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第2話 婚約破棄を繰り返す男-2-
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マイケル・スタンリーは白皙の美青年だった。
緩くカールしたきらめくブロンドに青空のような瞳、ほっそりとした輪郭。まるで陶器でできた繊細な人形のようだ。
私の婚約者も相当なイケメンだが、こちらはばりばりの体育会系なのに対して、彼は文系だ。
西日の差す図書館で純文学でも読んだらぴったりな感じ。
カーラ嬢は婚約者に夢中の様子だ。
一瞬たりとも視線を外そうとしない、彼の言葉を一言も聞き漏らすまいとしている。
行動心理学を学ばずとも誰にだって彼女が恋する乙女だと見破れるだろう。
一方、婚約者はそうではない。
魅力的な微笑みを絶えず浮かべているが、作り物の笑顔だ。
二人はこれから夜会に出かけるそうで、ドレスに着替えるためにカーラ嬢は中座することになった。
さて、ここからが本番だ。
私は観察に集中するため、質問はアイザック様にお任せした。
あえてきつめに攻めてもらえるように頼んである。
アイザック様が婚約破棄についてストレートに切り出した。
「あなたは噂によると、何回も婚約破棄をしているそうだが、事実なのだろうか?」
スタンリー氏はふっと表情を曇らせた。
「もういろいろな方のお耳に届いているのですね。はい、事実です」
不誠実ではないか、女性の気持ちを考えたことはあるのか、軽々しい気持ちで結婚をしようとしているんじゃないか?と、矢継ぎ早に質問をする。
「申し訳ないことをしたと思っています。しかし、婚約してから、どうしてもこの女性ではないという気持ちになってしまったんです。傷つけるつもりはありませんでしたが、今までの令嬢には悪いことをしてしまいました」
そして、カーラは違う、運命の相手だと思う、心の底から愛している、本気で結婚したいと思っている、信じて欲しいと切実に訴えてきた。
私はじっとスタンリー氏を見ていた。
彼がカーラ嬢への愛を口にするたびになだめ行動がでている。
人は嘘をついているときには少なからずストレスを感じる。それを緩和しようとするのがなだめ行動だ。
仕草は人によってさまざまだが、スタンリー氏においてはわずかながらのどぼとけが動く。
さらに彼をじっくり観察していると、しばしば一枚の絵を見ていることに気付いた。
正確に言うなら、『見てはいけないと思えば思うほど見てしまう』というやつだ。
一瞬、眼球が動くだけだから、普通ならまず気づかれないだろう。
だけど、私には女神から与えられたスキル「観察者」がある。
どんな微細な変化だって見逃したりしない。
婚約破棄についての話が一区切りついたところで、ちょっとカマをかけてみることにした。アイザック様にしなだれかかり、問題の絵画を指さす。
「ねえ、私、結婚したらあんな絵を新居に飾りたいわ」
アイザック様もラウル様も一瞬驚いたようだが、2人ともすぐに察して調子を合わせてくれた。
「ミアさんはあの絵がお好みですか?」
「だって、とてもきれいなんですもの。お部屋にあったら素敵だわ。ね、アイザック様もそう思うでしょ?」
「ああ、そうだな。俺も気に入った」
マイケル・スタンリーは平静を装っているが明らかに狼狽えている。
わずかながら瞳孔が開き、顎に力が入っているのが見て取れる。この話題には触れられたくないのだ。
「でも、あっちの絵も華やかでいいわ。私ね、お花が大好きなの」
花束を抱いた女性の絵画を指さした。
話題がそれてホッとしたのか、緊張が緩んだのがわかった。
部屋の飾られている数枚の絵の感想を一通り話したところで、もう一度、問題の絵画に話題を戻す。
「でも、やっぱり最初の絵が一番だわ。なんという画家の作品かしら?スタンリー様はご存じですか?」
