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第十四章『黒い竜たちの秘密』
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『わたしと同じ年頃の、女の子?』
「ああ。むこうは十一歳だとかなんとか、
自分のことをくわしく紹介したというんだ。スズカも十一歳なんだろう?」
『だれから聞いたの? ……だれでもいいけど』
スズカはしかめ面でそう返した。
「――三年前のことだ。
その少女とは、住処からやや離れた野原で出会ったようだ。
周辺には人間の村があったからな。夏のことだった。
この季節にはめずらしい花が咲いていたから、
秘術で姿も消さずにながめていたと言った。
そこへ、その少女がやってきたらしい。
竜を恐れていなかったのか、興味本位でガアナに近づいたに違いない」
『それで、ガアナはどうしたの? その子に何かしたの?』
「いや、何も。
ガアナはさぞかし驚いただろうが、手は出さなかったと言っていたよ。
大人しいやつだったからな。
その子は白いワンピースを着た、かなりやせた子だったらしい。
ガアナはその子に、自分のことはだれにも言うな、と言った。
だがその子は、何を思ったのか……だれにも言わないから、
待ち合わせ場所を決めてこれからも会ってほしい、と答えたそうだ」
ガオルはガアナにたいして、その子と会うのはよした方がいいと言った。
しかし、ガアナはその子に不思議な魅力を感じていて、
本当に心許せる相手かどうかもう少し確かめたくなった、と答えた。
わた、し……たしか、に、人間、が、怖い。
でも、わたし、だって、感じ、たいの……
人間、の、あたた、かい、気持ち。
「俺もガアナの近くにいて、その子の様子を確かめたいと言ったんだが、
ガアナはかたくなに拒んでいたよ。
これは自分の問題だから、俺ぬきでむきあいたいと。
だから俺は……ついムキになってしまったな。
俺の助けがいらないのか! と、にじりよったんだ。ガアナの身が心配だったから。
それでもガアナは折れなかった。
俺は観念して、ガアナの思いをくむことにした……」
ガアナと少女は、三日に一度、例の野原で落ち合うことを約束していた。
不思議なことに、ガアナは少女とはうまくいっていた。
お互いの素朴な暮らしについてや、好きなものや嫌いなもの、
お互いの将来の夢についても話をしたという。
さらに、少女をかかえていっしょに空を飛ぶことさえあったと……。
「俺とガアナは、十分に愛しあい、結ばれる運命にあると思っていたよ。
だから、ガアナが人間とのささやかな幸せをつかみつつあるのなら、
俺はけっして水を差すまいと心に決めていたんだ。
そう、あの日が来るまで……」
ガアナが少女と会うようになって、一か月が過ぎたある日だった。
ガオルは、ガアナにすぐに渡したいものがあったため、彼女の住処に急いでいた。
「クイーン・ルビーという、真紅の魔石を渡すためだ。
俺がとある古代の神殿に安置されていたのを手に入れた。
手にした者たちには、最高の愛と絆が約束されるという言い伝えがあったんだ。
見てくれ、あのガアナの像を。両手を前に差し出しているのが分かるだろう?
あそこにずっと飾っていたものなんだ」
『でも、今は何も持っていないよ。そのルビーはどうしたの?』
「……オニ飛竜どもを手なずけるために、取引の材料にせざるを得なかった。
スズカ、キミを確実にターミナルから連れ出すためにね」
『……嫌なヒト』
スズカは憎らしげにガオルの顔を見上げた。
『でも、ルビーがずっとここにあったということは、ガアナに渡せなかったのね。
いったいなぜ? 話したければ聞いてあげる』
「キミは聞き上手だな。
それなりの経験をしなければ、そんなふうには言えないだろう」
ガオルは一瞬、気に病むように目をそらしていた。
「ガアナは……殺されたんだ。人間の手によって」
スズカは、いきなり冷めきった沼の中に落とされたような気がした。
ガオルの瞳が悲しげにふるえている。
「俺が彼女の住処についた時には、ガアナはまだ生きていたんだ。
だが、ひどく切羽詰まった顔をしていたよ。
スカイランド政府に追われる身になったと言ってな」
『スカイランド、政府って?』
「……俺のような危険な竜の動向を探っている連中だ。
主に人間で構成されていて、『人間界の守護神』だとぬかしている。
彼らの目の光るところで、竜が人間に近づけば最後。
やつらの所有する恐るべき科学兵器に捕えられるか、
最悪、問答無用で殺されてしまう」
『ひどい!』
スズカは叫んだ。
『ガアナはどうして、そんな人たちに追われることになったの?
