ってある。

魔獣たちは、今は保護されて、それぞれ研究所や、機関に収められているとか。
例のウサギの魔獣は、保護区に親ともども放牧されているという。
愛玩魔獣として人気は高いウサギ型の魔獣だが、成獣は、発情期の時期になると非常に獰猛になる。
そのような生態から、住宅地での育成は、禁止されているのだが、非常に可愛らしい見かけなので、隣国からの違法の輸入が立たないのだ。

ニコラは、魔獣の生息地である魔の森に住んでいたので、魔獣の事はとても詳しいし、魔獣達はニコラの魔の森での、よき隣人であり、食糧であり、お友達だ。
魔獣に敬意を示さず、その生態に注意も払わないような連中の魔の手から、違法魔獣の取引の現場を押さえられて、本当によかった。が。

「まあまあ、そう怒らないで、ニコラちゃん。捜査に協力したから、特別報酬が出る事が決まってるから、肉代は国が保障してくれたって、そう思ったらいいんじゃないかな」

全く、理屈で言ったら、全くジャンの言う通り。

大体、魔獣肉なぞ、貴族は誰も食わないような代物で、魔獣の内臓肉などゲテモノの範疇だ。
キャスにも食わせてやった魔獣肉定食の値段など、ジャンの騎士団がいつも使っている食堂の定食の、3割にも満たない値段なのだ。特別報酬が出るのであれば、魔獣の肉代など気にする事もないのであろうが、なんだかニコラは不満顔だ。

銭ゲバには、銭ゲバの矜持があるのだ。

「ジャン様、そうではなくてね、少額でも、損害を弁償させるという事が、とても大切なのよ」

ニコラはコンコンとジャンに銭ゲバとしての哲学を説明するが、ジャンは、そうだね、そうだね、とニコニコとニコラの話を聞いてくれるだけなので、なんだか不完全燃焼だ。

完全なる偶然ではあるものの、今回、近衛の案件であった犯罪の解決の糸口となったニコラの働きは、今度王からの特別報酬という形で報われるらしい。
要するに、銭がもらえるのだろうという事なので、とりあえず楽しみにはしているが、そこでジャンは、ニコニコと、大変意外な角度から、爆弾を投入する。

「じゃあ、ニコラちゃん、王様の御前に出るんだ、可愛いドレスを仕立ててあげないとね。楽しみだよ」

ニコラは思わず、クッキーを落っことしてしまう!
足元にいた肉ドロボーは、床に落ちる前にバグ!っとキャッチして、暖炉の前まで持っていって、味を楽しんでいる様子。そろそろこの犬、名前でもつけてやらないと不便だと思い出している頃だ。

それはどうでも良いとして。

王から報酬を踏んだくるためには、金をかけて、ドレスを仕立てて、化粧してという一連をしないと、王の御前にも出られないとジャンは言うではないか!

「ジャン様、おかしいわよ!銭を入れた袋を家まで届けてくれたらいいだけじゃない!どうして私が、ドレスなんか買わなくちゃいけないのよ!」

ニコラへのお礼の銭をもらいに行くのに、銭をさらに使わないといけないなど、とんでもないではないか!

ニコラはお冠だが、ジャンは機嫌よく、ニコラの出した非常に田舎臭い紅茶のカップを口元に運んで、

「ニコラちゃんの銀の髪には、何色のドレスがいいだろうね。アクセサリーも贈らせてね」

と、ご満悦の模様。
ニコラの文句なんかどこ服風で、どんなカットにしようかな、アクセサリーは銀ベースがいいかな、などと楽しそうにメモに書きつけて、ご機嫌そのものだ。

ジャンだって、多少の独占欲はあるのだ。
ジャンが仕事で忙しくしている間に、キャスと食事に行っていたり、オットーと仲良くなっていたり、正直少し不満が募っていた。また、ニコラはこの美貌。ジャンがどれだけ警戒していても、こういう事には非常に鈍いニコラは、いろんな王都の若い貴人達から、注目を浴びていたのだ。

ここらへんで、恋人らしくニコラにドレスを贈って、王の前に拝謁し、二人の間柄が、王に認められたものである事を喧伝しても、バチは当たらないだろう。

ニコラも、ジャンが買ってくれるのだから、素直にドレスだろうがアクセサリーだろうが、ジャンの好きに揃えて貰えばいいのであるが、やはりこの銭ゲバの、銭の論理に合っていないような出費予定は、非常に腹が立つらしい。

「母上の行きつけのサロンがあるから、予約をとってもらうよ。次の休みは、ニコラちゃんを着飾らせてくれるよね」




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