「いや、存じ上げません。恥ずかしながら芸術には疎くて」
はにかんだ笑顔を見せた。
緩くカールしたきらめくブロンドに青空のような瞳、ほっそりとした輪郭。まるで陶器でできた繊細な人形のようだ。
私の婚約者も相当なイケメンだが、こちらはばりばりの体育会系なのに対して、彼は文系だ。
西日の差す図書館で純文学でも読んだらぴったりな感じ。
カーラ嬢は婚約者に夢中の様子だ。
一瞬たりとも視線を外そうとしない、彼の言葉を一言も聞き漏らすまいとしている。
行動心理学を学ばずとも誰にだって彼女が恋する乙女だと見破れるだろう。
一方、婚約者はそうではない。
魅力的な微笑みを絶えず浮かべているが、作り物の笑顔だ。
二人はこれから夜会に出かけるそうで、ドレスに着替えるためにカーラ嬢は中座することになった。
さて、ここからが本番だ。
私は観察に集中するため、質問はアイザック様にお任せした。
あえてきつめに攻めてもらえるように頼んである。
アイザック様が婚約破棄についてストレートに切り出した。
「あなたは噂によると、何回も婚約破棄をしているそうだが、事実なのだろうか?」
スタンリー氏はふっと表情を曇らせた。
「もういろいろな方のお耳に届いているのですね。はい、事実です」
不誠実ではないか、女性の気持ちを考えたことはあるのか、軽々しい気持ちで結婚をしようとしているんじゃないか?と、矢継ぎ早に質問をする。
「申し訳ないことをしたと思っています。しかし、婚約してから、どうしてもこの女性ではないという気持ちになってしまったんです。傷つけるつもりはありませんでしたが、今までの令嬢には悪いことをしてしまいました」
そして、カーラは違う、運命の相手だと思う、心の底から愛している、本気で結婚したいと思っている、信じて欲しいと切実に訴えてきた。
私はじっとスタンリー氏を見ていた。
彼がカーラ嬢への愛を口にするたびになだめ行動がでている。
人は嘘をついているときには少なからずストレスを感じる。それを緩和しようとするのがなだめ行動だ。
仕草は人によってさまざまだが、スタンリー氏においてはわずかながらのどぼとけが動く。
さらに彼をじっくり観察していると、しばしば一枚の絵を見ていることに気付いた。
正確に言うなら、『見てはいけないと思えば思うほど見てしまう』というやつだ。
一瞬、眼球が動くだけだから、普通ならまず気づかれないだろう。
だけど、私には女神から与えられたスキル「観察者」がある。
どんな微細な変化だって見逃したりしない。
婚約破棄についての話が一区切りついたところで、ちょっとカマをかけてみることにした。アイザック様にしなだれかかり、問題の絵画を指さす。
「ねえ、私、結婚したらあんな絵を新居に飾りたいわ」
アイザック様もラウル様も一瞬驚いたようだが、2人ともすぐに察して調子を合わせてくれた。
「ミアさんはあの絵がお好みですか?」
「だって、とてもきれいなんですもの。お部屋にあったら素敵だわ。ね、アイザック様もそう思うでしょ?」
「ああ、そうだな。俺も気に入った」
マイケル・スタンリーは平静を装っているが明らかに狼狽えている。
わずかながら瞳孔が開き、顎に力が入っているのが見て取れる。この話題には触れられたくないのだ。
「でも、あっちの絵も華やかでいいわ。私ね、お花が大好きなの」
花束を抱いた女性の絵画を指さした。
話題がそれてホッとしたのか、緊張が緩んだのがわかった。
部屋の飾られている数枚の絵の感想を一通り話したところで、もう一度、問題の絵画に話題を戻す。
「でも、やっぱり最初の絵が一番だわ。なんという画家の作品かしら?スタンリー様はご存じですか?」
「いや、存じ上げません。恥ずかしながら芸術には疎くて」
はにかんだ笑顔を見せた。
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