例の女の子に、ひどいことをしてしまったの?』
「……スズカ、何度も言わせないでくれ。ガアナはそんなやつじゃない」
ガオルの声が、かすかに怒りを閉じこめているように聞こえた。
『ならどうして?』
「ガアナは言っていた。
約束の野原で待っていても来ないから、人間の村のほうへ様子を見に行ったと。
しかし、その道中で、少女が道端に倒れているのを見つけたんだ。
駆けつけた時には、もう息はなかったそうだ……。
少女はもともと病気を患っていて、日を増すごとに病状が悪化していたらしい。
おそらく、ガアナに会いたいがために、無理をして通っていたんだろう。
ガアナは最近になってそれに気づき、少女を悪く思っていたとも言った。
だが、また会いたいという気持ちが、自分をもうろくさせていたと……」
その少女は、それほどにまでガアナの心を引きつけていたのだ。
スズカは自分の胸の中に、涙を誘うような熱いものがこみ上げるのを感じていた。
「ガアナがスカイランド政府に見つかったのは、
少女の前で泣き崩れていた時だった。
巡回中の空軍兵に、自分が少女を手にかけたと勘違いされ……
ああ、あいつは……強力な銃火器をそなえた飛行機体に、
さんざん追い回されたんだろうなあ……
俺と話をする時には、もう息も絶え絶えで、
生きた心地もしないという顔をしていた……!」
ガオル、あ、あなた、も、すぐ、に、逃げて……!
わた、し、と、いっしょ、に、いる、ところ、を、
見られ、ては、い、いけな、い!
「ガアナは、ひとりで逃げると言った。
俺に別れを言い残すと、俺の前からたちまち姿を消してしまったよ。
愛をこめたルビーを渡したかったのに。
俺が彼女の声を聞いたのは、その時が最後だった……
命尽きる直前まで、俺のことを気にかけてくれていた。
あの時の彼女のおびえる声と、まっすぐに俺を見つめた瞳が、
今でも忘れられない……」
『……なんで』
スズカは怒りと悲しみにふるえながら聞いた。
『それでどうしてガアナがやられてしまうの?
あなたたちは、秘術で姿を消すことだってできるんでしょ?
見つからずに逃げのびることだってできたのに!』
「無駄だよ……たとえ陽炎に隠れても、政府の追っ手からは逃れられない。
それにやつらは、竜の秘術を封じる兵器まで持っている。
ガアナは俺と別れたあと、その兵器の力を浴びて、
姿をむき出しにされたのだろう。そこで……やられてしまったんだ」
人間が、ガオルとガアナの幸せを引き裂いた。
スズカは、いたたまれない気持ちでいっぱいだった。
こんなに悲しい話は、アニメでもドラマでも味わったことがない。
『ねえ、ガオル……』
泣きたいのをぐっとこらえながら、スズカは聞いた。
『わたしにこんな話をしたのには、理由があるんでしょ?
