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ラウーラ、伝える。

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 ラウーラが駆けつけると、アルフレッドはキョロキョロと辺りを見回していた。
「怪我は?」

 尋ねるとアルフレッドは笑顔で答えた。
「問題ない。あれだけ丁寧に教えてもらったからね。一発で仕留められたよ」

 そう言った視線の先にはうつ伏せで倒れたオオヤミクイが倒れていた。見れば留めの一撃も抜かりない。
「うんうん。見事な太刀筋。満点だ」

「……あ、ありがとう」アルフレッドは照れを隠す様に「それで」と続けた。
「瘴気溜まりというのはどこにあるんだ?」

「ああ、うん」
 ラウーラは小さな簡易ランプを取り出すと辺りを照らして回った。
「ランプ、持っていたのか……」というアルフレッドのつぶやきを無視してラウーラは疑わしい場所を覗き込んで回った。アルフレッドも一緒になって覗き込む。

「ここだな」
 しばらく経って、ラウーラが立ち止まったのは、古い木のウロだった。
「これが?ただのウロに見えるが」
「こう、明かりで照らしても暗いままだろ?」
 ウラーラが光をかざしても、ウロの中は光が存在していないかの様に全くの真っ暗だった。アルフレッドが息を飲む。
「こういう一見影に見えるところに紛れている。小さいと違和感がないから探すのが難しいんだ」
 そういうとウラーラは、ポーチからマッチを取り出すと火をつけ、ウロに放り込んだ。
「えっ」
 パチパチと、音を立てて青い炎が上がった。
「瘴気だけを燃やすマッチだよ。古い文献を見れば詳しく書いてあるから、今の魔術師でも作れる。仕留めた魔物に使えば、綺麗さっぱり燃やしてくれるから結構便利なんだ。もちろん素材が必要ならとってからだけど」
 そう言って青いマッチをアルフレッドに見せる。長い時を経て、なくなったり変わったりしたものはたくさんあるが、これも瘴気溜まりが現れなくなったのと同時に使われなくなってしまったらしい。今使っているのは、ラウーラの魔術師の先生であるメキジャに作ってもらったのだ。

 青い炎がほぼ消えると、遠くで小さく呼ぶ声が聞こえた。
 おそらくランプの明かりを目印に騎士団がアルフレッド探しに来たのだろう。
「あっそうだ。オオヤミクイのトゲ、毒があるって言ったでしょう?麻痺毒なんだけど……このご時世だと使わないかもしれないけど一応、結構珍しいものだから城の魔術師なんかにお土産にすると喜ばれるかも」
 やや早口に説明すると、ラウーラはトゲの入った皮袋と簡易ランプをアルフレッドに押し付けた。

「それでですね。オオヤミクイは殿下ひとりで仕留めたことにして欲しいんだけどいいですかね?実際ほぼ殿下が仕留めたわけだし」
 とっさに差し出されたものを受け取って両手を塞がれたアルフレッドは、ラウーラの言葉にぎょっと目を見開いた。
「そんなことはできない!」
「私は目立つ訳にはいかないのです。どうか!助けると思って!」
 やや大げさにお願いするとアルフレッドの勢いも弱くなる。
「………いや……でも、しかし」
「ではそういうことで!」
 そうして「じゃ」と片手を挙げ、木の上に飛び乗った。
「待て!まだ話は終わってない!」

 アルフレッドはラウーラを追いすがるが、いよいよアルフレッドを呼ぶ声も近くなって来ている。ラウーラは最後にどうしても伝えたいことがあるのを思い出して振り返った。

「殿下!今日のアルフレッド殿下、すっごくかっこよかったです!!」


 そう言うと、今度こそラウーラはアルフレッドの前から姿を消し、後はただ、アルフレッドの持つランプの灯だけが森に揺れていた。
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