18 / 27
第18話 神の祝福を受けた者
しおりを挟む
翌日、王宮にてさっそく王太子、王太子妃との打ち合わせがあった。
宝石はサファイアをメインに、ブリエ・フルールのカラーを思い切り出したパリュールとの注文だった。
アイテムひとつひとつ、王太子妃の好みを聞きながら、頭の中でデザインを思い描く。
「そろそろ大丈夫ですか?」
終わったころを見計らって、エリオットが迎えに来た。
「今日はぜひ、母からあなたに話したいことがあると」
「王妃様がですか?」
心当たりはないが、昨夜のパーティでなにか失礼なことをしてしまっただろうか?
まさかアクセサリーに不備でもあったとか??
狼狽えるアビゲイルにエリオットは笑いかける。
「悪い話ではありませんから安心してください。あなたにとって大事な話です」
サロンでは王妃が待っていた。
モスグリーンのドレスにエメラルドのチョーカーとイヤリングをつけている。
「王妃様、とてもお似合いです」
「ありがとう。陛下も気に入っているわ。今日、さっそくつけて出かけられたのよ」
席に着くと、緊張した面持ちのアビゲイルに王妃は優しく微笑みかける。
「プライベートなお茶会だし、気楽にして頂戴ね」
「先日、工房でお話ししましたが、子供のころ、あなたが僕の擦り傷を治してくれました。そのことについてなのです」
「はい」
「エリオット、そこからは私が話しましょう」
王妃様が話を続けた。
「この子はその当時、難病を患っていました。国中の医者を呼び、また魔法医師の治療を受けたり、投薬を続けていましたが病状は悪くなる一方でした。
五歳の時に、手をこまねいているよりはと、外科手術に踏み切ることになりました。成功率は決して高くありません。
しかし、手術の前日の最終検査では、病巣がすっかり消えていたのです。医師たちはみな首を捻りました」
王妃はアビゲイルを見つめる。
「エリオットからあなたの話を聞いて長年の謎が解けました。あなたが病を治してくれたのね。母親としてお礼を言います。本当に心から感謝しているわ」
「王妃様、私にそんなこと出来るとは思えません。治癒の魔法は使えますが軽い怪我くらいしか治せませんもの」
「治癒の魔法ではないわ。エリオットに悲しみの原因がなくなるようにと祈って、祝福の魔法をかけてくれたでしょう?あの頃は手術を怖がって毎日泣いていたの」
――――あ!
「で、でも、私の祝福の魔法はおまじない程度で、そんな難病を治すなんて」
「いままでは小物や装飾品などに魔法をかけていたのではなくて?」
「あっ、はい、確かにそうです。人に直接魔法をかけたのは、唯一あの時のエリオット殿下だけです」
王妃は確信を得たように言う。
「アビゲイルさん、あなたはベアテなのよ。昨日のパーティで直接会ってわかりました」
ベアテとは神の祝福を受けた者という意味だ。
特別に神から愛され、神が多大なる恵みをもたらす存在。そしてその恩恵を周りの人々に分け与えることができる。
この国においては、100万人に一人とも言われる稀有な存在で、ベアテの生まれた家は繁栄し、女性のベアテはさらに嫁ぎ先にも富をもたらすと言われている。
宝石はサファイアをメインに、ブリエ・フルールのカラーを思い切り出したパリュールとの注文だった。
アイテムひとつひとつ、王太子妃の好みを聞きながら、頭の中でデザインを思い描く。
「そろそろ大丈夫ですか?」
終わったころを見計らって、エリオットが迎えに来た。
「今日はぜひ、母からあなたに話したいことがあると」
「王妃様がですか?」
心当たりはないが、昨夜のパーティでなにか失礼なことをしてしまっただろうか?
まさかアクセサリーに不備でもあったとか??
狼狽えるアビゲイルにエリオットは笑いかける。
「悪い話ではありませんから安心してください。あなたにとって大事な話です」
サロンでは王妃が待っていた。
モスグリーンのドレスにエメラルドのチョーカーとイヤリングをつけている。
「王妃様、とてもお似合いです」
「ありがとう。陛下も気に入っているわ。今日、さっそくつけて出かけられたのよ」
席に着くと、緊張した面持ちのアビゲイルに王妃は優しく微笑みかける。
「プライベートなお茶会だし、気楽にして頂戴ね」
「先日、工房でお話ししましたが、子供のころ、あなたが僕の擦り傷を治してくれました。そのことについてなのです」
「はい」
「エリオット、そこからは私が話しましょう」
王妃様が話を続けた。
「この子はその当時、難病を患っていました。国中の医者を呼び、また魔法医師の治療を受けたり、投薬を続けていましたが病状は悪くなる一方でした。
五歳の時に、手をこまねいているよりはと、外科手術に踏み切ることになりました。成功率は決して高くありません。
しかし、手術の前日の最終検査では、病巣がすっかり消えていたのです。医師たちはみな首を捻りました」
王妃はアビゲイルを見つめる。
「エリオットからあなたの話を聞いて長年の謎が解けました。あなたが病を治してくれたのね。母親としてお礼を言います。本当に心から感謝しているわ」
「王妃様、私にそんなこと出来るとは思えません。治癒の魔法は使えますが軽い怪我くらいしか治せませんもの」
「治癒の魔法ではないわ。エリオットに悲しみの原因がなくなるようにと祈って、祝福の魔法をかけてくれたでしょう?あの頃は手術を怖がって毎日泣いていたの」
――――あ!
