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第24話 月の見えない夜でも I love you.
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ぶっちゃけ、私は幽霊の類はこれっぽっちも信じていない。
人込みで男の子を連れ出そうとしたなら、それは人間のやったことに決まっている。
人身売買のための拉致が頭をよぎったが、それなら子供を放置していかないだろう。
愉快犯や嫌がらせの類だろうか。どっちにせよ、悪意があるのは明白だ。
サリッドを見ると、だいたい同じような結論に達しているようで、彼からも母親を説得してくれた。
「よろしければ、もっと詳しく話していただけませんか? 我々もなにか力になれると思いますが」
「そんな、無関係な方々にご迷惑かけるわけにいきません」
「しかし、今、手を打たないと、本格的に危害を加えてくるかもしれません。脅すつもりはありませんが、今度は息子さんが傷つけられることも十分に考えられます」
「……そうですよね。わかりました」
母子の家は郊外にあった。
母親はマリー、息子はウトバといった。
こぢんまりとした住居で、一人息子を女手一つで育てているという。
ここ一か月ほど、夜なるとに窓から黒い影が中を覗いている気配があり、そして朝には、家の出口や庭に鳥や小動物の死骸が置かれているという。
「失礼ながら、どなたから恨まれているようなことはありますか?」
「いいえ、心当たりはありません」
「仕事関係ではどうでしょうか?」
「わたしはただの小間物屋の店員ですし、商売敵というものもいませんし……」
「言いにくいかもしれませんが、ウトバの父親は?」
「3年前に離婚しました。息子は生まれたときに体が弱く、大人にはなれないだろうと医師に言われました。それで舅も姑もこんな赤ん坊しか産めない女はいらないと、夫に離縁を勧めたのです。それで私は家を追い出されました。もともと私の方が年上なこともあって、嫁として気に入られていませんでしたから」
なんつー酷い話だ。
「元のご主人が嫌がらせをしている可能性は考えられますか?」
「離縁した後すぐに10歳ほど年下の女性と再婚したそうですから、もうこちらに関心はないのではないでしょうか」
とりあえずおばけの正体を突き止めるのが先決だ。
ちょうどマリーの家のはす向かいが空き家になっており、そこで張り込みをすることにした。
バカ王子は、なぜ赤の他人のためにやらなきゃならないんだと文句を垂れ始めた。
だったら、宿屋に戻って待っていろといったが残るという。
暗闇に乗じてサリッドにベタベタする作戦は残念ながら不発に終わってしまった。
王都を出てから全然触れ合えていない。充電したいのに。
月は分厚い雲に隠れてしまった。
灯りもないなかで、時間だけが過ぎていく。
「ね、サリッドは幽霊とか信じてる?」
「いや、見たことがないし、存在しないと思っている」
うん、たぶんそんな感じだろうなーと思った。
「ふん、幽霊なんてばかばかしい。いるわけないだろう」
バカ王子はそわそわ落ち着かない。
怖いなら宿に戻ればいいのに。いや、いっそコルトレーンに帰ってくれ。
再び月が顔をのぞかせた頃、黒い人影が現れた。
叫びそうになる王子の口をふさぐ。
お化けなんかじゃない。真っ黒のマントに身を包んだ人間だ。
寝室の窓から家の中をしばらく覗き込むと、袋からネズミの死骸をとりだし、玄関のドアに向かって投げつけた。
そして、来た道をふらふらと帰ってゆく。
サリッドが立ち上がる。
「後をつけよう」
「ええ」
バカ王子は失敬だと私に対してぷんすか怒っていたが、かまっている暇はない。
私たちは離れて後をつけた。
黒マントは30分ほど歩くと、とある豪邸の前でフードを脱いだ。
若い女性だった。
翌朝、マリーに昨晩の出来事について話した。
「そこは元夫の家です」
「黒マントの正体は、新しい奥さんでしょうか?」
「会ったことはないので、顔を知らないのです。どうして嫌がらせなんかするのかしら」
「うーん、昔の妻に嫉妬するにしろ、なんでこのタイミングなのかしらね」
首をひねる。
「動機は考えたところで本人にしかわからないだろう。元夫に抗議したらやめさせられるだろうか」
サリッドの言う通り、止められるとしたら旦那だろう。
問題は証拠がないことだ。
