上 下
25 / 27

第25話 喜びの再会

しおりを挟む
「アビゲイル様!」
「エマ、久しぶりね。元気だった?」

二人は抱き合って1年ぶりの再会を喜んだ。
急な離婚だったから満足に別れの挨拶も交わせなかった。

「こちらは、エリオット殿下よ」
「以前、アビゲイル様の侍女をしておりましたエマと申します。お招きいただき、ありがとうございます」
「アビーから君のことは聞いているよ。ずっと支えになってくれたと。僕からもお礼をいいたい」
「そんな、もったいないお言葉です」

サロンに侍女が淹れてくれた紅茶の香りが漂う。

「前は、よく温室でこうやってお茶を飲んだわね」
「はい、ずいぶん昔のことのような気がします」
「それで、ケッペル家はどう?」
「先代様が亡くなって、ローマン様が事業を引き継いだのですが、会社は廃業寸前だそうです。今は、残された資産でやりくりしているそうですが、破産するのも時間の問題だろうと執事が言っていました」
「そう」

ローマンの様子からケッペル家の経済状況が思わしくないことは容易に想像できたが、それ以上に苦境にあるようだ。

「お給金も払えないらしく、使用人もどんどん辞めさせられています。私もいつクビになるか」
「それなんだけど、エマ、ケッペル家を辞めて、また私の侍女になってくれないかしら?」
「ええ!?」
「しばらく殿下のお屋敷でお世話になる予定なの。あなたがここのお屋敷に移ったら、その間、私付きになって欲しいの。殿下にお願いして了解いただいているわ」
「本当にありがたいお話です。でも……」
「もしかしてジョージのこと?」
「はい、彼を残して私だけ出ていけません」
「そのジョージというのは?」
「エマの恋人です。料理人で、とても感じのいい青年です」
「それなら、彼もここで働いてもらったらどうかな?」
「殿下、いいのですか?」
「もちろんです。もし、料理人として腕を磨きたいなら王宮の厨房を紹介しますよ。もっとも、料理長は非常に厳しいと評判ですが」

王族の料理番はすべての料理人の憧れだ。

「そんな、王宮で働けるなんてジョージがどれだけ喜ぶか」
「君の恋人の気持ち次第だが、ふたりで話し合ってみてくれるかな?」
「エマはジョージと離れたら寂しいかもしれないけれど、王宮はすぐそばだからいつでも会えるわよ、ふふ」

エマは顔を真っ赤にした。

「もう!アビゲイル様、揶揄わないで下さい!」
「ごめん、ごめん」


3日後、エマとジョージはふたりでケッペル家を退職してきた。
ジョージは夢だった王宮で働きたいという。
そしてこれを機に結婚することにしたと報告してくれた。
アビゲイルは可愛らしい夫婦の誕生を心から喜び、祝福した。


一方、エリオットはローマンをおびき出すために、アビゲイルが借りていたアパートに似た背格好の女騎士を代わりに住まわせた。
まんまと忍び込んできたローマンを張り込んでいた憲兵たちが取り押さえた。
不法侵入と元妻への暴行だけではなく、麻薬の輸入など違法な商売でも摘発された。
かなり重い刑が科されるのは間違いない。十数年は牢獄から出られないだろう。
残ったわずかな財産は没収され、爵位は剥奪、領地はほかの貴族へ譲渡されることになった。


「ようやくいい報告ができました」
「ありがとうございました。これで安心できます」

アビゲイルは心底ほっとした表情をした。

「遅すぎたくらいです。もっと早く捕まえられていたら、あなたを危険な目に合わせることもなかったのに」
「そんな、殿下には感謝しかありませんわ。私、もう大丈夫です。どこか近くに新しい部屋を借りようと思います」
「それなのですが、アビー、このままここで暮らしませんか?今後は僕の妻として」
「殿下……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ダンスパーティーで婚約者から断罪された挙句に婚約破棄された私に、奇跡が起きた。

