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第12話 法務官side 「血塗られた手」
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「ニーナは詳細を日記に書き記していました。ロジャーとアグネスは娘の死の真相を知り、お兄様に相談しました。サミュエルお兄様は告発しようとしましたが、彼らに崖から突き落とされ、殺されたのです」
「なんてことを……」
「日記の存在を知った彼らは、証拠隠滅のためにわたくしの家に放火したのです。記録ではお母様が火を放ったことになっていますが、当時のお母様は起き上がることすらできないほど衰弱していました。とても屋敷中に油をまいて火をつけるなどできませんわ」
シルビアは当時を思い出したのか、表情を曇らせた。
「これはボビー・リッチも認めました。あの男、何もかも話すから、娘の命を助けろと泣いていましたわ。他人の娘を弄ぶような鬼畜でも、自分の娘は可愛いのですね」
カーティスは言葉が出なかった。
全身が小刻みに震えている。
すぐにでもここから逃げ出したかった。
「そこで折り入って、カーティス様にお願いがあるのです」
「私に?」
「ええ。5人目の復讐に手を貸していただきたいのです」
「どういうことだ?」
「あなたにしかできないことですわ。ある事件の記録を調べていただきたいのです」
シルビアは足を組みなおした。
「5年前、違法な薬物を大量に販売していたとして薬問屋が摘発され、多くの逮捕者が出ました。裁判所は内部告発をした従業員を報復から守るために、新たな名前を与え別の土地に逃がしました。今現在、その男がなんと名乗り、どこにいるのか教えて欲しいのです」
「まさか、その男が?」
「ええ、ジェシー・ロビンソン。お兄様の学友で、最後の標的です」
「そんな、復讐に手を貸すなんて、私には出来ない!!」
シルビアはクスクスと笑った。
「何をおっしゃいますの。カーティス様、あなたの手はもう血塗られているじゃありませんか」
カーティスは自分の両手を眺めた。
やっぱり夢なんかじゃなかった。
男の背中の肉に刃を振り下ろしたときの生々しい感触が蘇り、吐きそうになる。
「そ、そうだ、短剣はどこに行ったんだ?」
「グレンヴィル伯爵の背中に突き刺さったまま、今は土の下にありますわ。伯爵は誰にも行き先を告げていないし、乗ってきた馬はこことは全然離れた場所で放しましたから、バレる心配はありません。でも、もし、わたくしが逮捕され、事件が明るみにでたら、伯爵の亡骸とともにカーティス家の紋章が刻まれた短剣が発見されるのでしょうね」
ーーーーくそ、どうしてこんなことになってしまったんだ。
シルビアは立ち上がるとカーティスのそばに来た。
かがみこみ、耳元でささやく。
「カーティス様、わたくしに命を捧げてくださると仰ったでしょう?わたくしとあなたは一蓮托生なの。もう逃げられないわ」
目の前が真っ暗になった。
そこから先は記憶にない。
どうやって帰宅したのかすらわからなかった。
翌日、カーティスは人が出払ったタイミングを見計らって裁判所の資料庫に向かった。
壁一面の引き出しから、シルビアの言っていた事件を探す。
たしかヒューストン薬店だ。
大がかりな摘発で裁判が結審するまで2年以上かかったので記憶にある。
大量の証拠品の中に検察側の証人リストを見つけた。
確かにジェシー・ロビンソンの名前がある。今の名前はジャック・ボンズ。住所は隣国レニング王国の港町グリーンハーバータウンとなっていた。
カーティスはその書類を抜き取ると、小さく折りたたんでポケットに入れた。
同僚に早退すると告げ、そのままシルビアのもとに向かう。
そして、彼女に書類を手渡した。
シルビアは中を改めると、満足した笑みを浮かべ、礼を述べた。
カーティスは目の前に置かれた紅茶のカップを見つめた。
「中には何が入っているんだ?」
「睡眠薬ですわ」
「私は殺されるのだな」
「ええ。自殺ですわ。遺書も用意いたしました。あなたのくれたラブレターがありますので、筆跡を真似るのは簡単でした」
「そうか」
カーティスはふーっとため息をつく。
「それがいいかもしれないな。もう法曹界にも戻れない。生きている意味がなくなってしまった」
カップを手に取り、一気に飲み干した。
「あっ、カーティス様?」
シルビアがそばにいくと、カーティスは彼女の手を取り、自分の頬にあてた。
