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第17話 シャンパンを“泡”と呼ぶと「通」ぶれるらしい

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国王陛下は私に王宮にしばらく滞在してはどうかと勧めてきた。

「ありがたいお言葉ですが、できたらクリスタルを一日でも早く持ち帰りたいのです」
「いや、そなたをせかしたくはないのだ。これまでの旅の疲れを癒し、ぜひ客人としてもてなさせて欲しい」

ここまで言われては断った方が失礼になってしまう。

「陛下のお心に感謝いたします」
「部屋を用意させよう。ぜひ、ゆっくりくつろいでいってくれ」

そう言うと、国王陛下は執務に戻っていった。
すぐに侍女がやってきた。客室に案内してくれるという。
サリッドと夕食を一緒にとる約束をし、彼はいったん宿舎の自分の部屋に戻っていった。

私は侍女に先導されて長い廊下を歩いた。

「こちらをお使いくださいませ」

緻密な金細工の施された扉を開け、中に通してくれた。
落ち着いた青を基調に配置された家具と、金色の調度品がふしぎとマッチしている。
床はディルイーヤ王国に昔から伝わる文様を織り込んだ白い絨毯が敷き詰められ、壁にはツルの長い観葉植物が飾られていた。
まるで深い森の中の湖にいるようだ。水が貴重な国だから、豊かな緑へのあこがれが強いのだろうか。
コルトレーン王国ではお目にかかれないコーディネイトに異国情緒が感じられる。


「晩餐前に湯あみをどうぞ」

サナーと名乗る侍女がお風呂に案内してくれた。
バラの花を浮かべた、たっぷりのお湯に全身を沈める。
このダリウスローズは西の大陸で産まれた品種でディルイーヤの国花にもなっている。
花弁が大きく華やかで、香りも強い。まるでローズウォーターに浸かっているようだ。
こんな贅沢なバスタイムは久しぶり。

髪を丁寧に乾かし、ブラッシングする。
あれ、そういえば晩餐に着られるようなドレスってあったっけ?

「聖女様、よろしかったらこちらをお召しになってみませんか?」

見せてくれたのは、この地方の民族衣装だった。ちょっとしたパーティの時などに着る晴れ着だという。
筒状のノースリーブのワンピースで、丈は足首まである。
素材はシルクだろうか、つややかで滑らかな布が使われていて、白い生地には金糸で華やかな刺繍が施されている。
組み紐で作られたウエストベルトをちょっと高めの位置で締める。
髪も、サナーがこの国伝統のアップスタイルに結ってくれた。

「どう?」

姿見を覗きながら、その場でくるっと一回転する。

「異国人の私が着ても大丈夫かしら?」
「とってもお奇麗ですよ!お似合いですわ」

ドアがノックされ、騎士服姿のサリッドが部屋に迎えに来てくれた。
初めて見る正装はカッコいいをはるかに超えて神々しい。
瞬きをするのすらもったいない。この目にしっかりと焼き付けておかなくちゃ。


広いバルコニーにテーブルがセッティングされていた。
王宮の広い庭が一望できる最高のロケーション。
いくつも灯されたキャンドルの炎がとてもロマンチックだ。

「ステキね」

思わずため息が漏れる。

「このバルコニーは国王陛下のお気に入りでして、以前はここでマルー王妃殿下とよくお食事をされていました」

給仕係が教えてくれた。

「まあ、そんな大切な場所に……。いいのかしら」
「はい、ぜひ聖女様にお使いいただきたいとのことです」
「ありがたいですわ」

国王陛下の篭絡作戦はばっちり成功したようだ。

晩餐が始まる。
スリムなグラスに注がれるシャンパン。
ほんのりピンクに色づいた液体を口に含むと、きめ細かな泡が舌の上で溶けていく。
んー、美味しい!

サリッドとは旅の間、何度も一緒に食事をしたけれど、ほとんどが宿や市場の大衆食堂だった。
考えてみたら、お洒落をしてのディナーというのは初めて。
なんか、付き合って最初のデートみたいで嬉しくなってしまう。

食事も素晴らしく美味しかった。
贅沢な食材をふんだんに使っているだけでなく、味付けも複雑で手が込んでいる。
デザートまでしっかり堪能してしまった。

「とても美味しかったわ、ありがとう」

給仕係にお礼を言って席を立つ。

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