ねお
恋愛
 ブランス侯爵家で開催されたダンスパーティー。  そこで、クリスティーナ・ヤーロイ伯爵令嬢は、婚約者であるグスタフ・ブランス侯爵令息によって、貴族子女の出揃っている前で、身に覚えのない罪を、公開で断罪されてしまう。  「そんなこと、私はしておりません!」  そう口にしようとするも、まったく相手にされないどころか、悪の化身のごとく非難を浴びて、婚約破棄まで言い渡されてしまう。  そして、グスタフの横には小さく可憐な令嬢が歩いてきて・・・。グスタフは、その令嬢との結婚を高らかに宣言する。  そんな、クリスティーナにとって絶望しかない状況の中、一人の貴公子が、その舞台に歩み出てくるのであった。

継母や義妹に家事を押し付けられていた灰被り令嬢は、嫁ぎ先では感謝されました

今川幸乃
恋愛
貧乏貴族ローウェル男爵家の娘キャロルは父親の継母エイダと、彼女が連れてきた連れ子のジェーン、使用人のハンナに嫌がらせされ、仕事を押し付けられる日々を送っていた。 そんなある日、キャロルはローウェル家よりもさらに貧乏と噂のアーノルド家に嫁に出されてしまう。 しかし婚約相手のブラッドは家は貧しいものの、優しい性格で才気に溢れていた。 また、アーノルド家の人々は家事万能で文句ひとつ言わずに家事を手伝うキャロルに感謝するのだった。 一方、キャロルがいなくなった後のローウェル家は家事が終わらずに滅茶苦茶になっていくのであった。 ※4/20 完結していたのに完結をつけ忘れてましたので完結にしました。

仕事ができないと王宮を追放されましたが、実は豊穣の加護で王国の財政を回していた私。王国の破滅が残念でなりません

新野乃花(大舟)
恋愛
ミリアは王国の財政を一任されていたものの、国王の無茶な要求を叶えられないことを理由に無能の烙印を押され、挙句王宮を追放されてしまう。…しかし、彼女は豊穣の加護を有しており、その力でかろうじて王国は財政的破綻を免れていた。…しかし彼女が王宮を去った今、ついに王国崩壊の時が着々と訪れつつあった…。 ※カクヨムにも投稿しています! ※アルファポリスには以前、短いSSとして投稿していたものです!

政略結婚のハズが門前払いをされまして

紫月 由良
恋愛
伯爵令嬢のキャスリンは政略結婚のために隣国であるガスティエン王国に赴いた。しかしお相手の家に到着すると使用人から門前払いを食らわされた。母国であるレイエ王国は小国で、大人と子供くらい国力の差があるとはいえ、ガスティエン王国から請われて着たのにあんまりではないかと思う。 同行した外交官であるダルトリー侯爵は「この国で1年間だけ我慢してくれ」と言われるが……。 ※小説家になろうでも公開しています。

【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る

甘海そら
恋愛
第一王女、メアリ・ブラントは悪女だった。 家族から、あらゆる悪事の責任を押し付けられればそうなった。 国王の政務の怠慢。 母と妹の浪費。 兄の女癖の悪さによる乱行。 王家の汚点の全てを押し付けられてきた。 そんな彼女はついに望むのだった。 「どうか死なせて」 応える者は確かにあった。 「メアリ・ブラント。貴様の罪、もはや死をもって以外あがなうことは出来んぞ」 幼年からの想い人であるキシオン・シュラネス。 公爵にして法務卿である彼に死を請われればメアリは笑みを浮かべる。 そして、3日後。 彼女は処刑された。

幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに

hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。 二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。

「聖女に比べてお前には癒しが足りない」と婚約破棄される将来が見えたので、医者になって彼を見返すことにしました。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
「ジュリア=ミゲット。お前のようなお飾りではなく、俺の病気を癒してくれるマリーこそ、王妃に相応しいのだ!!」 侯爵令嬢だったジュリアはアンドレ王子の婚約者だった。王妃教育はあんまり乗り気ではなかったけれど、それが役目なのだからとそれなりに頑張ってきた。だがそんな彼女はとある夢を見た。三年後の婚姻式で、アンドレ王子に婚約破棄を言い渡される悪夢を。 「……認めませんわ。あんな未来は絶対にお断り致します」 そんな夢を回避するため、ジュリアは行動を開始する。

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

処理中です...