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第13話
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「ふん、邪魔が入ったの」
黒星丸の片手で健人の首をつかみあげた。
気道が潰されそうなほどに締め上げられる。手を外そうとなんとかもがくが、びくともしない。
苦しい。視界がかすみ、意識が遠のく。
黒星丸がぐいっと顔を寄せた。
殿上眉が描かれた額の中央が盛り上がると、真ん中から裂け、紅唐色の勾玉がせり出した。
「ケケケッーーーーーケケケッケケッーーーーケケケケケッーーーー」
小刻みに震える勾玉からけたたましい笑い声が響く。
しかし、
「ぐわあああ!」
突如、笑い声が叫び声に変わった。
「ぐぅぅ、なぜじゃ、力が吸い取られる」
突然、掴まれていた手から解放され、健人は地面に落下した。酸素を求めてゼイゼイと呼吸をする。
大蛇だったものが髪に戻り、足も自由になった。
黒星丸の背中には白羽の矢が深々と刺さっていた。
渡殿に目をやると、大弓を構える惟光の姿があった。
瞳には鋭い光がともり、それは時任のよく知る在りし日の兄の姿だった。
「ばかな、おまえの魂は喰らいつくしたはず!!!」
「兄者……」
「ゆくぞ、時任!!!」
「ああ」
健人は力を振り絞り立ち上がった。
「六根清浄、急急如律令」
「急急如律令呪符退魔」
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」
聖なる九字を唱えながら、両手で手印を結ぶ。
兄弟の唱える剣印の法は青白い炎に姿を変えてゆく。
健人は雪華斬を高くかざすと、炎は刀身にまとわりつき眩い光を放った。
柄を握りなおす。
強く踏みこみ、右上空へ振り上げた雪華斬を全身全霊で振り下ろす。
「 滅!!!!! 」
切っ先が黒星丸の頭骸骨をとらえた。のめりこんだ刃が紅の勾玉を粉砕する。
そのまま全体重をのせ垂直に切り下ろす。
黒星丸の躰は二つに裂け、そのまま二度と動かなくなった。
印をほどいた惟光は音もなく倒れると、躰がほろほろと崩れ始めた。
いくら鬼神の血を引くとはいえ千年は人間の肉体には長すぎる時間だった。
「兄者!!!」
健人は駆け寄り、惟光の手をとり握りしめる。
惟光を封印の中に残していったことをずっと後悔していた。
「兄者を犠牲にしてすまなかった、許してくれ」
「詫びなど要らぬ、わたしはそなたを恨んでもいない、おのれの運命を悔いたこともない」
時任よ、安寧に過ごせ、惟光は最期に微笑んでみせた。
後には白い灰の山が残された。
空蝉が自分の着物の袖を破き、灰をひとすくいすると、丁寧に包み健人に手渡した。
健人は布包みを自分の胸に押し当てる。
そして静かに涙を流した。
黒星丸の片手で健人の首をつかみあげた。
気道が潰されそうなほどに締め上げられる。手を外そうとなんとかもがくが、びくともしない。
苦しい。視界がかすみ、意識が遠のく。
黒星丸がぐいっと顔を寄せた。
殿上眉が描かれた額の中央が盛り上がると、真ん中から裂け、紅唐色の勾玉がせり出した。
「ケケケッーーーーーケケケッケケッーーーーケケケケケッーーーー」
小刻みに震える勾玉からけたたましい笑い声が響く。
しかし、
「ぐわあああ!」
突如、笑い声が叫び声に変わった。
「ぐぅぅ、なぜじゃ、力が吸い取られる」
突然、掴まれていた手から解放され、健人は地面に落下した。酸素を求めてゼイゼイと呼吸をする。
大蛇だったものが髪に戻り、足も自由になった。
黒星丸の背中には白羽の矢が深々と刺さっていた。
渡殿に目をやると、大弓を構える惟光の姿があった。
瞳には鋭い光がともり、それは時任のよく知る在りし日の兄の姿だった。
「ばかな、おまえの魂は喰らいつくしたはず!!!」
「兄者……」
「ゆくぞ、時任!!!」
「ああ」
健人は力を振り絞り立ち上がった。
「六根清浄、急急如律令」
「急急如律令呪符退魔」
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」
聖なる九字を唱えながら、両手で手印を結ぶ。
兄弟の唱える剣印の法は青白い炎に姿を変えてゆく。
健人は雪華斬を高くかざすと、炎は刀身にまとわりつき眩い光を放った。
柄を握りなおす。
強く踏みこみ、右上空へ振り上げた雪華斬を全身全霊で振り下ろす。
「 滅!!!!! 」
切っ先が黒星丸の頭骸骨をとらえた。のめりこんだ刃が紅の勾玉を粉砕する。
そのまま全体重をのせ垂直に切り下ろす。
黒星丸の躰は二つに裂け、そのまま二度と動かなくなった。
印をほどいた惟光は音もなく倒れると、躰がほろほろと崩れ始めた。
いくら鬼神の血を引くとはいえ千年は人間の肉体には長すぎる時間だった。
「兄者!!!」
健人は駆け寄り、惟光の手をとり握りしめる。
惟光を封印の中に残していったことをずっと後悔していた。
「兄者を犠牲にしてすまなかった、許してくれ」
「詫びなど要らぬ、わたしはそなたを恨んでもいない、おのれの運命を悔いたこともない」
時任よ、安寧に過ごせ、惟光は最期に微笑んでみせた。
後には白い灰の山が残された。
空蝉が自分の着物の袖を破き、灰をひとすくいすると、丁寧に包み健人に手渡した。
健人は布包みを自分の胸に押し当てる。
そして静かに涙を流した。
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