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魔の森から出られない訳

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大きな魔力が爆発し、子供の前には見事な防御魔法が発動する。
これほどの見事な防御魔法は、憲兵の手でも難しい。

「まんま、まんま」

子供は、今しがた命の危機を迎えていた事も気づかなかった様子で、ボールを捕まえて嬉しそうだ。

やっと間に合った、パン屋の女将さんが、絶叫しながら子供を抱きしめて、号泣する。

(あ、間に合った。。よかった。。)

ニコラは、木の上から、ほっと胸を撫で下ろした。
遅れてやってきた憲兵隊が一斉に子供に駆け寄り、怪我などの無事を確認すると、今度は憲兵の隊長だろう、筋骨隆々とした壮年の男が、木の上のニコラに敬礼した。

「御令嬢、ご協力に深い感謝を。追って魔法伯爵より、正式にお礼申し上げます。お名前を伺っても。」

そう、まだ憲兵隊達は暴れる男をなんとか魔法でふんじばって、しょっ引いている最中だ。

パン屋の女将さんも、ほとんど気が触れたようになってしまっているし、よく見るとこの迷惑な男、あちこちの市の商品をなぎ倒しながら逃げていた様子で、折角の市が、めちゃくちゃになっている。

ニコラも自分の商品をチラリと確認したが、この砂埃を被ってしまった商品はあるものの、何も壊れていない。
ほっとして、ニコラもスルスルと木の上から降りてくる。

「憲兵様、お役に立てて光栄ですわ。私はニコラと申します。」

なんとかぎこちなく、ニコラは淑女の挨拶をする。

「先ほどの見事な結界は、あなたですね。これほどの結界を、瞬時で練り出せるとは。」

隊長は、興味深そうに、まじまじとニコラの放った防御魔法を観察する。

ニコラの貼った結界は、魔女の使う独特の発動の仕方のする結界だ。
機能性もそうだが、美しさが求められがちな魔法学に置いて、魔女の使う魔術は、ちょっとクセが強いので、見るものが見たらすぐに分かる。どうやら発動に心当たりがあったらしい。

「ああ、なるほど、貴方が満月の魔女のところのお嬢さんか。さすが彼女の仕込みは伊達ではない。」

ニコラは、祖母を褒めてもらって、少し誇らしい。

「はい、私は祖母のように魔女ではありませんが、多少魔力がありますので、こうして薬師として細々と暮らしております。」

「まだ私が若い頃は、よく満月の魔女には揶揄われた物です。いや、実に懐かしい。」

「あら、祖母をご存知ですの?」

「まだ私が駆け出しの門番だった頃から、よく色んな薬を・・・」

和やかな会話が始まろうとしたその時。

「キエエエエエエ!!!!」

ニコラの後ろで、耳を切り裂くような、金切り声が上がった。

声の主は、憲兵に縛られて、身動きが取れないままの、先ほどの男だ。
男が首から下げていた、非常に美しい真鍮細工の魔力探知機が、煌々と紫色の光を放ってニコラの方向に浮かび上がっていたのだ。

「キイいい!!!ハハハハハ!!ついに見つけだぞ、ニコール、お前こんな所に隠れていやがった!」

不気味なまでに爛々と輝く瞳は、焦点があっていない。だらだらと涎を垂らしている。この男の薬物中毒が、深刻な物である事をしめしている。
ニコラの背中に、嫌な汗が流れる。

「探しても探しても見つからねえ訳だ、孤児院もくまなく探したっていうのによ。。魔女に匿われていたとは驚きだ。だがな、もう隠れられないぜ、お前の父親の積年の恨み、晴らしてやる!!」

拘束されたままで、男は大きく口を開けると、何か黒い気体をニコラに向かって吹き付けてきた!

「きゃああああ!」

これは怨念、呪いの深いものだ。体の中にこんな物を飼っていたらしい。
隊長は、ひらりと剣を抜き、ニコラに向けられた気体をなぎ払った。
黒い気体は、ただの呪いの残像だった様子で、一瞬で霧散していった。

男はケタケタと笑い、憲兵達に今度こそ、ピクリとも動けないほどの拘束魔法をかけられて、運ばれていく。

「後は仲間に任せた!ニコールを見つけたぞ、皆殺しだ!!」

バタバタバタ、と黒い鳥が一斉に市から飛び立つ。
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