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【後日譚2】異世界(日本)から聖女が来たらしいけど、オレ(元勇者で元日本人)には関係ないったらない!!!
最終話 関係ないので平和は続く
しおりを挟む「やっ! おはよ! ベルンハルトくん、グレンくん」
晴れた日の昼下がり。
中庭で二人散歩をしているとスピカが上から降ってきた。
「もう昼ですよ」
「今日は来るの遅かったね」
――愛莉ちゃんが元の世界に帰ってから、それなりの時間が経った。
人々は魔王達の手により聖女の降臨を忘れ、もたらされた厄災の記憶も持たずに、平穏な日々の続きを生きている。
……あれだけ色々苦労したわりに、結局なにも起こってないも同然なんだよな。
まあ、無事に解決してよかったけどさ。
「今日は何してるの~?」
「散歩」
「またぁ? 毎日毎日土いじりと散歩って、隠居老人みたいだよね」
「……精神は四捨五入したら四十歳だから、せめて初老と言ってくれ。あと土いじりじゃなくってガーデニングな」
――愛莉ちゃんは。
スピカ曰く、“初代聖女“――強力な魅了の魔法を用いてたくさんのモンスターを倒した女性の生まれ変わりだそうな。
この世界ではなく手違いで、“繋がり“やすい日本に生まれてしまった。
魔法がない世界に生まれた彼女が持っていた“聖女の魔力“――この世界に来たことでそれが増幅され、王都中の人間の洗脳に繋がったらしい。
聖女の魔力を備えて生まれた影響で、日本でも彼女はよくも悪くも人を惹きつける性質を持っていたが、今回の転移により魔力を大量に消費したのでそれも多少は治るだろう――というのがスピカの見解だ。
……「今後はただの美少女として生きていけるよ」って言ってたけど、ただの美少女って矛盾してるよな。
でもまあ、とにかくそういうわけなので。
表面上は何も起こっていないし、愛莉ちゃんは普通の人間になって普通の生活が送れるし――結果的には、スピカのうっかりミスはいい方向に働いたってことだ。
絵に描いたような大団円。ハッピーエンドだ。
「グレン。これ、多分もうそろそろ花が咲くよ」
話しながら歩いていると、花壇の蕾が目に止まった。
しゃがんで、小さなそれを三人で覗き込む。
「本当ですね。蕾がもうこんなに……いいですね。なんか」
「な。普段は魔法頼りだけどさ、たまにはこういうのもいいよな」
オレがいない間、この伯爵家の別邸の庭は最低限の手入れしかなされていなかった。
住んでいる人間がいないのだから当然ではあるが花など咲いてはおらず、だから、オレは花壇に種をまくことにしたのだ。
魔法で成長させることもできた。
けれど時間はいくらでもあるから――こうして地道に、自然に任せて育てている最中だ。
「日差しの下で花が咲くのを待ち侘びる。……一回地球人として暮らしてみないと出なかった発想だよね~」
「そうだね」
ずっと順当にこの、剣と魔法のファンタジーの世界で生きていたら、こんなことをしようなんて思わなかっただろう。
「地球に転生したのも悪くなかったかもな」
不吉に曇ることもなければ、女の子が落ちてくることもない。雲がまばらにたなびく綺麗な青空を見上げる。
「平和だね」
「ええ」
手を繋いで歩く。
この平和がいつまでも続くことをは、神に祈るまでもなく、魔王様とその末裔が保証してくれている。
「そういえばさ、スピカ。なんでクラウスには魅了魔法が効かなかったの?」
「あーあれ? あの人の心、ベルンハルトくんでいっぱいだから、別の人が入り込む隙がなかったんだよ。愛の力ってやつ?」
「なんだそれ……あの人、ほんとにオレのこと好きだな」
大した見返りも求めずにオレを好きでいてくれるクラウスのことが理解できなかったけど、今はわかる。
傍にいてくれるだけでいい。
笑ってくれているだけでいい。
幸せに生きてくれているだけでいい。
そういう愛もあって――オレも、そうやって誰かを愛して、愛されることができるんだ。
「俺の方が、貴方を愛してますよ。俺も魅了魔法になんかかかりません」
拗ねた口調で告げられて、笑う。
「そもそもお前は強すぎて無効化されるだろ」
――知ってるよ。
オレの心も、お前でいっぱいだから。
明日も、また新しい花を植えよう。
また、新しい日々を重ねよう。
「オレは幸せだ」
これからも、ずっと。
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わたしも一気読みしました。話が面白くて!
適度なR成分と井上さんがとても良かったですw
グレンくんの執着も素晴らしいですし、ベルくんの幼少期からの愛着不全による暗さと思春期特有のアイデンティティの不明瞭さ、、、
とにかく全てが私のドストライクでした。
感想ありがとうございます!!!
めちゃくちゃ嬉しいお言葉ばかりです...!!
ドストライク...!! すごく光栄です(>_<)
本当にありがとうございます(*´﹀`*)♡
一気読みしました!楽しいです!
イマジナリー井上さんが最高です。お母様も何気に……🤭
ベルの独り言がとっても楽しくて、特に「あなた疲れてるのよ」で爆笑してしまいました。わたしも仕事中によく脳内で同じことをつぶやいています🤣元ネタがわからないものもありますが、これも何かの引用なんだろうなーというのがちらほらとあって、物語本編だけでなくこういう細かいところも楽しみにしています!
感想ありがとうございます!
井上さんもお母さんもお気に入りキャラなのでとても嬉しいです!
ベルのうるさい脳内まで楽しんでいただけて何よりです(*´˘`*)♡(元ネタは割と幅広いです笑)
本当に嬉しいご感想をありがとうございます(*.ˬ.)" ぜひ最終話までお付き合い下さい!