まさか、こんな子どものわたしに、
ガアナの代わりになってほしいだなんて冗談、言わないよね?』
「スズカ……キミは本当にさとい子だな。ガアナにそっくりだ」
ガオルは、小さなスズカを愛でるように、右手でスズカの左腕にそっとふれた。
「さあ、今こそ見せてあげよう……俺の願いの結晶をね」
「ああ。むこうは十一歳だとかなんとか、
自分のことをくわしく紹介したというんだ。スズカも十一歳なんだろう?」
『だれから聞いたの? ……だれでもいいけど』
スズカはしかめ面でそう返した。
「――三年前のことだ。
その少女とは、住処からやや離れた野原で出会ったようだ。
周辺には人間の村があったからな。夏のことだった。
この季節にはめずらしい花が咲いていたから、
秘術で姿も消さずにながめていたと言った。
そこへ、その少女がやってきたらしい。
竜を恐れていなかったのか、興味本位でガアナに近づいたに違いない」
『それで、ガアナはどうしたの? その子に何かしたの?』
「いや、何も。
ガアナはさぞかし驚いただろうが、手は出さなかったと言っていたよ。
大人しいやつだったからな。
その子は白いワンピースを着た、かなりやせた子だったらしい。
ガアナはその子に、自分のことはだれにも言うな、と言った。
だがその子は、何を思ったのか……だれにも言わないから、
待ち合わせ場所を決めてこれからも会ってほしい、と答えたそうだ」
ガオルはガアナにたいして、その子と会うのはよした方がいいと言った。
しかし、ガアナはその子に不思議な魅力を感じていて、
本当に心許せる相手かどうかもう少し確かめたくなった、と答えた。
わた、し……たしか、に、人間、が、怖い。
でも、わたし、だって、感じ、たいの……
人間、の、あたた、かい、気持ち。
「俺もガアナの近くにいて、その子の様子を確かめたいと言ったんだが、
ガアナはかたくなに拒んでいたよ。
これは自分の問題だから、俺ぬきでむきあいたいと。
だから俺は……ついムキになってしまったな。
俺の助けがいらないのか! と、にじりよったんだ。ガアナの身が心配だったから。
それでもガアナは折れなかった。
俺は観念して、ガアナの思いをくむことにした……」
ガアナと少女は、三日に一度、例の野原で落ち合うことを約束していた。
不思議なことに、ガアナは少女とはうまくいっていた。
お互いの素朴な暮らしについてや、好きなものや嫌いなもの、
お互いの将来の夢についても話をしたという。
さらに、少女をかかえていっしょに空を飛ぶことさえあったと……。
「俺とガアナは、十分に愛しあい、結ばれる運命にあると思っていたよ。
だから、ガアナが人間とのささやかな幸せをつかみつつあるのなら、
俺はけっして水を差すまいと心に決めていたんだ。
そう、あの日が来るまで……」
ガアナが少女と会うようになって、一か月が過ぎたある日だった。
ガオルは、ガアナにすぐに渡したいものがあったため、彼女の住処に急いでいた。
「クイーン・ルビーという、真紅の魔石を渡すためだ。
俺がとある古代の神殿に安置されていたのを手に入れた。
手にした者たちには、最高の愛と絆が約束されるという言い伝えがあったんだ。
見てくれ、あのガアナの像を。両手を前に差し出しているのが分かるだろう?
あそこにずっと飾っていたものなんだ」
『でも、今は何も持っていないよ。そのルビーはどうしたの?』
「……オニ飛竜どもを手なずけるために、取引の材料にせざるを得なかった。
スズカ、キミを確実にターミナルから連れ出すためにね」
『……嫌なヒト』
スズカは憎らしげにガオルの顔を見上げた。
『でも、ルビーがずっとここにあったということは、ガアナに渡せなかったのね。
いったいなぜ? 話したければ聞いてあげる』
「キミは聞き上手だな。
それなりの経験をしなければ、そんなふうには言えないだろう」
ガオルは一瞬、気に病むように目をそらしていた。
「ガアナは……殺されたんだ。人間の手によって」
スズカは、いきなり冷めきった沼の中に落とされたような気がした。
ガオルの瞳が悲しげにふるえている。
「俺が彼女の住処についた時には、ガアナはまだ生きていたんだ。
だが、ひどく切羽詰まった顔をしていたよ。
スカイランド政府に追われる身になったと言ってな」
『スカイランド、政府って?』
「……俺のような危険な竜の動向を探っている連中だ。
主に人間で構成されていて、『人間界の守護神』だとぬかしている。
彼らの目の光るところで、竜が人間に近づけば最後。
やつらの所有する恐るべき科学兵器に捕えられるか、
最悪、問答無用で殺されてしまう」
『ひどい!』
スズカは叫んだ。
『ガアナはどうして、そんな人たちに追われることになったの?
