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LGBTは親の罪なわけねえだろ

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ボルドー夫人は、相当驚いたらしい。
淑女としてはあり得ないのだが、ガシャン、と手にしていた繊細なスプーンを大きな音を立てて、紅茶のカップの中に落としてしまったらしい。

先ほどまでの優雅な振る舞いはもう何処へやら、夫人は目の焦点が合わない様子で、あわあわと、そしてしばらくして、落ち着きを取り戻して、そして、観念したようにミシェルにため息をついた。

「そこまで、見えておいでなのですね・・」

ボルドー夫人は、目を伏せて、何かを考え込んでいる様子だったが、覚悟を決めたらしい。
ミシェルに向き直ると、小さく、口を開いた。

「ミシェルさん、貴方に見えておいでのその息子は、私の下の息子です。と言っても、息子になったのは、昨年です」

「え?」

意味がわからない。養子?にしてはよく上の息子に似ているじゃないか。
ボルドー夫人は、覚悟を決めた様子で、淡々と言った。

「息子は、去年までは娘でした」

(お、おう、そ、そういう事か)

急に入り込んだ意外な大きな情報に、ミシェルも内心かなり動揺したのだが、すぐに落ち着きを取り戻した。

女の子が男の子になった友人はいないが、女の子になった元男の子は、そういえば大学にいた。
声が低い以外はどこからどう見ても、完全に女の子で、彼氏もいたはずだ。
お金を稼いで、タイに性別適合の手術に行くとか、いかないとかそんな話をしていたのだが、そのうちに大学に来なくなった。心を病んだという噂は、聞いていたが、真相は誰も知らない。

「息子は、去年、魔女の所に行って、性別を変えてきました。ずっと、ずっと子供の頃からそうしたかった。そう言って、何年もかけて、私を説得しました。夫は、下の息子は勘当しています。性別を変える事が受け入れられない、と言っていました」

ボルドー夫人は、無意識なのだろう。お茶請けに出したクッキーに練り込んである干し葡萄を一つ一つほじくり出して、お皿の上に一つ一つ並べ出している。完璧に優雅なその手つきは、いっそ狂気を感じる。

ボルドー夫人の始めた奇行と、少し大きな情報に一旦早鐘を打ち出した心臓を、ミシェルはなんとか落ち着けた。
そして、無言となった女に、話を向ける。

「そ、そうだったのですね、あの、ご主人は受け入れられないのですね、ご、ご本人は今、どんなご様子ですか?」

女の子になった元・男性の、その大学の同級生の顔がチラリ、と浮かんだ。
性転換は非常に肉体と精神に負担がかかると、聞いた。

ミシェルの心配は杞憂に終わったようで、ボルドー夫人は意外にも、パッと顔を輝かせて、こう言った。

「ああ、流石に魔女の力で性別を変えても、元々の性別を完全に変えて、子供ができるような事は難しいらしいのですが、胸がなくなって、筋肉がついてきただけでも、あの子は本当にスッキリしたと、言っています。本人は、自分の体に対してずっと合わない服を着ているみたいな違和感があったとかで、今はとても明るくなって、機嫌良く学舎に通っていますよ」

穏やかに、嬉しそうに微笑む母の顔に、ミシェルはほっとした。

(この人、子供が幸せである事が、幸せなのね)

この女の夫は、娘が性別を変えたことが受け入れらず、勘当しているというが、夫人の方は、娘であれ、息子であれ、ただただ、子供の幸せを願って、そして子供が今、幸せである事に、心から喜んでいる様子だ。

そして、ボルドー夫人の言う事を信じるとすると、この息子となった娘は、新しい体に、とても満足そうではないか。

では、何が一体問題なのか。
ミシェルは、ミシェルに迫ってくる、大波のような光の粒に身を任せた。



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