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第6話 私がジュエリーデザイナーに?
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女主人がアビゲイルのブローチを目にとめた。
「あら、お客様、素敵なブローチね。不思議な色のサファイアだわ。どちらのお店の?」
「あ、これは自分で作ったんです」
「あなたの手作り?どうしてこんな輝き方をするのかしら?よく見せてもらっていい?」
アビゲイルはブローチを外して手渡した。
いつの間にか大柄な男性も一緒にのぞき込んでいる。
「カットだけではこんな風にはならないな。石が違うのか?」
「実はその……魔法をかけてあるんです」
「え?魔法を?」
この国では魔法を使えるのは7~8人に一人と言われる。珍しくはないが少数派だ。
「祝福の魔法です。込める願いによって輝き方が変わるんですよ」
「そんなの初めて聞いたわ」
「これは無病息災の願いを込めました。もっとも、祝福の魔法は他人に対して使うもので、自分にはほとんど効かないのですけど」
「ねえ、ほかの魔法のもあるの?よかったら見せてくれないかしら?」
「ええ、家にはいくつかあります」
「デザインもいいな。彫金の技術は粗削りだが、センスはいい。デザイン画もあるなら見せてくれないか?」
「わかりました。明日、持ってきますね」
「約束よ!!」
女店主はアビゲイルの手をぎゅっと握った。
翌日、いくつかの手作りアクセサリーとスケッチブックをもって宝石店を訪れた。
「待っていたわ~」
今日は店舗ではなく、隣の工房に通された。
アビゲイルは持ってきたアクセサリーをテーブルに並べた。
ブローチのほか、髪飾り、バングル、ネックレス、指輪、イヤリングなど、実家にいたころからコツコツ作っていたものだ。
「みんな、サファイアなのね」
「はい、私はコリントス地方の出身なんです」
「なるほど、あそこはサファイアの一大産地だ」
「街にはアクセサリー工房もたくさんあって、子供のころから見学させてもらっていたんですよ。デザインのコツもその時に教えてもらいました。それで見よう見まねで自分でも作るようになったんです」
女主人はバングルを角度を変えながら見ていた。
「カボッション・カットはもともと柔らかい輝きになるけど、これはさらに温かみを感じるわ」
「それには良縁に恵まれる魔法をかけてあります」
「この指輪は?」
「美しくなれるようにと、美貌の願いを込めてあるので、尖ったような輝きになっています」
「神秘的ね」
女店主はうっとりとため息をつく。
「デザインもいいよ」
工房の職人たちが集まってデザイン画を見ている。
「すぐにでも商品化できそうなデザインがいくつもある」
「いえいえ、そんなとんでもない。素人の手慰みです」
アビゲイルは手を振ってみせた。
「ねえ、あなた、ここで働かない?」
「え?」
「もっと若い女性向けの売り場を広げたいと思っていたの。あなたのデザインはピッタリだわ。ね、ジュエリーデザイナーとして雇いたいわ」
「ありがたいお話ですが、その、毎日外出するのは難しくて……」
いくら誰にも気にかけられていないとはいえ、子爵夫人が連日外出してはバレたときに義母に何を言われるかわからない。
「そうなの?ならデザインは自宅でやってもらって、出勤は週に1~2回くらいならどう?」
「それぐらいなら、なんとか」
「じゃあ、決まりね!私はオーナーのグレースよ。グレース・スコット。こっちの工房長は夫のマシュー」
「アビーです。よろしくお願いします」
「あら、お客様、素敵なブローチね。不思議な色のサファイアだわ。どちらのお店の?」
「あ、これは自分で作ったんです」
「あなたの手作り?どうしてこんな輝き方をするのかしら?よく見せてもらっていい?」
アビゲイルはブローチを外して手渡した。
いつの間にか大柄な男性も一緒にのぞき込んでいる。
「カットだけではこんな風にはならないな。石が違うのか?」
「実はその……魔法をかけてあるんです」
「え?魔法を?」
この国では魔法を使えるのは7~8人に一人と言われる。珍しくはないが少数派だ。
「祝福の魔法です。込める願いによって輝き方が変わるんですよ」
「そんなの初めて聞いたわ」
「これは無病息災の願いを込めました。もっとも、祝福の魔法は他人に対して使うもので、自分にはほとんど効かないのですけど」
「ねえ、ほかの魔法のもあるの?よかったら見せてくれないかしら?」
「ええ、家にはいくつかあります」
「デザインもいいな。彫金の技術は粗削りだが、センスはいい。デザイン画もあるなら見せてくれないか?」
「わかりました。明日、持ってきますね」
「約束よ!!」
女店主はアビゲイルの手をぎゅっと握った。
翌日、いくつかの手作りアクセサリーとスケッチブックをもって宝石店を訪れた。
「待っていたわ~」
今日は店舗ではなく、隣の工房に通された。
アビゲイルは持ってきたアクセサリーをテーブルに並べた。
ブローチのほか、髪飾り、バングル、ネックレス、指輪、イヤリングなど、実家にいたころからコツコツ作っていたものだ。
「みんな、サファイアなのね」
「はい、私はコリントス地方の出身なんです」
「なるほど、あそこはサファイアの一大産地だ」
「街にはアクセサリー工房もたくさんあって、子供のころから見学させてもらっていたんですよ。デザインのコツもその時に教えてもらいました。それで見よう見まねで自分でも作るようになったんです」
女主人はバングルを角度を変えながら見ていた。
「カボッション・カットはもともと柔らかい輝きになるけど、これはさらに温かみを感じるわ」
「それには良縁に恵まれる魔法をかけてあります」
「この指輪は?」
「美しくなれるようにと、美貌の願いを込めてあるので、尖ったような輝きになっています」
「神秘的ね」
女店主はうっとりとため息をつく。
「デザインもいいよ」
工房の職人たちが集まってデザイン画を見ている。
「すぐにでも商品化できそうなデザインがいくつもある」
「いえいえ、そんなとんでもない。素人の手慰みです」
アビゲイルは手を振ってみせた。
「ねえ、あなた、ここで働かない?」
「え?」
「もっと若い女性向けの売り場を広げたいと思っていたの。あなたのデザインはピッタリだわ。ね、ジュエリーデザイナーとして雇いたいわ」
「ありがたいお話ですが、その、毎日外出するのは難しくて……」
いくら誰にも気にかけられていないとはいえ、子爵夫人が連日外出してはバレたときに義母に何を言われるかわからない。
「そうなの?ならデザインは自宅でやってもらって、出勤は週に1~2回くらいならどう?」
「それぐらいなら、なんとか」
「じゃあ、決まりね!私はオーナーのグレースよ。グレース・スコット。こっちの工房長は夫のマシュー」
「アビーです。よろしくお願いします」
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