「君のことは本当に愛していたよ。君の手にかかって死ぬなら、それも本望だ。なあ、最後にキスをしてくれないか?」
柔らかな唇を感じながら、カーティスは深い眠りに落ちた。
「なんてことを……」
「日記の存在を知った彼らは、証拠隠滅のためにわたくしの家に放火したのです。記録ではお母様が火を放ったことになっていますが、当時のお母様は起き上がることすらできないほど衰弱していました。とても屋敷中に油をまいて火をつけるなどできませんわ」
シルビアは当時を思い出したのか、表情を曇らせた。
「これはボビー・リッチも認めました。あの男、何もかも話すから、娘の命を助けろと泣いていましたわ。他人の娘を弄ぶような鬼畜でも、自分の娘は可愛いのですね」
カーティスは言葉が出なかった。
全身が小刻みに震えている。
すぐにでもここから逃げ出したかった。
「そこで折り入って、カーティス様にお願いがあるのです」
「私に?」
「ええ。5人目の復讐に手を貸していただきたいのです」
「どういうことだ?」
「あなたにしかできないことですわ。ある事件の記録を調べていただきたいのです」
シルビアは足を組みなおした。
「5年前、違法な薬物を大量に販売していたとして薬問屋が摘発され、多くの逮捕者が出ました。裁判所は内部告発をした従業員を報復から守るために、新たな名前を与え別の土地に逃がしました。今現在、その男がなんと名乗り、どこにいるのか教えて欲しいのです」
「まさか、その男が?」
「ええ、ジェシー・ロビンソン。お兄様の学友で、最後の標的です」
「そんな、復讐に手を貸すなんて、私には出来ない!!」
シルビアはクスクスと笑った。
「何をおっしゃいますの。カーティス様、あなたの手はもう血塗られているじゃありませんか」
カーティスは自分の両手を眺めた。
やっぱり夢なんかじゃなかった。
男の背中の肉に刃を振り下ろしたときの生々しい感触が蘇り、吐きそうになる。
「そ、そうだ、短剣はどこに行ったんだ?」
「グレンヴィル伯爵の背中に突き刺さったまま、今は土の下にありますわ。伯爵は誰にも行き先を告げていないし、乗ってきた馬はこことは全然離れた場所で放しましたから、バレる心配はありません。でも、もし、わたくしが逮捕され、事件が明るみにでたら、伯爵の亡骸とともにカーティス家の紋章が刻まれた短剣が発見されるのでしょうね」
ーーーーくそ、どうしてこんなことになってしまったんだ。
シルビアは立ち上がるとカーティスのそばに来た。
かがみこみ、耳元でささやく。
「カーティス様、わたくしに命を捧げてくださると仰ったでしょう?わたくしとあなたは一蓮托生なの。もう逃げられないわ」
目の前が真っ暗になった。
そこから先は記憶にない。
どうやって帰宅したのかすらわからなかった。
翌日、カーティスは人が出払ったタイミングを見計らって裁判所の資料庫に向かった。
壁一面の引き出しから、シルビアの言っていた事件を探す。
たしかヒューストン薬店だ。
大がかりな摘発で裁判が結審するまで2年以上かかったので記憶にある。
大量の証拠品の中に検察側の証人リストを見つけた。
確かにジェシー・ロビンソンの名前がある。今の名前はジャック・ボンズ。住所は隣国レニング王国の港町グリーンハーバータウンとなっていた。
カーティスはその書類を抜き取ると、小さく折りたたんでポケットに入れた。
同僚に早退すると告げ、そのままシルビアのもとに向かう。
そして、彼女に書類を手渡した。
シルビアは中を改めると、満足した笑みを浮かべ、礼を述べた。
カーティスは目の前に置かれた紅茶のカップを見つめた。
「中には何が入っているんだ?」
「睡眠薬ですわ」
「私は殺されるのだな」
「ええ。自殺ですわ。遺書も用意いたしました。あなたのくれたラブレターがありますので、筆跡を真似るのは簡単でした」
「そうか」
カーティスはふーっとため息をつく。
「それがいいかもしれないな。もう法曹界にも戻れない。生きている意味がなくなってしまった」
カップを手に取り、一気に飲み干した。
「あっ、カーティス様?」
シルビアがそばにいくと、カーティスは彼女の手を取り、自分の頬にあてた。
「君のことは本当に愛していたよ。君の手にかかって死ぬなら、それも本望だ。なあ、最後にキスをしてくれないか?」
柔らかな唇を感じながら、カーティスは深い眠りに落ちた。
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