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第7話 女が押して押して押しまくればたいていの男はモノにできる

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宿に戻る。タルクを起こして食事をさせた。

「なぜ兵士に追われていたんだ。話してくれないか」
「お前を巻き込みたくないんだ」

タルクはかたくなに拒んでいたが、サリッドの辛抱強い説得で、ようやく打ち明けてくれた。

マスヤーフの周辺には少数の部族が数多くいて、それぞれ集落を作って生活している。
また遊牧民も多い。
1~2年ほど前から幼い子供が連れ去られる事件が頻発するようになった。
部族同士、連携しながら、誘拐団の一人を捕らえ、なんとか情報を引き出すことができた。
攫われた子供は外国に輸出され、子供のいない夫婦に引き渡されたり、奴隷として売買されているという。
誘拐団を操っているのはマスヤーフを治める最高指導者の右腕、アル=ムタイリー宰相だった。
捕縛した誘拐団のメンバーに証言させようとしたが、少し目を離したすきに自害されてしまった。

最高指導者に訴えようと城に行ったが、証拠も証人もない状況では、門前払いされただけだった。
そこで、宰相の屋敷に忍び込んで人身売買の裏付けとなるものを探そうとしたが、部屋をあさっているところを見つかってしまった。
自分はなんとか逃げ出したが、一緒にいたナジュムは捕まり、投獄されている。
ナジュムは族長の息子で、タルクとは幼馴染である。

「なあ、あんた移動の魔法が使えるんだろう? 牢屋からナジュムを連れ出せないのか?」
「残念だけど、私の転移魔法は一度行ったことのある場所じゃないと使えないのよ」

あえて逮捕され牢屋に入り、そこから脱出するアクロバティックな方法もあるだろうが、どんな乱暴な扱いをされるかわからないし、手足を拘束されたりすれば魔法陣が描けない。
リスクが大きすぎる賭けだ。

便利そうで意外と使いにくいのが転移魔法だ。
誰かがいるところに転移してしまったら、ぶつかった衝撃で怪我をさせてしまうことも考えられる。先に転移先の安全を確かめる必要があり、うかつに使うことができない。
そもそも転移魔法は聖女の使う魔法ではないのだ。
私は冒険を見据えて独自の魔法修業をしていたから少し使えるだけで、聖女学校では決して教えることはない。
いくらレイシーがチートキャラでも限界はある。

「おそらく、証拠もなく宰相を犯罪者よわばりしたことで反逆罪とされ、すぐに処刑されるだろう。一刻でも早くナジュムを救い出したいんだ」
「なら、処刑される直前には牢獄から出されるでしょう? その時を狙って奪還したらどうかしら? 処刑はどこで行われるの?」
「街の中央広場だ」
「手順は?」
「処刑の開始は昼の12時と決まっている。罪人が牢獄から馬車で広場に連れてこられ、断頭台に登らされるんだ」
「それなら、そこに乗せられたタイミングはどうかしら? その広場は誰でも入れるのでしょう? なら事前に下見をしておけば転移魔法が使えるわ」

まず断頭台のすぐそばに魔法陣を出現させ、私自身を転移する。
そしてナジュムに触れ、再度、転移魔法を使えば、ナジュムも一緒に移動できる。

サリッドは反対する。

「危険すぎる。万が一タイミングを間違えたりすれば、レイシーも捕らえられるかもしれないじゃないか」

でも、これしかない。

「私を信じて。失敗したりしないから」

タルクも

「頼む」

と頭を下げた。

「だめだ。レイシー、君を巻き込みたくないんだ」
「あのね、サリッド。巻き込みたくないというタルクさんから無理やり聞き出したくせに、私のことは巻き込みたくないから遠ざけるっておかしいでしょ」
「それとこれは違う。君を傷つけたくない」
「私だって無実の人が傷つくのを見たくないのよ。お願いだから手伝わせて」

結局、サリッドが折れる形になった。

「まだ兵士たちが町中を探していたから、タルク、お前はこの宿の部屋から出ない方がいい。ナジュムの救出に必要なものは俺とレイシーで揃える」
「ああ、わかった。すまない、サリッド。あと、あんたにも迷惑かけて申し訳ない」
「レイシーって呼んで」

にこっと微笑む。


あ、そうだ。

「商店街で、女の子に声をかけられたのだけど、知り合いかしら? 三つ編みをした、キュートなソバカスの子よ」
「ラーニヤかな。ああ、知っている。よく通ってた食堂の娘さんだよ」
「彼女、あなたのことをとても心配していたわ」
「……そうか」

タルクの頬がわずかに緩む。
ちょっと嬉しそうだ。
惚れてるって程でもないけど、かなり好感は持っている感じ?
これは押せばいけそう。
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