初夜をボイコットされたお飾り妻は離婚後に正統派王子に溺愛される

第21話 王太子妃のパリュール

王太子妃の注文を受けたタイミングで、アビゲイルの実家から最高級品のサファイアが採れたと連絡があった。
さっそく取り寄せてみると、見事なまでのコーンフラワーブルー。
明度、彩度ともに高く、輝きも照りもプロポーションも最高だ。
そうそうお目にかかれない逸品に、アビゲイルは歓喜した。

いくら王太子妃が若い女性でも気軽に買えるようなお手頃価格のブリエ・フルールのコレクターであっても、王族のバースデイプレゼントともなれば、くず石で作るわけにはいかない。
ハイクオリティの宝石をどうしても使いたかった。
ヨハネスお兄様、ありがとう！と心の中で感謝する。

国王夫妻の時は落ち着きと威厳を感じられるようなデザインを意識したが、お若い王太子妃には、はつらつとしたはじけそうなデザインが似合いそうだ。
なにより、王太子妃ご自身の性格、さっぱりとしていて、周りを元気にさせるような人柄にピッタリだろう。
ブリエ・フルールの蝶のモチーフがとても気に入っているので、同じく蝶と花を模ったものにして欲しいと指定されている。
ブリエ・フルールらしさを前面にだしつつ、王族にふさわしい最高級品のブルーサファイアを使ったパリュール。
アビゲイルにとってもやりがいのある仕事だった。
職人とも何度も話し合い、妥協することなく納得するまで何枚もデザインを描きなおした。


そして、アビゲイルが王宮を訪ねたときには、エリオットは忙しい公務の合間をぬって会いに来てくれた。
大体は王宮の庭園を散歩したり、ガーデンでお茶を飲む程度だったが、時間があるときは、王家が所有する狩猟のための森へ馬で遠乗りに出かけたりもした。
一度はエリオットの希望で王都の繁華街を歩いたが、すれ違う女性がみな足を止めて振り返るという事態になり、警護のことも考えると外でのデートは断念せざるを得なかった。
もっともアビゲイルとしては場所などどうでもよかった。
エリオットと見つめあい、言葉を交わせる。それだけで十分だった。


そのおかげで、王太子妃からはよく揶揄われた。

「エリオットは人当たりが良くて、誰に対しても優しいけれど、あなたを見る目は尋常じゃないわよね。ほーんと、とろけそうな顔しちゃってさ」
「王太子妃様、今日はイヤリングのお好みについてお伺いに来たのですが……」

アクセサリーについての打ち合わせのはずなのに、しばしば話が脱線した。
ライアス王太子とリリア王太子妃は幼馴染同士で、子供のころからエリオットとも一緒に遊んでいたそうだ。
おかげで幼少期のエピソードをいろいろ聞けるのは正直嬉しかった。
結果、予定の倍以上の打ち合わせ回数となってしまったが、王太子夫妻とはすっかり打ち解けることができた。

紆余曲折あったが、王太子妃様の注文の品を誕生日に合わせてぶじ納品することができた。
国王夫妻に続き王太子からも贔屓にされているという噂は世間にあっという間に広まり、ビジュウ・オロールの評判はより一層高まった。