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③〈フレドリクサス編〉

7『探偵も調査隊も、尾行は基本中の基本』①

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「あーーん!  もうヤダァーー!」

レンの部屋の出窓カウンターで、フリーナが嘆いていました。
持っていた細いペンと電子ボードを机に投げ出し、頭を抱えます。

「無理だって~!  あたしには理解できないよ~」

フリーナの勉強机の前には、問題の書かれたホワイトボードが立っていて、
その横でしろさんが、がっくりと肩をすくめていました。

「はぁ~、これしきの計算問題、五歳で解ける人間もおるというのに。
どうして、わしの教えた通りにできんのじゃ?」

「だって、二、かける、二って何?  かけ算なんて、意味わかんないよ~!」

「教えはじめの頃から、問題のレベルを下げて、下げて、下げ続けて、
ここまできてしもうた。わしには教師のスキルはない……もう手に負えん」

まさか、フリーナの知能がこんなにも低いとは。
しろさんは、白衣のポケットからハンカチを取り出すと、
くたびれた顔で耳の後ろにわいた汗をふきました。

「おぬし、このままでは、電力コントロールも上達せぬぞ。
おぬしの能力は、知能を高めないと制御が効かんのじゃから」

おつむの弱い女の子ですが、これでもフリーナは、電気と雷を操る力があります。
しかしフリーナは、その力をうまく制御できず、まわりに迷惑をかけるのです。

ドラギィの頭脳は、人間や頭のいいネズミと同等だと、研究で分かっているのに、
これでは重症です!  もっと教え方のうまい者がいなければ――。

「あたし、気分を入れ替えたいな」

フリーナは逃げるように机から飛び上がると、
ベッドの上でごろりと横になっていたレンの顔の横まで来て言いました。

「レン~!  あたしを商店街まで連れてって~!」

「え~!」スマホでお気に入りのネット小説を読んでいたレンは、
むっくりと起き上がりながら、不祥に顔をしかめて言いました。

「今、四か月ぶりに更新された新章を読んでるとこなのに」

「だって最近、あたしもフラップも、お外に出てないんだもん。つまんない」

「あー、それもそうか……こないだのサバンナ以来、ずっとだもんね。
じゃあ、ちょっとだけだよ。バッグの中で、ちゃんと大人しくしててよね」

レンが納戸のフックにかけた緑のショルダーバッグを肩にかけると、
本棚のそばで動物図鑑を読んでいたフラップが気づいて、
ぴょんと飛び上がりました。ちょうど、サバンナの動物をながめていたのです。

「レンくん、お出かけです?」

「フラップも来る?  あそこでいろいろ食べさせてきたけど、
今日はふたりに、たこ焼きを買ってあげようかな。お小遣いたまってるんだ」

「たこ焼き!  食べてみたいです!  前から気になってたんですよう」

フラップは目をキラキラさせて、レンたちとの同行を決めました。

パタン。レンたちが部屋を出ていくと、
しろさんは、根詰めて教師の真似事を続けてきた疲れがどっと出てきて、
フリーナの机に頭からつっぷしました。

「あ~、行け行け。どこへでも行ってしまえい!」

    *

夕方四時過ぎのうさみ商店街は、
夕飯の買い出しに来た奥様たちの客足が徐々に増え、賑わいはじめた頃でした。
少々レトロっぽさがただよいますが、
お惣菜屋に洋食店に飲み屋、ファーストフードに喫茶店など、
そこそこなレパートリーがあり、地元住民の頼りにされているのでした。

レンは、両親が夜までカレー屋の仕事で忙しい時、
この商店街にある飲食店から、よく宅配サービスで夕食を取っています。
むしろ、自分でこうして商店街を歩く機会の方が、少ないのではないでしょうか。

ネズミサイズのフラップとフリーナは、
レンのバッグの中でぴったりと肩をよせ合いながら、
小さな頭だけを外に出して、人間たちの往来をながめていました。

ドラギィたちの豊かな嗅覚を満たすために、いくつかの食べ物屋をひやかした後、
レンは人気のたこ焼きチェーン店で、八個入りのパックを買いました。

それから商店街を脇道へそれると、
人気のない小さな公園にむかい、公衆トイレの裏でたこ焼きのパックを開けて、
フラップとフリーナにアツアツのソースたっぷりなたこ焼きを見せました。

「「おお~、なんと~!」」

宙を飛んでいた二匹は、表面にかつお節が踊る、
はじめてのたこ焼きにむかって、つま楊枝をえいやっ!
フラップはそのまますぐにパクンと一口。
フリーナは、少しふうふうと息を吹きかけてからパクリ。

ああ、ドラギィにも、その美味しさが分かります――
外はカリッと、中はとろ~り。ぷりぷりしたタコの歯ごたえもたまりません。

一同は、あっという間にたこ焼きを平らげてしまいました。

「ぷぅ~!  あたし、だーい満足!」
フリーナは、ぷっくりとふくれた自分のお腹を幸せそうにさすりました。

「まったく、しろちゃんときたら、あたしが一つ問題を間違うたびに、
なんでできんのじゃ~って、腹を立てるんだから」

「たしかに、しろさんはキミの先生に向いてるってカンジはしないね」
と、フラップも言うのでした。
「でも、あれでもせっかく勉強を教えてくれてるんだよ。
早く頭よくならないと、スクールから課された修行をこなせないし――」


    ヘイ!  ヘイ!  気分はスカイハァーイ♪


突然、レンのズボンのポケットから、アイドル歌手の歌が聞こえてきました。
レンのスマホの着メロです。

「おっと、鳴ってる、鳴ってる……ジュンからだ」

レンは受話器マークをスワイプし、応答しました。

『レン、今ちょっといいか?  緊急で伝えたいことがあってさ』

ジュンの声には、やや焦りの色が見えました。何かあったのでしょうか?

「緊急で?  いったいどうしたの?」

『じつはさ、さっきおれとタクな、噴水公園で小野寺を見かけたんだ。
あいつ、噴水前に集まってた他の子たちと、えらそーに話してた。
おれとタクで、いけ好かないあいつの話を盗み聞きしたろーって、
近くの木の裏からこーっそり聞いてたんだけどよ、
あの野郎、会話の中で何話してたと思う?』

「何って……分かんないし」

『いいか、驚けよ。……ドラギィのことだよ!』
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