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第4話 隠れ家作り
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こんなことで泣くものか。
アビゲイルはくちびるをぎゅっと引き結んだ。
「よし!」
自分の頬をパーン!と叩く。
くよくよしたら負けだ。
あの男が何をしようが関係ないし、知ったこっちゃない。
「エマ、手伝ってくれる?」
「はい、奥様」
たくさんの掃除用具をもって温室に向かった。
まずは埃を落とさなくちゃ。
腕まくりをして、はたきをもち、ガラスの枠に溜まった埃を拭っていく。
「奥様、掃除なんか私がやりますから」
「いいのよ、体を動かしたいの」
エマには止められたが、一緒に掃き掃除や窓ふきをするのは楽しかった。
亡くなった母親には令嬢がすることじゃないと怒られそうだけど、父親が事業に失敗して実家が傾き始めてからは、使用人もわずかしか雇えず、料理や掃除はアビゲイルもやっていたのだ。
窓をピカピカに磨き上げ、床も掃き清める。
久々の充実感。
「そうね、大きめの机や椅子が欲しいんだけど、近所に安価な家具屋はないかしら?」
「それでしたらお屋敷の倉庫に不要な家具がたくさんありますわ。中古でよかったら、そこを探してみますか?」
「ええ!案内して!」
倉庫に積み上げられた不用品の中から、樫の樹で作られたがっしりとした作業台が見つかった。
「うん、これ、ちょうどいいわね!」
アビゲイルは喜んだ。
「……でも重そう」
「男手が要りますね。ちょっと手伝いを呼んできます」
エマが青年を連れてきた。
「初めまして奥様。料理番のジョージと言います」
「ごめんなさいね、専門外のことを頼んじゃって」
「とんでもない。奥様のお手伝いなら喜んで」
こんな言葉でも、今のアビゲイルには心の底から嬉しかった。
倉庫から運び出した作業台に椅子、収納棚を温室に配置する。
ついでにロッキングチェアやソファ、ティーテーブルも持ち出した。
雑巾で丁寧に汚れを落とす。
「うん、さっぱりしたわね」
そして、実家から持ってきた彫金の道具を並べていく。
「奥様、これはなんですか?」
「アクセサリーを作るのよ」
「え!ご自分でですか!」
「私の実家はコランダム鉱山を持っていて、サファイアやルビーがたくさんとれたの。領地には宝石加工の工房がたくさんあって、よく遊びに行っては職人さんに研磨や彫金を見せてもらっていたわ。それで自分でもやりたくなって道具をそろえてアクセサリーを作るようになったのよ」
「まあ、これまでどうしてなされていなかったんですか?」
「彫金には危険な薬品を使うこともあるし、粉じんも出るから、お部屋ではちょっとやりにくいのよね」
幸い、地金もサファイアのルースも実家からたくさん持ってきた。
「しばらくはここで時間が潰せそうね」
さっそく、簡単なアクセサリーを作ってみる。
まずは、真鍮の丸線を取り出し、6センチほどの長さにカットする。
切断面のデコボコをやすりで丁寧にならしていく。
きれいに削れたら、全体を炎で炙り、全体に赤くなったところで水に浸けて冷却する。
希硫酸に軽く漬けて表面を洗浄してサビや焦げを落とす
ヤットコでつまんで丸く形をつくり、切断面をぴったりとわせる。
つなぎ目にフラックスを塗り、また炎で下から炙る。
十分に熱くなったら小さくカットしたロウ材をつなぎ目に置き、溶けていくのを待つ。
溶けきったらまた水に浸けて急速に冷やす。
接着できたら、また酸洗い。
はみ出たロウをやすりで削り取り、円形の芯金棒にはめてハンマーで細かくたたきながら形を整える。
歪みがなくなったら、あとは研磨剤で磨く。
これで指輪の完成だ。
