上 下
2 / 16

1.エンカウント

しおりを挟む


「ついに、魔王が打倒される時がやってくるのですね」
「うむ。先日、神官長のイナンナが報せを持ってきた――勇者が異世界より来たる、と。そして今日、その勇者と思しき若者が発見された」
「そうですね。そのことは私の耳にも届いております国王――カール様」
「ほほう。やはり、そういった情報には強いようだな、アルよ。さすがはこの国一番の賢者、参謀と言ったところか」

 玉座に腰かけた初老の男性は、たくわえられた髭を撫でつつ笑う。
 アルと呼ばれた青年は片膝をつきながら、その男性――カールと言葉を交わしていた。この世界で最も栄えているとはいうものの、決して裕福ではない財政事情。それ故に質素な謁見の間には、彼らの他に数名の兵士しか控えていない。

 それでもカールには国王としての威厳も感じられ、またアルにも齢二十四には似つかわしくない落ち着きがあった。さすがは、最年少でミルドガッドの最高学府を首席で卒業した天童。その噂に違わぬといった雰囲気であった。

「さて。それでは、今後のことについてなのだが――」

 手でアルに起立するよう促したカールは、おもむろにそう切り出す。
 それを受けた賢者は、微笑みを崩さずに立ち上がり、君主の言葉を引き継いだ。

「えぇ。すぐに魔王討伐に赴けるよう、準備を進めております。遅くともアミス神の安息日――すなわち七日の後には進軍を開始できましょう」
「――ふむ。やはり、そなたは仕事が早いな」
「いえ。この程度、造作もないことかと……」

 謙遜するように、アルは苦笑いを浮かべながら頭を垂れる。
 しかしどこか嬉しくも思っているのか、その表情には薄い歓喜が滲み出しているようにも思われた。そういった色が出てしまうあたり、まだまだ未熟な面もあるらしい。

 と、その時であった。
 談笑する二人に向かって、声をかける人物があったのは。

「傍から見たら、男二人で気色悪いですわよ? 国王様、それにアルフレッド」
「おお、イナンナよ。遅かったではないか」

 その人物は、三十代手前の女性――神官長のイナンナであった。
 イナンナはその長く美しい紫色の髪をなびかせつつ、二人の元へと歩み寄ってくる。ややつり目の金色の瞳に、目元にはホクロ。豊かな唇は、魅惑的な紅によって彩られていた。

 背丈は長身痩躯であるアルよりも頭一つ低く、しかし女性にしては高い。たわわな二つの果実も、その女性としての魅力を十分に引き出しているように思われた。
 身にまとう衣服もまた、それを強調するような露出の多いそれ。見知らぬ者が彼女を見たとしたら、いったい誰が神に使える者であると思うであろうか。

「女には準備に時間が必要、なのですよ。男とは違って、ね」

 言って、イナンナは一つウィンクをした。
 アルは思わずドキリとしてしまい、カールに至っては人目をはばからず、文字通りに鼻の下を伸ばしている。それほどまでに、このイナンナという神官長は魅惑的な女性なのであった。
 しかし、いつまでもその色香に当てられている場合ではないと考えたのであろう。いち早くアルは咳払いをし、そして蕩けた表情を浮かべている国王に提言する。

「さて、カール様。役者は揃いました――いま、その勇者様はどこに?」
「おぉ、そうであったな。話を戻すとしよう」

 アルの言葉に、垂れ下がったみっともない表情を引き締めるカール。

「勇者は間もなく、この謁見の間を訪れる、とのことだ。おぉ、噂をすれば――」

 そして、そう言葉を続けた時であった。
 兵士の一人がカールの元へと駆け寄り、何事かを耳打ちしたのは。

「――どうやら、到着したらしい。入ってもらおうではないか」

 彼の声に、場の空気が変わった。
 穏やかなそれから、緊張感に満ちたそれに。
 アル、そしてイナンナもまた、ごくりと喉を鳴らす。

「お通ししろ――勇者様を!」

 そして、ついにその時はやってきたのであった。
 カールが声を上げると、大きな扉が、重厚な音と共に開かれる。

 今この時。
 世界を救うことになる勇者が現れるのであった。
 神に愛され、神に導かれた聖なる者が、今ここにやってきた。

 そして、その者はこう、第一声を上げる。
 はるか遠く異世界『ニホン』よりやってきた者。



 彼は、三人を見据えてこう言ったのであった。




「デュフフフフフフwww拙者が勇者、御堂勇人みどうはやとでござるwww」


 

 ――と。
 三人は硬直した。
 何故ならそこに立っていたのは、

「うはwww玉座って、マジかwwwマジ異世界とかワロタwwwwwww」


 思わず目を背けたくなるような――醜男ぶおとこだったのだから。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

処理中です...