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プロローグ

リオと共に

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「あの、ホントに僕なんかを仲間にしても良かったんですか……?」
「ん、良いのよ。ちょうど薬草の知識が欲しかったところだし」
「たしかに、それくらいしか取り柄はないですけど……」

 王都を出てから少し進んだ先にある森の中を歩きつつ、アタシとリオはそんな会話をしていた。おずおずと仔犬のようについてくる少年は、ずっと不思議そうにしている。
 どうして自分のような役立たずに白羽の矢が立ったのか、それが分からない。
 そういった風に見えた。

「でも、僕にもできることがあるなら……!」

 しかし、こちらの言葉に握り拳を作る眼鏡の少年。
 彼は腰元のポーチから地図を取り出して、こう言うのだった。

「えっと、ここを右に行けばハシ草という薬草が群生しています!」
「へぇ、そうなんだ。それって、なにに使えるの?」
「傷薬ですね。煎じて水で溶かすんです」

 訊ねると、どこか楽しげにリオはそう語る。
 もしかしたら彼はそういった知識に対し、少しばかり傾倒しているのかもしれない。そうだとしたら、きっと間違いはないだろう。
 アタシは言われた通りに草を掻き分けて獣道を進んでいく。
 すると行き着いたのは、一つの湖だった。

「ハシ草は、綺麗な水辺に群生してるんです。ほら、そこにありますよ!」
「あぁ、この白い草のことかな?」
「はい!」

 アタシの問いかけに、元気いっぱい頷いて答えるリオ。
 少しだけ眼鏡がズレたのを大急ぎで付け直す。

「今日のクエストは、ハシ草の採集でしたね。ここにあるのを一通り集めれば、十二分だと思います! なんだったら、今後のためにポーションを作るのも良いですね!」
「ん、リオは調合も出来るの?」
「あはは、専門職ほどではないですど……」

 リオは頬を掻いた。
 どうやら、アタシのとっさの行動は正解だったらしい。
 あの時は見ていられなくて、思わずあのように申し出たのだけど。それでも薬草の知識と、調合の基礎知識を持っている人物を仲間にできたのだ。
 そう考えると、最初に必要としていた条件にあてはまっていた。

「さて、そうなってくると……」

 とりあえず、次の目標は一緒に戦える仲間を見つけること。
 リオはこのように、どちらかといえば非戦闘員。一応簡単な自衛の手段は持っているらしいが、それでも前線に立たせるには向かないだろう。
 アタシはそんなことを考えながら、薬草を採集していく。

 その時だ。
 物陰からなにか、ギラリとした視線を感じた。


「――ひっ!」


 それに気付いたのは、アタシだけではない。
 リオの方もそれを目の当たりにして、思わず短い悲鳴を上げる。
 アタシは腰元から得物を取り出してから、スッと静かに呼吸を整えた。

「あれは、もしかして……」
「どどどど、どうしますか!? こんなところに――」

 リオは、明らかな動揺を声に乗せてこう言う。


「キメラ、だなんて……!」





 キメラ――合成獣と呼ばれるそれは、希少な魔物の一種である。
 複数の魔物が異種間で子を成した結果であり、親であるそれの各々の特徴を持っていた。今回二人の前に現われたキメラは、ワイバーンと、何かしらの獣性の魔物を掛け合わせたもの。全身を覆う剛毛に、硬い鱗をまとった翼を揺らしていた。

「に、逃げましょう! アーシアさん!!」

 リオは瞬間的に判断した。
 これは、間違いなく手に負えるそれではない、と。
 ランクで言えばA~SSランクに相当するであろう敵だった。新人冒険者であるアーシアと自分では、間違いなく相手にならない。
 冒険者は生き残ってこそ意味がある、とされている。
 だから、勝てない戦いはしない。それが、この界隈での常識だった。


「リオは、後ろで見てて」
「え……?」


 それだというのに、だ。
 リオの仲間である新人冒険者アーシアは、一言そう口にすると前に出た。そして武器を手に、自分の身の丈より遥かに大きなキメラへと相対する。
 その背中から感じられるのは、圧倒的な自信。

「………………」


 リオは息を呑んだ。
 なんだろうか。もしかしたら、自分が今から目の当たりにするのは……。


「さぁ、かかってきなさい? ――アタシの初陣には、もってこいよ」


 とんでもない伝説の始まりなのではないだろうか。
 少年はただ息を止めて、アーシアの背中を見守っていた。

 
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