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第20話 終わりの始まり

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「くそぉっ!」

王宮でのパーティ以来、ローマンはずっと不機嫌だった。

なんなんだ、あの女、いつの間にか王族まで味方につけやがって。
あんな侮辱を受けたのは初めてだ。絶対に赦さない、必ずめちゃくちゃにしてやる。
苛立ちを抑えるために、強い酒を煽るように飲み干す。酒の量は日ごとに増えていった。
愛人を何人も屋敷に連れ込んでは享楽に耽ったりもしたが気が晴れることはなかった。



「旦那様、大変です!!」

血相を変えた秘書が駆け込んでくる。

「うるさい!何なんだ!!」
「落ち着いて聞いてください。大旦那様が倒れて危篤だそうです」
「父上が?!」
「すぐに領地へ向かってください。大奥様にも今、侍女が伝えに行っています」

ローマンが着いた時には、父親はすでに帰らぬ人となっていた。
盛大な葬儀が行われたのち、喪が明けると同時にローマンは正式に家督を継いだ。

それが転落の始まりだった。

ケッペル家のことはすべて父親が仕切っていた。
ローマンには事業の貿易商のことも、領地の運営もまるでわからない。
嫡男として領地に戻って仕事を学ぶように、再三再四言われていたのに、無視して王都の屋敷で遊び暮らしていた。
いずれはやらなければいけないという気持ちはあったが、まだまだ先のことだと思っていた。こんなに早く亡くなるなんて想定外だ。

たしかに先代子爵は優秀な経営者であり、偉大な領主だった。
それが裏目に出てしまった。
万能な父親が独裁的に物事を動かしていたため、代わりになる人材が育っておらず、経営の判断ができる人間が誰もいなかった。
そんな隙をついて、競合会社が続々とケッペル家の顧客に手を伸ばしてきた。
2代目はボンクラだと噂をばらまかれて、市場の信頼を失い、大口の顧客はすべて横取りされ、たった数か月で売り上げは激減した。

古参の執事がため息交じりに言う。

「まったく、元奥様がいらっしゃってくれたら、こんなことにはなっていなかったかもしれませんね」
「はっ!宝石が少し売れたくらいの金でどうにかなるものか」

執事はあからさまに呆れた顔をしてみせた。

「まさかご存知ないのですか。アビゲイル様はベアテだったそうですよ。王妃様のお導きで覚醒されたと伺っています」
「なんだって?」
「もっともあんな酷い扱いをされたら、どんな女神のような女性だって逃げ出すでしょうがね」
「貴様!主人に向かって、なんだその口の利き方は!」

ローマンが執事の胸倉をつかんだ。
しかし、執事は少しも動じることはなかった。

「恐れながら旦那様、私の主人は亡くなられた先代様だけです。先代様に妻と息子を頼むと言われたからここにいるのであって、ローマン様に仕えるつもりは毛頭ありません。馘にしたければいつでもしてくださって結構です」

使用人にも見限られ始めた。
追い打ちをかけるかのように、大嵐に巻き込まれたケッペル商会の貨物船が沈んだ。
大量の積み荷はすべて海の藻屑と消えた。
損失がどのくらいになるのか想像もつかない。

――――どうしてこんなことになったんだ。

ローマンはがっくりと膝をついた。

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