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第26話 一生分の勇気

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「それで?」
「考えさせてくださいと……」

はーっと王太子妃は大げさにため息をついた。

「エリオットが暗い顔しているから、そんなことじゃないかと思ったけど、まったく何しているのよ、あなたたちは!」
「あの、王太子妃様、そのために私は呼ばれたのですか?」

小一時間ほど前、屋敷に馬車が停まると、アビーは強制的に乗せられ王宮に連れてこられた。

「そうよ。公務は手につかないみたいだし、あんなに腑抜けているところは初めて見たわ」
「……そうでしたか」
「ねえ、アビー、まさか、離婚歴があることを気にしているんじゃないでしょうね。そんなこと最初からわかっていたことだし、その程度で引くような義弟じゃないわよ」
「正直、それはあります。それに私なんかが王族にふさわしいのかと……」
「あのね、王族の一員として言わせてもらうなら、ベアテのあなたはとてもふさわしいわ。王妃様がいつも気にしていらっしゃるのよ。自分が亡くなった後、人々の心の拠り所がなくなってしまうんじゃないかと。だけどあなたが次に控えているとなったら、全ての国民が安心できるわ。多くの人の役に立ちたいならこれ以上のお役目はないんじゃない?」
「……そんな風に考えたことはありませんでした」
「あなたの前の夫が最低だったことは聞いているわ。結婚そのものがトラウマになっても仕方ないと思う」

王太子妃は言葉に力を込める。

「でもね、出来たらエリオットと他の誰かを比べたりしないで。彼だけを見て、彼との未来を考えてあげて欲しいの」

その通りだ。
ローマンは私を虐げ、傷つけることしかしなかった。
だけど、それがエリオット殿下と何の関係があるのか。
彼はいつだって優しかった。宝物のように大切に守ってくれた。
離婚してもう男なんてこりごりだと思っていたのに、出会った瞬間に恋に落ちていた。
ううん、それ以前に幼かったあの日、白薔薇の中で彼を見たときから心を奪われていたじゃないか。

「私、帰ります!ありがとうございました!リリア様!」

アビゲイルは王宮を飛び出した。
馬車から降りるのももどかしく、屋敷に駆け込む。

「殿下!」
「アビー、出かけていたんですか?屋敷にいないから心配しましたよ」

その勢いのまま、エリオットの胸に飛び込んだ。

「どうしたんですか?」
「殿下、ごめんなさい。私、結婚が怖かったんです。辛い思い出しかなかったから。でも、あなたのいない人生なんて考えられない。愛しています。ずっと一緒にいたいんです」

一生分の勇気を振り絞った。

「エリオット・ ヘイスティングズ殿下、私と結婚してください」

ほんの数秒の間が数時間にも感じた。

「まったく、あなたという人は。どうして僕が言いたかったセリフを先に言ってしまうんですか」

力を込めてアビゲイルを抱きしめた。

「生涯かけて、かならず幸せにします」


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