例の女の子に、ひどいことをしてしまったの?』
「……スズカ、何度も言わせないでくれ。ガアナはそんなやつじゃない」
ガオルの声が、かすかに怒りを閉じこめているように聞こえた。
『ならどうして?』
「ガアナは言っていた。
約束の野原で待っていても来ないから、人間の村のほうへ様子を見に行ったと。
しかし、その道中で、少女が道端に倒れているのを見つけたんだ。
駆けつけた時には、もう息はなかったそうだ……。
少女はもともと病気を患っていて、日を増すごとに病状が悪化していたらしい。
おそらく、ガアナに会いたいがために、無理をして通っていたんだろう。
ガアナは最近になってそれに気づき、少女を悪く思っていたとも言った。
だが、また会いたいという気持ちが、自分をもうろくさせていたと……」
その少女は、それほどにまでガアナの心を引きつけていたのだ。
スズカは自分の胸の中に、涙を誘うような熱いものがこみ上げるのを感じていた。
「ガアナがスカイランド政府に見つかったのは、
少女の前で泣き崩れていた時だった。
巡回中の空軍兵に、自分が少女を手にかけたと勘違いされ……
ああ、あいつは……強力な銃火器をそなえた飛行機体に、
さんざん追い回されたんだろうなあ……
俺と話をする時には、もう息も絶え絶えで、
生きた心地もしないという顔をしていた……!」
ガオル、あ、あなた、も、すぐ、に、逃げて……!
わた、し、と、いっしょ、に、いる、ところ、を、
見られ、ては、い、いけな、い!
「ガアナは、ひとりで逃げると言った。
俺に別れを言い残すと、俺の前からたちまち姿を消してしまったよ。
愛をこめたルビーを渡したかったのに。
俺が彼女の声を聞いたのは、その時が最後だった……
命尽きる直前まで、俺のことを気にかけてくれていた。
あの時の彼女のおびえる声と、まっすぐに俺を見つめた瞳が、
今でも忘れられない……」
『……なんで』
スズカは怒りと悲しみにふるえながら聞いた。
『それでどうしてガアナがやられてしまうの?
あなたたちは、秘術で姿を消すことだってできるんでしょ?
見つからずに逃げのびることだってできたのに!』
「無駄だよ……たとえ陽炎に隠れても、政府の追っ手からは逃れられない。
それにやつらは、竜の秘術を封じる兵器まで持っている。
ガアナは俺と別れたあと、その兵器の力を浴びて、
姿をむき出しにされたのだろう。そこで……やられてしまったんだ」
人間が、ガオルとガアナの幸せを引き裂いた。
スズカは、いたたまれない気持ちでいっぱいだった。
こんなに悲しい話は、アニメでもドラマでも味わったことがない。
『ねえ、ガオル……』
泣きたいのをぐっとこらえながら、スズカは聞いた。
『わたしにこんな話をしたのには、理由があるんでしょ?
まさか、こんな子どものわたしに、
ガアナの代わりになってほしいだなんて冗談、言わないよね?』
「スズカ……キミは本当にさとい子だな。ガアナにそっくりだ」
ガオルは、小さなスズカを愛でるように、右手でスズカの左腕にそっとふれた。
「さあ、今こそ見せてあげよう……俺の願いの結晶をね」
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