「で、でも、私の祝福の魔法はおまじない程度で、そんな難病を治すなんて」
「いままでは小物や装飾品などに魔法をかけていたのではなくて?」
「あっ、はい、確かにそうです。人に直接魔法をかけたのは、唯一あの時のエリオット殿下だけです」
王妃は確信を得たように言う。
「アビゲイルさん、あなたはベアテなのよ。昨日のパーティで直接会ってわかりました」
ベアテとは神の祝福を受けた者という意味だ。
特別に神から愛され、神が多大なる恵みをもたらす存在。そしてその恩恵を周りの人々に分け与えることができる。
この国においては、100万人に一人とも言われる稀有な存在で、ベアテの生まれた家は繁栄し、女性のベアテはさらに嫁ぎ先にも富をもたらすと言われている。
10
お気に入りに追加
166
あなたにおすすめの小説
ダンスパーティーで婚約者から断罪された挙句に婚約破棄された私に、奇跡が起きた。
ねお
恋愛
ブランス侯爵家で開催されたダンスパーティー。
そこで、クリスティーナ・ヤーロイ伯爵令嬢は、婚約者であるグスタフ・ブランス侯爵令息によって、貴族子女の出揃っている前で、身に覚えのない罪を、公開で断罪されてしまう。
「そんなこと、私はしておりません!」
そう口にしようとするも、まったく相手にされないどころか、悪の化身のごとく非難を浴びて、婚約破棄まで言い渡されてしまう。
そして、グスタフの横には小さく可憐な令嬢が歩いてきて・・・。グスタフは、その令嬢との結婚を高らかに宣言する。
そんな、クリスティーナにとって絶望しかない状況の中、一人の貴公子が、その舞台に歩み出てくるのであった。
【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る
甘海そら
恋愛
第一王女、メアリ・ブラントは悪女だった。
家族から、あらゆる悪事の責任を押し付けられればそうなった。
国王の政務の怠慢。
母と妹の浪費。
兄の女癖の悪さによる乱行。
王家の汚点の全てを押し付けられてきた。
そんな彼女はついに望むのだった。
「どうか死なせて」
応える者は確かにあった。
「メアリ・ブラント。貴様の罪、もはや死をもって以外あがなうことは出来んぞ」
幼年からの想い人であるキシオン・シュラネス。
公爵にして法務卿である彼に死を請われればメアリは笑みを浮かべる。
そして、3日後。
彼女は処刑された。
王城の廊下で浮気を発見した結果、侍女の私に溺愛が待ってました
メカ喜楽直人
恋愛
上級侍女のシンシア・ハート伯爵令嬢は、婿入り予定の婚約者が就職浪人を続けている為に婚姻を先延ばしにしていた。
「彼にもプライドというものがあるから」物わかりのいい顔をして三年。すっかり職場では次代のお局様扱いを受けるようになってしまった。
この春、ついに婚約者が王城内で仕事を得ることができたので、これで結婚が本格的に進むと思ったが、本人が話し合いの席に来ない。
仕方がなしに婚約者のいる区画へと足を運んだシンシアは、途中の廊下の隅で婚約者が愛らしい令嬢とくちづけを交わしている所に出くわしてしまったのだった。
そんな窮地から救ってくれたのは、王弟で王国最強と謳われる白竜騎士団の騎士団長だった。
「私の名を、貴女への求婚者名簿の一番上へ記す栄誉を与えて欲しい」
せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから
甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。
であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。
だが、
「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」
婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。
そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。
気がつけば、セリアは全てを失っていた。
今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。
さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。
失意のどん底に陥ることになる。
ただ、そんな時だった。
セリアの目の前に、かつての親友が現れた。
大国シュリナの雄。
ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。
彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。
事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。
木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。
彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。
しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。
【 完 】転移魔法を強要させられた上に婚約破棄されました。だけど私の元に宮廷魔術師が現れたんです
菊池 快晴
恋愛
公爵令嬢レムリは、魔法が使えないことを理由に婚約破棄を言い渡される。
自分を虐げてきた義妹、エリアスの思惑によりレムリは、国民からは残虐な令嬢だと誤解され軽蔑されていた。
生きている価値を見失ったレムリは、人生を終わらせようと展望台から身を投げようとする。
しかし、そんなレムリの命を救ったのは他国の宮廷魔術師アズライトだった。
そんな彼から街の案内を頼まれ、病に困っている国民を助けるアズライトの姿を見ていくうちに真実の愛を知る――。
この話は、行き場を失った公爵令嬢が強欲な宮廷魔術師と出会い、ざまあして幸せになるお話です。
【完結】両親が亡くなったら、婚約破棄されて追放されました。他国に亡命します。
西東友一
恋愛
両親が亡くなった途端、私の家の資産を奪った挙句、婚約破棄をしたエドワード王子。
路頭に迷う中、以前から懇意にしていた隣国のリチャード王子に拾われた私。
実はリチャード王子は私のことが好きだったらしく―――
※※
皆様に助けられ、応援され、読んでいただき、令和3年7月17日に完結することができました。
本当にありがとうございました。
妹に人生を狂わされた代わりに、ハイスペックな夫が出来ました
コトミ
恋愛
子爵令嬢のソフィアは成人する直前に婚約者に浮気をされ婚約破棄を告げられた。そしてその婚約者を奪ったのはソフィアの妹であるミアだった。ミアや周りの人間に散々に罵倒され、元婚約者にビンタまでされ、何も考えられなくなったソフィアは屋敷から逃げ出した。すぐに追いつかれて屋敷に連れ戻されると覚悟していたソフィアは一人の青年に助けられ、屋敷で一晩を過ごす。その後にその青年と…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる