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第2話 悪徳令嬢は毒殺を目論む-2-
しおりを挟む■第1章■
ヒロイン:シンシア・ブランドン
攻略対象:エリック・ラッセル(監察医)
シンシアには愛する男エリックがいる、エリックもシンシアを心から愛している。つまり相思相愛なのだが、貴族の令嬢と平民男性との身分違いの恋は成就が難しい。
そのうえ、最近、シンシアの父親が娘の結婚相手を勝手に選び、婚約させようとしている。
正攻法ルートでは、たしか地道にシンシアの両親を説得し、エリックとの婚姻を認めさせるとなっている。
が、
まともにやったら時間がかかるし、悪徳令嬢の言葉など受け入れてくれるか疑問だ。
さて、どうしたものか。
その晩、私は上級貴族カートレット家主催の夜会に来ていた。
夜会の主な目的はカートレット家の次男のお嫁さん探しだが、社交界には私の悪名が知れ渡っているせいか、男なんか誰も寄って来やしない。
行きがけの駄賃とばかりに高そうな酒を浴びるほど飲んで、酔い覚ましに庭園を散歩していると、木の陰で逢瀬中の若い男女を見つけた。
身を寄せ合って深刻そうに話している。
女性のほうは第1章のヒロイン、シンシア・ブランドンだ。
たしか婚約者は強欲な成金貿易商で、親子ほども年の離れているハゲデブのおっさんのはず。
と、なると、お相手の青年は監察医のエリック・ラッセルか。
私はそっと二人に近づき、声をかけた。
翌々日の午後、我が家の庭園で、私とシンシアはお茶を楽しんでいた。
「そうそう、シンシア様、近々、ご婚約を発表されるとか。おめでとうございます」
「……ええ」
「お相手の方は貿易商を営まれているそうですね」
「……私、結婚したくありません」
シンシアはシクシクと泣き出した。絹のハンカチで涙を拭う。
「金儲けのためなら、どんなあくどい手段も厭わない冷酷な男なんです。商売敵のことは卑怯な手を使ってとことん叩き潰すので、一家離散に追い込まれた家族もいると聞いています。そんな方の妻になど、私、なりたくありません」
「そんな、酷い話ですわ。ご両親に相談なさったら?」
「いえ、父のほうから貿易商へ結婚話を持って行ったんです。ブラントン家の領地の名産品を輸出するために海外へ販路をもつ会社と手を組みたいから」
「なんてこと……」
「ごめんなさい、アレクシス様にこんなお話を聞かせてしまって。ね、もう少し、甘いものがいただきたいですわ」
「そうね、お菓子を持ってこさせましょう」
私は執事にチョコレートを取りに行ってくれるよう頼んだ。
召使にお茶のお代わりを注いでもらう。
砂糖を入れようとしたら手が滑ってスプーンを落としてしまった。
召使がしゃがみ込んでテーブルの下のスプーンを拾う。
「失礼しましたわ」
その瞬間、シンシアが椅子から倒れ落ちた。
「シンシア様?大丈夫ですか?お加減が悪いのですか?」
慌てて駆け寄る。
声をかけてもゆすっても、シンシアは何の反応もなかった。
「シンシア様、しっかりしてください、シンシア様!!」
「キャアアアアーーーーー」
召使が悲鳴をあげる。
チョコレートの箱を持った執事が走って戻ってきた。
「誰か、ああ、はやくお医者様を呼んで!!!」
執事が脈をとる。
「お亡くなりになられています……」
すぐに保安官が呼ばれ、シンシアの両親もやってきた。
ガーデンに横たわる娘を見た両親は取り乱し泣き叫んでいた。無理もない。
落ち着くまではと両親は別室に連れ出された。
シンシアの遺体は保安官事務所で死因を調べるため、保安官の部下が運び出した。
保安官が紅茶が半分残っているティーカップを調べる。
「このにおいは阿片ですな。死因はこれで間違いないでしょう」
「まあ、恐ろしい」
「先日のカートレット家の夜会ではあなたとシンシア嬢は派手にケンカをなさったとか」
「ええ。それが何か」
「高価な首飾りを壊されて、あなたは大変立腹していた。それで、シンシア嬢に毒を盛ったのではないですかな?」
「何を馬鹿なことを。今日は私が仲直りのためにお呼びしたのよ」
私はプイっとそっぽを向く。
「私はお茶に触れていませんわ。カップは執事が用意しましたし、お茶を注いだのは召使です」
「召使や執事にやらせたんだろう!」
執事のセバスチャンと召使のミラがむっとしている。
「失礼なことを言わないでくださいませ。わがキャンベル家の使用人は、たとえ命じられてもそんな馬鹿な真似はいたしません!!」
「じゃあ、誰が阿片を入れたというんだ!!」
保安官はイライラし始めていた。
私はちらっと時計を見る。
ま、そろそろいいか。
「保安官さん、ちょっとお茶を舐めてごらんなさい」
「へぇっ??」
「なにビビっているのよ、ちょっとくらいなら死にはしないわよ」
私はカップに指を突っ込み、ペロッと舐めてみせた。
「ほら」
こわごわお茶を舐める保安官。
「苦い!」
ペッと吐き出した。
「そう、阿片は苦いのよ。そんな味のお茶をシンシア様が気づかずに飲み込むと思う?つまり、シンシア様はわかっていて飲んだの。阿片を入れたのは彼女自身よ」
「嘘よ!!!!」
シンシアの母親がガーデンに立っていた。
「ブラントン夫人……」
「娘が自殺するはずないわ!!あなたが殺したんでしょう!!!悪徳令嬢ですもの、あなたならやりかねないわ!!」
私につかみかかろうとした母親を召使のミラが止めた。
「アレクシスお嬢様はそんな人ではありません!!シンシア様は婚約を嫌がり、嘆き悲しんでおられました!!非道な貿易商と結婚をしたくないと!私も聞いていました!」
ミラが私に向き直る。
「お嬢様、出しゃばった真似をして申し訳ありません。でも、黙っていられなくて」
「いいのよ、ありがとう」
保安官は自殺と断定した。
シンシアの両親も肩を落として帰っていった。
私ひとりになったところで、男性に呼び止められた。
茶色の髪に切れ長の瞳、鼻筋の通った整った顔立ち。目の覚めるような美形だ。
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近衛隊に所属する騎士で、お父様の部下だという。
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「ここから先は僕の独り言です。シンシア嬢は自分でティーカップに阿片をいれた。それは確かですが、飲みはしなかった。しかしシンシア嬢は亡くなった。
いや、亡くなったように見えた」
私は思わず息を飲んだ。
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