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第27話 祝福された結婚【最終話】 

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神殿の控室で支度を終えたアビゲイルは、姿見の前に立っていた。
ウェディングドレスとヴェールは国王夫妻からのプレゼント、ティアラはビジュウ・オロールの職人たちが作ってくれた。

「ねえ、エマ、おかしくないかしら?」
「何をおっしゃっているんですか。とってもお似合いですよ!」

着付けを手伝っていたエマが微笑む。
アビゲイルは深呼吸をしながら、頭の中でリハーサルの復習をする。
最初は神殿で成婚の式典。
その後に王宮のバルコニーでお披露目、そして大広間で披露宴となる。

時間通り、控室に正装のエリオットが迎えに来た。
ドレス姿のアビゲイルを見てエリオットは目を細めた。

「今日のあなたは格別に綺麗です。いつも可愛らしいですけどね」
「ありがとうございます。殿下も一層凛々しくて素敵ですわ」
「では、行きましょうか」

アビゲイルは差し出された手を取る。

「緊張していますか?」
「いいえ、殿下が隣にいてくれるんですもの。何も怖いことなんてありません」


王家の神殿で行われる成婚の式典には二人だけで臨む。
厳かに響き渡る鐘の音に包まれながら、女神像に祈りをささげ、大神官の立ち合いのもと成婚誓約書にサインする。

「女神ベリアルの名のもとに、お二人の結婚を認めます。おめでとうございます」


これで正式な夫婦となれた。
アビゲイルの心は喜びと幸せで満たされていた。
次はお披露目だ。バルコニーへ向かう。
その途中、エリオットが急に立ち止まった。

「殿下?」
「すみません、アビー」

そういうとアビゲイルを抱き寄せた。
すこしかがみこみ、唇を重ねる。
優しいけれど情熱的な熱いキス。

「すみません、結婚できたのが嬉しくて我慢できませんでした」
「……」
「アビー?怒っていますか?」

エリオットが顔をのぞき込むと、アビゲイルは耳まで真っ赤になっていた。

「怒っていません。わ、私、こういうこと初めてで……。その、前の結婚では一切なかったから」

エリオットは愛おしそうにアビゲイルをぎゅっと抱きしめる。

「もう、あなたはどこまで可愛いんですか。このままどこかに連れ去ってしまいたい気分なので、残りの式典はボイコットしましょうか」
「え、そんなのダメですよ!」

慌てるアビゲイルを見てエリオットはふっと笑った。

「仕方ないですね。バルコニーへ行きましょう。その前に、」
「はい?」
「もう一度、キスしてもいいですか?」


今日は宮殿の庭園が解放され、若き夫婦を祝福しようとする市民で埋め尽くされていた。
濃紺の幕と金色のタッセルで飾られたバルコニーでは国王夫妻と王太子夫妻が待っていた。
エリオットとアビゲイルが登場すると大歓声が上がった。
国王陛下が市民に向けて高らかに宣誓する。

「第二王子エリオットとアビゲイル・ボーフォート嬢の成婚の式典が先ほど行われた。新たな家族を迎え、我ら一族は、この先も国家のため国民のため真摯に尽くすことをここに誓う」

いつまでも拍手と声援が鳴りやむことはなかった。



オレンジ色の蝋燭だけがほのかに灯る夫婦の寝室。
天蓋付きのベッドにアビーはいた。
今度は一人ではなく、将来を誓い合った最愛の夫の腕の中にいた。
初夜をボイコットされた哀れな新妻はもうどこにもいない。
愛する喜びに満たされた結婚生活がこれから始まる。
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みんなの感想(16件)

pajan
2023.12.10 pajan

後できれば番外編でローマンに重い『ざまぁ』があるといいなぁと期待しています。

きのと
2023.12.11 きのと

投稿を開始してから、初めて感想をいただきました。めちゃくちゃ嬉しいです。読んでくださってありがとうございました。

解除
pajan
2023.12.10 pajan

楽しい作品を読めてありがとうございました。👍

解除
pajan
2023.12.10 pajan

👍👍👍

解除

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