私たちはただの通りすがりの旅人だし、そんな素性も知れない奴らの目撃証言だけでは信じてもらえないかもしれない。
人込みで男の子を連れ出そうとしたなら、それは人間のやったことに決まっている。
人身売買のための拉致が頭をよぎったが、それなら子供を放置していかないだろう。
愉快犯や嫌がらせの類だろうか。どっちにせよ、悪意があるのは明白だ。
サリッドを見ると、だいたい同じような結論に達しているようで、彼からも母親を説得してくれた。
「よろしければ、もっと詳しく話していただけませんか? 我々もなにか力になれると思いますが」
「そんな、無関係な方々にご迷惑かけるわけにいきません」
「しかし、今、手を打たないと、本格的に危害を加えてくるかもしれません。脅すつもりはありませんが、今度は息子さんが傷つけられることも十分に考えられます」
「……そうですよね。わかりました」
母子の家は郊外にあった。
母親はマリー、息子はウトバといった。
こぢんまりとした住居で、一人息子を女手一つで育てているという。
ここ一か月ほど、夜なるとに窓から黒い影が中を覗いている気配があり、そして朝には、家の出口や庭に鳥や小動物の死骸が置かれているという。
「失礼ながら、どなたから恨まれているようなことはありますか?」
「いいえ、心当たりはありません」
「仕事関係ではどうでしょうか?」
「わたしはただの小間物屋の店員ですし、商売敵というものもいませんし……」
「言いにくいかもしれませんが、ウトバの父親は?」
「3年前に離婚しました。息子は生まれたときに体が弱く、大人にはなれないだろうと医師に言われました。それで舅も姑もこんな赤ん坊しか産めない女はいらないと、夫に離縁を勧めたのです。それで私は家を追い出されました。もともと私の方が年上なこともあって、嫁として気に入られていませんでしたから」
なんつー酷い話だ。
「元のご主人が嫌がらせをしている可能性は考えられますか?」
「離縁した後すぐに10歳ほど年下の女性と再婚したそうですから、もうこちらに関心はないのではないでしょうか」
とりあえずおばけの正体を突き止めるのが先決だ。
ちょうどマリーの家のはす向かいが空き家になっており、そこで張り込みをすることにした。
バカ王子は、なぜ赤の他人のためにやらなきゃならないんだと文句を垂れ始めた。
だったら、宿屋に戻って待っていろといったが残るという。
暗闇に乗じてサリッドにベタベタする作戦は残念ながら不発に終わってしまった。
王都を出てから全然触れ合えていない。充電したいのに。
月は分厚い雲に隠れてしまった。
灯りもないなかで、時間だけが過ぎていく。
「ね、サリッドは幽霊とか信じてる?」
「いや、見たことがないし、存在しないと思っている」
うん、たぶんそんな感じだろうなーと思った。
「ふん、幽霊なんてばかばかしい。いるわけないだろう」
バカ王子はそわそわ落ち着かない。
怖いなら宿に戻ればいいのに。いや、いっそコルトレーンに帰ってくれ。
再び月が顔をのぞかせた頃、黒い人影が現れた。
叫びそうになる王子の口をふさぐ。
お化けなんかじゃない。真っ黒のマントに身を包んだ人間だ。
寝室の窓から家の中をしばらく覗き込むと、袋からネズミの死骸をとりだし、玄関のドアに向かって投げつけた。
そして、来た道をふらふらと帰ってゆく。
サリッドが立ち上がる。
「後をつけよう」
「ええ」
バカ王子は失敬だと私に対してぷんすか怒っていたが、かまっている暇はない。
私たちは離れて後をつけた。
黒マントは30分ほど歩くと、とある豪邸の前でフードを脱いだ。
若い女性だった。
翌朝、マリーに昨晩の出来事について話した。
「そこは元夫の家です」
「黒マントの正体は、新しい奥さんでしょうか?」
「会ったことはないので、顔を知らないのです。どうして嫌がらせなんかするのかしら」
「うーん、昔の妻に嫉妬するにしろ、なんでこのタイミングなのかしらね」
首をひねる。
「動機は考えたところで本人にしかわからないだろう。元夫に抗議したらやめさせられるだろうか」
サリッドの言う通り、止められるとしたら旦那だろう。
問題は証拠がないことだ。
私たちはただの通りすがりの旅人だし、そんな素性も知れない奴らの目撃証言だけでは信じてもらえないかもしれない。
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