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第2話 孤独な結婚生活

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コンコンとノックの音がして、10代の可愛らしい黒髪の侍女が入ってきた。

「失礼します。本日より、奥様の専属になります侍女のエマです。よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくね」
「奥様、お顔の色がよろしくないです。少しお休みになられたらいかがですか?」

昨夜は一睡もしていない。
でも、こんなに心がざわついたままでは、とても眠れそうにない。
ケッペル家のことを少しでも知れば、義母や夫との距離を縮められるだろうか。

「ねえ、お屋敷を案内してもらえないかしら?」
「はい、かしこまりました。奥様」

エマに先導され、まずは、部屋のある二階の廊下を歩く。
図書室や球技室、応接室などがあり、どこも手入れが行き届いていて清潔で、飾られている調度品も素晴らしいものばかりだ。
たくさんの使用人とすれ違ったが、みなアビゲイルから目をそらすか、あるいは、同情と憐みの視線を向けてきた。
初夜をすっぽかされた新妻だとみんな知っているのだろう、いたたまれない気持ちになった。

「ごめんね、エマ。やっぱり部屋に戻るわ」
「かしこまりました」

踵を返すと、ちょうど義母が通りかかったところだった。
道をあけるのが一瞬遅れた。
義母は怒りに満ちた目で睨みつけると、手に持った扇子でアビゲイルを打ちつけた。
ピシっという音とともに頬に痛みが走る。

「本当に目障りね!」
「も、申し訳ございません」

必死で頭を下げた。

「フッ、そんな鈍くさい女だから、息子はあなたを相手にしないんでしょうね。みじめだこと」

ニヤニヤと笑いながら立ち去った。

「奥様、大丈夫ですか?」
「ええ、何ともないわ」

頬の痛みはすぐになくなった。
しかし、心の痛みは簡単には消える気はしなかった。


それ以降は部屋から出るのもはばかられるようになってしまった。
エマに図書室から本を借りてきてもらい、明るい間はだいたい読書をする。
食事は3食とも部屋で一人で摂る。
これが一か月以上続くと暦の感覚が鈍ってきて、今日が何日かもわからなくなってきた。
義妹のナオミがいてくれたら、もう少し状況は違っていたかもしれない。
しかし、彼女にとって実家は居心地がいい場所ではないようで、休暇が終わるよりも前に学校の寮に戻ってしまった。


夕方、部屋の窓から馬車に乗り込む夫と愛人が見えた。
夜会のために着飾った女性のはしゃぐ声と、夫の楽しそうな声が嫌でも聞こえてくる。

「はぁ、旦那様はまたお出かけかしら」

愛人は複数人いるようで、毎回違う相手をエスコートしている。

一度は、夜会出かける夫を見送ろうとしてみた。
しかし、階段を降りていくと、ローマンが怒鳴りつけてきた。

「何をしに来た!」
「あの、お見送りを」
「要らぬことをするな。失せろ」

連れの女性がたしなめるように言う。

「もう、ローマン様ったら、奥さんに酷くなぁい?」
「ふん、金で買った女をどうしようと俺の勝手だろう。いいから、気にするな」

女性の腰に手を回すと、馬車に乗りこんで出かけて行った。
その時は、エマに付き添われてなんとか部屋に戻った。

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