2 / 4
プロローグ
リオと共に
しおりを挟む「あの、ホントに僕なんかを仲間にしても良かったんですか……?」
「ん、良いのよ。ちょうど薬草の知識が欲しかったところだし」
「たしかに、それくらいしか取り柄はないですけど……」
王都を出てから少し進んだ先にある森の中を歩きつつ、アタシとリオはそんな会話をしていた。おずおずと仔犬のようについてくる少年は、ずっと不思議そうにしている。
どうして自分のような役立たずに白羽の矢が立ったのか、それが分からない。
そういった風に見えた。
「でも、僕にもできることがあるなら……!」
しかし、こちらの言葉に握り拳を作る眼鏡の少年。
彼は腰元のポーチから地図を取り出して、こう言うのだった。
「えっと、ここを右に行けばハシ草という薬草が群生しています!」
「へぇ、そうなんだ。それって、なにに使えるの?」
「傷薬ですね。煎じて水で溶かすんです」
訊ねると、どこか楽しげにリオはそう語る。
もしかしたら彼はそういった知識に対し、少しばかり傾倒しているのかもしれない。そうだとしたら、きっと間違いはないだろう。
アタシは言われた通りに草を掻き分けて獣道を進んでいく。
すると行き着いたのは、一つの湖だった。
「ハシ草は、綺麗な水辺に群生してるんです。ほら、そこにありますよ!」
「あぁ、この白い草のことかな?」
「はい!」
アタシの問いかけに、元気いっぱい頷いて答えるリオ。
少しだけ眼鏡がズレたのを大急ぎで付け直す。
「今日のクエストは、ハシ草の採集でしたね。ここにあるのを一通り集めれば、十二分だと思います! なんだったら、今後のためにポーションを作るのも良いですね!」
「ん、リオは調合も出来るの?」
「あはは、専門職ほどではないですど……」
リオは頬を掻いた。
どうやら、アタシのとっさの行動は正解だったらしい。
あの時は見ていられなくて、思わずあのように申し出たのだけど。それでも薬草の知識と、調合の基礎知識を持っている人物を仲間にできたのだ。
そう考えると、最初に必要としていた条件にあてはまっていた。
「さて、そうなってくると……」
とりあえず、次の目標は一緒に戦える仲間を見つけること。
リオはこのように、どちらかといえば非戦闘員。一応簡単な自衛の手段は持っているらしいが、それでも前線に立たせるには向かないだろう。
アタシはそんなことを考えながら、薬草を採集していく。
その時だ。
物陰からなにか、ギラリとした視線を感じた。
「――ひっ!」
それに気付いたのは、アタシだけではない。
リオの方もそれを目の当たりにして、思わず短い悲鳴を上げる。
アタシは腰元から得物を取り出してから、スッと静かに呼吸を整えた。
「あれは、もしかして……」
「どどどど、どうしますか!? こんなところに――」
リオは、明らかな動揺を声に乗せてこう言う。
「キメラ、だなんて……!」
◆
キメラ――合成獣と呼ばれるそれは、希少な魔物の一種である。
複数の魔物が異種間で子を成した結果であり、親であるそれの各々の特徴を持っていた。今回二人の前に現われたキメラは、ワイバーンと、何かしらの獣性の魔物を掛け合わせたもの。全身を覆う剛毛に、硬い鱗をまとった翼を揺らしていた。
「に、逃げましょう! アーシアさん!!」
リオは瞬間的に判断した。
これは、間違いなく手に負えるそれではない、と。
ランクで言えばA~SSランクに相当するであろう敵だった。新人冒険者であるアーシアと自分では、間違いなく相手にならない。
冒険者は生き残ってこそ意味がある、とされている。
だから、勝てない戦いはしない。それが、この界隈での常識だった。
「リオは、後ろで見てて」
「え……?」
それだというのに、だ。
リオの仲間である新人冒険者アーシアは、一言そう口にすると前に出た。そして武器を手に、自分の身の丈より遥かに大きなキメラへと相対する。
その背中から感じられるのは、圧倒的な自信。
「………………」
リオは息を呑んだ。
なんだろうか。もしかしたら、自分が今から目の当たりにするのは……。
「さぁ、かかってきなさい? ――アタシの初陣には、もってこいよ」
とんでもない伝説の始まりなのではないだろうか。
少年はただ息を止めて、アーシアの背中を見守っていた。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。
アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。
【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】
地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。
同じ状況の少女と共に。
そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!?
怯える少女と睨みつける私。
オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。
だったら『勝手にする』から放っておいて!
同時公開
☆カクヨム さん
✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉
タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。
そして番外編もはじめました。
相変わらず不定期です。
皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます🙇💕
これからもよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる