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ここは獣人の国

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「やった!やっぱりいたでしょ、ミシェルさんに任せておいて正解よ!早く連れてきてちょうだい、今から訓練したら鍋の祭典に間に合うわ!やっぱり最初は花びらをこう、どーんと私の後ろから撒いてもらいましょ!」

やはりの流石の聖女様だ。
絶対に頷くと思っていたが、本人はノリノリだ。


カロンが紡いだ魔術は、ホログラムのように美しい聖女様の姿を幻影のようにミシェルの前に映し出す。

ミシェルは、カロンに魔術で聖女様との緊急通信をお願いしたのだ。
名目上は息子であるカロンくらいしか許されていない通信魔術で、カロンもこの魔術を使うのは初めてだと言っていた。相当受け手の聖女様もびっくりしたろうに、まるで電話でも取る気軽さでこの魔術を受信してくれた。
さすがは聖女様だ。常人には思いもつかない部分の何かの未来視があるのだろう。

ミシェルが見つけました!と開口一言聖女様に告げて、ニーケをグッと聖女様にお見せして、ちょっと羽ばたいてもらったその瞬間に、ミシェルのいいたいことが聖女様には完全にわかったらしい。

ニーケに聖女様の周りで言祝ぐ前触れの巫女の役割を、すぐに任命した。
ずっと探していたらしいのだが、これといういい人材がいなかった様子だ。

アランの占いの件以来ミシェルは時々聖女様のところに用事に行くダンテやカロンについて聖女様のところに行っていたのだが、前触れの巫女のいい人材がいないとぼやいていたのだ。

「なんか、こう、私が登場するときにどーっんと楽しい演出が欲しいのよねえ!聖女様かっこいいわ!ってみんながなるような。アランでもいいんだけどさ、アランは巫女ではないし、もうパーっとちょっと派手なのがいいのよ。ミシェルさん、誰か知らない?いい人がいたら教えといてね!」

「はは、依頼人に花火師でもきたら紹介しますね!」

「絶対よ!見つけたら緊急連絡してもいいわ。カロンが私に直通する魔術を知っているから、カロンにお願いしてちょうだいね」

城下町の大道芸の話を羨ましそうに聞いていた聖女様から、そんな気軽なお願いをいただいて、ノリのいいミシェルはそれをお気軽に承諾していたのだ。言霊という言葉の存在を侮っていてはいけないものだ。

本当に聖女様ときたら、あんなゆるふわに見えていてもやはりディーテ王国の根幹に存在するような立派なお人だ。
ミシェルが何かを連れてくる予感をしていたのだろう。

聖女様は楽しそうに続ける。

「ニーケっていうの?いい名前ね!とってもその翼可愛いわ!早くそんなところでぐずぐずしてないで、これから忙しくなるからすぐに荷物まとめてちょうだいね!」

「は・・・え、はい」

後ろのニーケは固まっている。
そりゃそうだ。聖女様という生き物は九重の神殿の奥の奥に大切に囲われている神の妻。
普通はこんなノリの良い可愛い女性だとは思わないし、お言葉を直接いただける事だけでも相当な名誉らしい。
ミシェルはようわからんが。

ミシェルは自分の鑑定が正しい道を弾き出したと思われる事で大満足だ。

「そういう訳で、やっぱり貴女の活躍する場所は、神殿で間違いないわ!あなたじゃないとこの仕事できないのよ。あなたの特殊性は、苦しかったろうけれど祝福でもあった訳なのよね。神殿で貴女はとても大切にしてもらえるわよ」

これからニーケは聖女のお付きの前触れの巫女として、誰にもできない仕事を任される。
ほかの鳥族では無理。人でも無理。ニーケがハーフの鳥人の女の子であるからこその仕事だ。そしてそんな稀有な存在は、この世界で一人しかいないらしい。

そして聖女の周りで美しく宙を舞う前触れの巫女なぞ、どれほどの男の心を奪うのか。
番いを諦めていたニーケにも、ヒトの伴侶やら恋人やらなら、すぐに見つかるだろう。

「ミシェルさん・・どうしてこんなに私にご親切を・・」

自分が一体何を仰せ使ったのかをようやく理解したニーケは震えながら涙を流した。
この感情の淡白な現代っ子が、ようやく見せた涙だ。

ミシェルはご機嫌で答えた。

「どうして?わかんない。でも、貴女と会えてよかったわ!」

今度は涙するニーケとは違って、ミシェルは満面の笑みだ。
一人の苦しむ女性が、胸を張って人生を生きる手伝いができたのなら、この妙な異世界に渡ってきた甲斐もあるというものだ。よかった。

おいおいと泣き崩れるニーケの背中をさすってやっているミシェルの後ろに立ち尽くしていた男達は、二人を見守るしかできなかった。

「品の悪い女だが、魂はとても、美しいな」

ダンテは独り言をミシェルの後ろで、そうポツリとつぶやいた。女とはミシェルの事を指しているのは明白だ。

「ミシェルはとても美しいですよ、ダンテ様。私は決して彼女を手放すつもりはありません」

カロンはそう、ミシェルから目を離す事なくそう答えた。

カロンから急に発せられた強い言葉の意味に躊躇したダンテは、驚いてカロンに向き直って、言った。

「カロン。お前はまだ若い。今の感情は気の迷いだ。侯爵家がお前に相応しい伴侶を選ぶだろし、ミシェルは異世界人の上、お前より相当歳上だ。落ち着いて考えよ。お前は・・」

ピシャリとカロンはダンテに言い放つ。

「師よ。私はミシェルを手放すつもりはありません。たとえ侯爵家の意向であっても、聖女様の意志であっても。そして、貴方と彼女を争う事になっても、です」

カロンは挑戦的な目をして、ダンテを見据えた。
そこにカロンが見たのは、可愛いカロンではない。成人して間のない、だが次代の大神官としての強い矜持に満ちた、若い男の情熱のままの熱情だった。

こんなカロンの顔など見たこともない。
ダンテはたじろいだが、言葉を返す。

「カロン・・お前私がミシェルを求めるとでも思うのか?馬鹿げた事を」

薄くダンテをせせら笑うと、カロンは言った。

「なぜミシェルが貴方の手によって、この世界に呼ばれたのか。ダンテ様はまだ気がつきませんか」

そしてカロンは呆然としているダンテを置いて歩み出し、ダンテの傍を通り過ぎるとミシェルの元まで歩み寄り、先ほどのまでの氷のような次期大神官の顔など忘れた方のように、無邪気な顔をして言った。

「さあミシェルもニーケも立って!これからベルギリウス様に面会して、ニーケを連れている許可を取らなくては!鍋の祭典に間に合わせるのだったらとても忙しくなるよ!」
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