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第十六章『真実と嘘』

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「フハハハ!  とうとう本気を出したな、フラップ!」


ガオルは狂気に満ちた声を発しながら、瞳をメラメラと燃え上がらせていた。


「戦う前から、お前には得体の知れない強さが宿っていることは分かっていた。

今こそ、その力を解き放ち、この俺に全力でぶつけてみろ!」


「――言え!  スズカさんに何をした!」


フラップは、ハルトが聞いたこともない鋭く厳しい口調で問いかけた。


「ふんっ。スズカはもう、スズカではなくなる。

それまでのすべての記憶を放棄し、黒影竜の体を得て、

この世界で新たな誕生を果たすのだ。この俺の家族としてな!」


ガオルは、フラップの胸元を黒い大きな足で強く蹴飛ばした。

フラップの体は、エントランスの天井へと飛んでいき、

古びた巨大シャンデリアに激突した。


シャララン、ガキンッ!


大きくゆれた反動で取りつけ金具の外れたシャンデリアが、

美しい澄んだ音を立てながら床に落ちてきた。

子どもたちは思わず頭を腕でおおった。


「危ナーイッ!」


すかさずフリッタが飛んでいき、落下するシャンデリアを両手で受け止めた。

おかげでハルトたちは大怪我をまぬがれた。


フラップは空中で体制を立て直していた。


「くうっ!  まさかガオル、お前が主任と接触したホントの目的は――」


「そうだ、まさにそのための装置を完成させるためだ!」


ガオルはふわっと床から浮かび上がり、両手を広げて堂々と言い放った。


「そんなこと、ぼくらが許すと思っているのか!」


フラップは再びガオルにむかって突撃した。

今度はガオルも飛びかかってきた。


二頭は拳と拳を交わしながら、エントランスを縦横無尽に飛び回った。

その光景はまるで、

二つの色の違う鉄砲玉がぶつかり合い、弾き合っているようだった。

あまりにも速度が速すぎる。目の動きすら追いつかない。

子どもたちは全員、竜たちの壮絶すぎる戦いを肌で感じ、

そのせいで腰がぬけ、床に転がって叫んでいた。

二頭が衝突するたびに衝撃が走り、壁や天井がゆれ、

冷たく張りつめていた空気に熱がたぎっていくようだった。


『フラップくん、落ちついて!  ガオルを城の外へ連れ出すの!』


空中モニターのむこうから、モニカさんがよびかけた。

その声を聞いたフラップは、一瞬だけ空中に静止した。

彼のフライトゴーグルにヒビが入っているのが見える。

長い口の中からは真っ赤な血が滴っていた。


「やれるものならやってみろ!」


ガオルが右の拳を引きしぼって、フラップにむかってきた。

フラップは、彼の猛烈なパンチ攻撃を素早く下へかわすと、

がら空きになった彼の両足を両手でむんずととらえた。


そこから、まるでハンマー投げの要領で、

ガオルの体をぐるぐると空中でふり回しながらだんだんと降下し、風をかきたて、

最後は、はじめにくぐった城の正面口のむこうにむかって、

どうっと投げ飛ばした。


ガオルはきりもみしながら城の外へ投げ出され、

フラップはさらにそのあとを追っていった。



「圧巻だったね……」

タスクがぽつりと言った。


二頭の暴れん坊が城を出ていくと、

子どもたちはようやく再び立ち上がることができた。

城の外から、体と体がぶつかり合う鈍い音が聞こえていた。

ハルトは、いつの間にか心臓が早鐘のようにろっ骨を打っているのを感じた。


「行かなきゃ!」

ハルトは叫んだ。


「スズカちゃんを探さなきゃ!  みんな、急ごう!」


ケント、タスク、アカネ、トキオの四人が強くうなずいた。

同じ班としてつながったみんな気持ちは、すでにいっしょだった。


「ホラホラ~、みんな慌てないの。アタシから離れないようにネ!」


落ちたシャンデリアをエントランスのすみに放ったフリッタが、

急いで子どもたちのそばに飛んできた。


『ハルトくん!』

モニカさんがよび止めた。


『不可抗力だったとはいえ、

あなたたちをポッドの外に出してしまったことを、深くお詫びします。

でも、今はむしろ、主任のおっしゃるとおり、

みんなが迎えに行ったほうがスズカさんのためになると思う。

このことは、わたしからフーゴ総官に伝えておくね』


「いや、でも、大丈夫なんですか?」

トキオが心配そうにたずねた。


『責任は、主任の補佐官であるわたしが取るよ。だから――』


「いや……すべて、わたしの責任です」


フレッドの腕を借りてゆっくりと立ち上がりながら、クロワキ氏は言った。


「わたしが子どもたちを焚きつけたんですから、当然でしょう。

――ツアー参加者のみなさん、

スズカちゃんは城の二階の奥にある、大きな鉄扉のむこうにいます。

かなり状況は厳しいかもしれませんが、みなさんが来れば、

スズカちゃんはきっと忘却の世界から帰ってこられる。

どうか、奇跡を信じて――」


「分かったから、もー行かせてくれって」


ケントがじれったそうにそう答えた。


「かなりキビシイ状況なんでしょ?  ほら急ごうよ!」

と、アカネも言った。


東京四人組は、もはやクロワキ氏に構っていられない様子だった。

自分の過ちにたいする償いをしようとしたとはいえ、

肝心のスズカが囚われたままなのだ。


『どうかみんな、気をつけて!』


モニカさんの空中モニターは消えてしまった。


「クロワキさん」


ケントたちが階段の上に先行するなか、

ハルトはクロワキ氏のほうにふり返ると、にんまりと笑いながらこう言った。


「嘘つき。でも、ありがとう」


ハルトは階段を駆け上がっていった。


その後ろ姿を見送ったクロワキ氏は、

哀愁の笑みを浮かべながら、ひとりこうつぶやいた。


「――わたしなら、

スズカちゃんを閉じこめるあの機械を止めることも、できたかもしれない。

なのに、わたしはそうしなかった。ガオルは強情で醜悪なやつだが、

あれでも悲しすぎる過去を持つ。

それを思うほど、彼の切実な望みを阻むほうが、

むしろ酷なことなのではないかと思ってしまったわけで――」


「なああんた、ちょっと行動がおかしくないか?」


フレッドが自分の上司にたいして、礼儀をかなぐり捨てた口調で聞いた。


「あのさ、スズカちゃんが解放されることを望んでるなら、

なぜこんなところに来て、

スズカちゃんが眠らされてるその機械とやらのところに行かなかったんだ?」


「わたし自身にも、あの機械を止められるか分からないんですよ。

あの機械は、ガオル本人が設定したブロックシステムを破らないと、

制御できない仕様になっている……下手にいじくり回せば、

スズカちゃんの記憶が二度と戻らなくなるかもしれない」


「――だから、奇跡を信じて声をかけろなんて、

エンジニアらしからぬ言い方をしたのか。

あんた――やっぱりとんでもない人だよ」


フレッドは首を横にふりながら、皮肉をこめてそう言った。


「……あれは、われらエンジニア部の技術力の粋を集めて完成させた逸品。

ひどい話、しっかり最後まで作動できるか、確かめたかっただけかもしれません」


「おい、だとしたら俺たち、はなからスズカちゃんを救えるわけないだろ!

完全に負け戦じゃないか――」


「いや――」


クロワキ氏は、遠い目で天井を見上げながら言った。


「あの機械を確実に破れる者がいるとすれば――

システムを超える、本物の奇跡の力を秘めた、

《あの方》しかいないでしょうね……」


その言葉に、フレッドはわけの分からない表情を浮かべるばかりだった。
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