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銭ゲバ事件簿1
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「な、ななな、なん、ご、ご令嬢、流石に言って良い事と、悪い事がありますぞ!!」
小鳥の声が震え、ニコラを怒鳴りつける。
はあ、はあと極度の興奮状態なのだろう。荒い息遣いまで聞こえてきた。
そう、この男、人から馬鹿にされないように必死こいて銭を使って対面を整えていたのだ。
妻子不幸にしてまで、見栄張ってたのだ。
「お、お前のような小娘に、俺の何がわかるんだ、誰に俺が馬鹿にされてると言うんだ!!」
伯爵、動揺して、もう貴族の体面も繕えない様子。
男に怒鳴られたくらいで怯むようなお育ちのニコラではないが、流石に恋人の、うら若い伯爵令嬢を怒鳴りつけるなど、貴族の風上にも置けない無礼だ。
ジャンが、その無礼に対する抗議を口にしようとしたその時、先ほどまで涙に崩れて泣き暮れていたレベッカさんが、静かにジャンを手で制して、話を始めた。
冷たい声だ。
「ピーター。あなた、馬鹿にされてるのよ。あなたのお友達から、出入りの商売人から、それからあなたの商売相手から。」
それは静かで、そして力強い声だった。
(レベッカさんが腹を括ったのね。)
こういう女性が腹を括ると、あとはどんな男にも叶うわけがない。
魔女のところになんぞにやってくる女は、どんな男よりも腹を括ってきた女性が多いのだ。
そんな女性は、どんな犠牲でも払っても、己の目的を遂行する。
いつぞだったか、子供の病気を治すお願いをするために、魔女の眼の前で、己の耳を片方叩き切って、魔女に報酬として差し出した強者もいるほどだ。
レベッカさんは、立ち上がる。
「大体ね、あなた。何を装うか、何を持つかなんて、些細な事に、そこまで気を遣っているあなたが、道化に見えて、貴族たちの笑いものになっていたのよ!」
レベッカさんは、淡々と続ける。
「馬鹿馬鹿しい流行品を山のように買い漁るあなたは、商売人たちから、金の使い方を知らない男だ、と笑われていたわ!」
「あんな、商品見本帳を真似したような子供部屋に住んでいる子供なんて、実際にはいやしないわ!どんなに言っても、あなたは聞いてくれなかった。」
そこでフォレストがそっと口を挟む。
「・・確かに、私の姉は公爵家に嫁ぎましたが、姉の子供の部屋は、レベッカさんの家の子供部屋と大差はありません。むしろ、もっと質素です。」
フォレストは、高位貴族の中でもかなりの高位の地位にある、甥の、割と地味な部屋を思い出しながらそう呟いた。
筋金入りの貴族の家は、案外質素だ。フォレストの甥は、フォレストが子供の頃に使っていた木馬で遊んでいるそうな。それもフォレストの父が使っていた年代ものだ。モノは良いものだが、そこまで価値はない。ただ古いだけの木馬だ。壊れてないから使っているだけ。
「あんな、小さな会でもいちいち頭から爪先まで、隙なく着飾って、お茶会に登場するなんて、却って、私は恥ずかしかったわ!」
((((あー・・・痛い人だった、と言うわけか・・・)))
その場の全員が、なんだか納得してしまった。
伯爵は背が高くない。
小柄な体を、最新のモードで頭のてっぺんから爪先まで一部の隙なく着飾って、ちょっとしたお茶会にでも、ぎょうぎょうしく登場していて失笑を買っていたのだろう。
レベッカさんの幼馴染が、心配する訳だ。
言いたい事を言い終わったのだろう。
レベッカさんは青い顔をして、魂の抜けたような顔をして、その場に座り込んでしまった。
レベッカさんは、元は伯爵家のメイドだったという。
元の主人で、しかも貴族の夫に正面から意見して、楯突くなど、あり得なかったのだろう。
小鳥は、沈黙を守っている。
小鳥の声が震え、ニコラを怒鳴りつける。
はあ、はあと極度の興奮状態なのだろう。荒い息遣いまで聞こえてきた。
そう、この男、人から馬鹿にされないように必死こいて銭を使って対面を整えていたのだ。
妻子不幸にしてまで、見栄張ってたのだ。
「お、お前のような小娘に、俺の何がわかるんだ、誰に俺が馬鹿にされてると言うんだ!!」
伯爵、動揺して、もう貴族の体面も繕えない様子。
男に怒鳴られたくらいで怯むようなお育ちのニコラではないが、流石に恋人の、うら若い伯爵令嬢を怒鳴りつけるなど、貴族の風上にも置けない無礼だ。
ジャンが、その無礼に対する抗議を口にしようとしたその時、先ほどまで涙に崩れて泣き暮れていたレベッカさんが、静かにジャンを手で制して、話を始めた。
冷たい声だ。
「ピーター。あなた、馬鹿にされてるのよ。あなたのお友達から、出入りの商売人から、それからあなたの商売相手から。」
それは静かで、そして力強い声だった。
(レベッカさんが腹を括ったのね。)
こういう女性が腹を括ると、あとはどんな男にも叶うわけがない。
魔女のところになんぞにやってくる女は、どんな男よりも腹を括ってきた女性が多いのだ。
そんな女性は、どんな犠牲でも払っても、己の目的を遂行する。
いつぞだったか、子供の病気を治すお願いをするために、魔女の眼の前で、己の耳を片方叩き切って、魔女に報酬として差し出した強者もいるほどだ。
レベッカさんは、立ち上がる。
「大体ね、あなた。何を装うか、何を持つかなんて、些細な事に、そこまで気を遣っているあなたが、道化に見えて、貴族たちの笑いものになっていたのよ!」
レベッカさんは、淡々と続ける。
「馬鹿馬鹿しい流行品を山のように買い漁るあなたは、商売人たちから、金の使い方を知らない男だ、と笑われていたわ!」
「あんな、商品見本帳を真似したような子供部屋に住んでいる子供なんて、実際にはいやしないわ!どんなに言っても、あなたは聞いてくれなかった。」
そこでフォレストがそっと口を挟む。
「・・確かに、私の姉は公爵家に嫁ぎましたが、姉の子供の部屋は、レベッカさんの家の子供部屋と大差はありません。むしろ、もっと質素です。」
フォレストは、高位貴族の中でもかなりの高位の地位にある、甥の、割と地味な部屋を思い出しながらそう呟いた。
筋金入りの貴族の家は、案外質素だ。フォレストの甥は、フォレストが子供の頃に使っていた木馬で遊んでいるそうな。それもフォレストの父が使っていた年代ものだ。モノは良いものだが、そこまで価値はない。ただ古いだけの木馬だ。壊れてないから使っているだけ。
「あんな、小さな会でもいちいち頭から爪先まで、隙なく着飾って、お茶会に登場するなんて、却って、私は恥ずかしかったわ!」
((((あー・・・痛い人だった、と言うわけか・・・)))
その場の全員が、なんだか納得してしまった。
伯爵は背が高くない。
小柄な体を、最新のモードで頭のてっぺんから爪先まで一部の隙なく着飾って、ちょっとしたお茶会にでも、ぎょうぎょうしく登場していて失笑を買っていたのだろう。
レベッカさんの幼馴染が、心配する訳だ。
言いたい事を言い終わったのだろう。
レベッカさんは青い顔をして、魂の抜けたような顔をして、その場に座り込んでしまった。
レベッカさんは、元は伯爵家のメイドだったという。
元の主人で、しかも貴族の夫に正面から意見して、楯突くなど、あり得なかったのだろう。
小鳥は、沈黙を守っている。
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