指にはめてみる。
久しぶりのアクセサリーの感触に心が躍るのを感じた。
アビゲイルはくちびるをぎゅっと引き結んだ。
「よし!」
自分の頬をパーン!と叩く。
くよくよしたら負けだ。
あの男が何をしようが関係ないし、知ったこっちゃない。
「エマ、手伝ってくれる?」
「はい、奥様」
たくさんの掃除用具をもって温室に向かった。
まずは埃を落とさなくちゃ。
腕まくりをして、はたきをもち、ガラスの枠に溜まった埃を拭っていく。
「奥様、掃除なんか私がやりますから」
「いいのよ、体を動かしたいの」
エマには止められたが、一緒に掃き掃除や窓ふきをするのは楽しかった。
亡くなった母親には令嬢がすることじゃないと怒られそうだけど、父親が事業に失敗して実家が傾き始めてからは、使用人もわずかしか雇えず、料理や掃除はアビゲイルもやっていたのだ。
窓をピカピカに磨き上げ、床も掃き清める。
久々の充実感。
「そうね、大きめの机や椅子が欲しいんだけど、近所に安価な家具屋はないかしら?」
「それでしたらお屋敷の倉庫に不要な家具がたくさんありますわ。中古でよかったら、そこを探してみますか?」
「ええ!案内して!」
倉庫に積み上げられた不用品の中から、樫の樹で作られたがっしりとした作業台が見つかった。
「うん、これ、ちょうどいいわね!」
アビゲイルは喜んだ。
「……でも重そう」
「男手が要りますね。ちょっと手伝いを呼んできます」
エマが青年を連れてきた。
「初めまして奥様。料理番のジョージと言います」
「ごめんなさいね、専門外のことを頼んじゃって」
「とんでもない。奥様のお手伝いなら喜んで」
こんな言葉でも、今のアビゲイルには心の底から嬉しかった。
倉庫から運び出した作業台に椅子、収納棚を温室に配置する。
ついでにロッキングチェアやソファ、ティーテーブルも持ち出した。
雑巾で丁寧に汚れを落とす。
「うん、さっぱりしたわね」
そして、実家から持ってきた彫金の道具を並べていく。
「奥様、これはなんですか?」
「アクセサリーを作るのよ」
「え!ご自分でですか!」
「私の実家はコランダム鉱山を持っていて、サファイアやルビーがたくさんとれたの。領地には宝石加工の工房がたくさんあって、よく遊びに行っては職人さんに研磨や彫金を見せてもらっていたわ。それで自分でもやりたくなって道具をそろえてアクセサリーを作るようになったのよ」
「まあ、これまでどうしてなされていなかったんですか?」
「彫金には危険な薬品を使うこともあるし、粉じんも出るから、お部屋ではちょっとやりにくいのよね」
幸い、地金もサファイアのルースも実家からたくさん持ってきた。
「しばらくはここで時間が潰せそうね」
さっそく、簡単なアクセサリーを作ってみる。
まずは、真鍮の丸線を取り出し、6センチほどの長さにカットする。
切断面のデコボコをやすりで丁寧にならしていく。
きれいに削れたら、全体を炎で炙り、全体に赤くなったところで水に浸けて冷却する。
希硫酸に軽く漬けて表面を洗浄してサビや焦げを落とす
ヤットコでつまんで丸く形をつくり、切断面をぴったりとわせる。
つなぎ目にフラックスを塗り、また炎で下から炙る。
十分に熱くなったら小さくカットしたロウ材をつなぎ目に置き、溶けていくのを待つ。
溶けきったらまた水に浸けて急速に冷やす。
接着できたら、また酸洗い。
はみ出たロウをやすりで削り取り、円形の芯金棒にはめてハンマーで細かくたたきながら形を整える。
歪みがなくなったら、あとは研磨剤で磨く。
これで指輪の完成だ。
指にはめてみる。
久しぶりのアクセサリーの感触に心が躍るのを感じた。
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