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第二章『お宝さがしの真実』

4(挿絵あり)

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まぶしい陽の光に目が開けられない。鼓膜をつらぬくような風の音。

そして、全身を包みこむ大きな、大きな動物の温もり。


ハルトとスズカは、姿の見えない生き物によって、

洞窟をぬけだし、空高く運び上げられていた。

両脚が宙に投げ出され、強い重力が背中にのしかかる。

遊園地のスペースショットに近い感覚だ。

息をするのも辛い。何が起きているのか分からない。頭の思考が止まっていた。

でも、顔面にふれるふかふかした犬のお腹のような物体が、

奇妙な安心感をあたえてくる。


(これは、動物の、毛……)


やわらかい毛皮につつまれている感じ。

なのに、まったく暑苦しさを感じない。

この炎天下だというのに、見えない生き物から涼やかで不思議な気が流れてきて、

全身が熱気から守られているような気がする。


何か、言葉を叫んだほうがいい。

ひっくり返りそうな心の中で、ただ一つ浮かんだ言葉がこれだった。


「スズカちゃん、生きてる!?」


でも、その必要はなかった。言葉を発したその瞬間、

隣でスズカがうめくような悲鳴をあげているのに、ようやく気がついたからだ。


だんだん思考が整ってきた。ゆっくりと顔を上げてみる。

頭に大きなあごのやわらかさを感じた。なんなんだ?  本当に大きな動物だ。


と、次の瞬間。今度は体が下へむかって急落下しはじめた。

上から感じていた重圧が、今度は下から襲いかかってくる。


「うわあああああ~~~!!」


またもやわけが分からなくなって、ハルトもいっしょになって叫んだ。


ふたりの体は、そのまま地上すれすれの地点まで落ちこむと、

急に大きく弧を描いて水平ターンし、

くるりと横へむきを変えながら、またふわりと上昇していく。

そこからは、あっちへ飛んだり、こっちへ飛んだり、上がったり下がったり――

まるで体が、大喜びで小躍りするような具合に、勝手気ままにふり回される始末。


ハルトはたえかねて、声をかぎりに叫んだ。


「分かった!  分かったよ、ギブアップ!  もう勘弁してったら!」


すると、ハルトの真剣さが通じたのか、その動物が答えた。


「ふふふふ!  すみません、あんまり嬉しかったから。今、地上に降ろしますね」


大きな動物は、ふたりのために地上の開けた野原へ降りていった。

それから、地上すれすれのところで、くるーん、と後ろに宙返りしてから、

ふたりを優しくすっと地面に下ろしてくれた。

なんだか華麗に着地したような錯覚にひたった瞬間、ハルトはようやく実感した。


(ぼくたち、今、空をすべってた?)


空中へ運ばれている間、

体が重力から解放されたような不思議な感覚を味わったのはたしかだ。

ということは、やはりこの動物、鳥ではない。


「透明術をかけていましたから、

おふたりには姿がずっと見えにくくなっていましたよね。

今、術を解きますから……」


それまでぼやけていたシルエットが、だんだんとはっきりしてきた。

水中に沈んだものが浮上するように、色味や風合いをあらわにしていく――。


(ああ、やっぱりだ。ぼくの予感は的中したんだ)


ハルトたちの前に現れたのは、奇想天外な姿をした、一匹の竜だった。





ハルトたちは、あぜんとしてその姿を見つめた。

全体的に見たならば、

たしかに竜らしく見えなくもない。頭の二本角がその証拠だ。


しかし、背中は赤っぽいピンク色、

お腹はクリーム色の毛になぜかおおわれている。

その頭はまるで愛嬌のある犬。両手には、もちもちしていそうな黒い肉球。

背中の翼は、コウモリのそれではなく、鳥の翼。

おまけに、がっしりとした後脚で器用に直立している。

その代わり、尻尾は長くて太く、その先端には燃えるような毛の房が生えている。

熊みたいだとハルトが思ったのも無理ない。背丈は二メートル以上もあるのだ。


「はじめまして。ぼく、オハコビ竜です。よろしくね!」


礼儀正しく、それでいてフレンドリーな調子に、

ハルトたちはわけもなくお辞儀を返していた。

摩訶不思議な姿の竜は、その場でひざをついて、ふたりの目線にあわせると、

くりくりとした目でまばたきして、にこやかに表情を浮かべる。


「おふたりに会えて、とっても嬉しいです!

さっきは、ホントにすみませんでした。感情が高ぶると、

ついついああやって相手を空へ抱き上げちゃうくせがあって……」


ちょっぴりドジなやつみたいだ。


「あ、そうだ、自己紹介しなくちゃ。ぼく、フラップというんです。

ここ地上界では、エイゴで、『羽ばたく』という意味だそうで、

ちょっと誇らしく思ってるんです」


「ちょ、ちょっと待ってよ。

さっき『ぼくたち』って言ったよね?  ということは、他にもいるの?

その――キミと同じようなのが」


「はい!  仲間はいっぱいいますよ。

ぼくたち、仲よく群れを作って暮らしてるんだ」


フラップは、元気よくそう答えた。


「……なんだかさ、犬みたいな見た目だけど、ホントに竜なの?」

「もちろん!  れっきとした竜の仲間ですよ。

ちょーっぴり、ワンちゃんっぽいって言われることがありますけども」


ひょうきんな口調で、フラップがそう答えた。

頭も両手も、体毛すらも犬そっくりで、ちょっぴりどころではないのだが。


「ハルトくん。あなたは、竜が大好きだと聞きました。

本当にいいお友達になれそうです。

スズカさん、あなたのお顔はとてもきれいですね。

それに、頭もよくて、スポーツもできる子だとうかがっていますよ」


スズカは、ひっと声をあげて両手で口をふさぎ、頬を真っ赤にそめてしまった。

この竜は、こちらの情報をすでに知っているのか。


「あ、あのさ……」

ハルトには、聞きたいことがあった。聞かねばならないことが、山積みだ。

「ぼくたち、ゲームでお宝を探してたんだけど……」


「お宝のことですか?  それでしたら、はい、ぼくのことです!」


フラップは、自分の胸に手を当ててそう答えた。


「……は?」


「ですから、ぼくがお宝の役だったんです。

それで、キミたちがぼくを見つけてくれるまで、

姿を消していなければならなかったんです。

でないと、サプライズが成立しないから」


サプライズ。姿を消す……。ハルトは、だんだんと頭がこんがらがってきた。


「どう、いう、こと……?」

スズカも、ポカンとしながら頭をひねっている。彼女にも話が見えていないのだ。


「すみませんでした。おふたりを混乱させるつもりはなかったんです。

とりあえず、いったんキャンプ場に戻りましょうか。

現地で『あの方』の説明を受けたほうが、よっぽどいいと思いますから。

そろそろ、他の班も、ぼくの仲間を見つけている頃でしょうし」


「仲間って、キミの他にもここにいるの、竜が!?」


「――まずは、他のメンバーと合流しましょうか。

さあ、ふたりとも、ぼくの腕につかまってください!」
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