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【後日譚2】異世界(日本)から聖女が来たらしいけど、オレ(元勇者で元日本人)には関係ないったらない!!!
第5話 人形屋敷の公爵様
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ざわめきに乗じてこっそりと王宮を抜け出す。
正直、走って逃げる作戦と同じじゃない?と思ったけど、一応クラウスが人払いをしてくれたみたいで、ほとんど誰の目にも触れずに門を出ることができた。
「はー……とりあえず第一関門突破か……」
後はクラウスが手配してくれた、公爵邸行きの馬車に乗れば今日のミッションは完了。
「グレン、早く行こう」
「ええ、“ベルタ“」
――うっかり“ベル“と呼んでも誤魔化せるように決めた偽名だ。
そう。今のオレはそんな女性の名が相応しいような姿をしているわけで……それを、衆目に晒していて……。
あー…………似合ってるのはわかってるし、変装の手間が省けるんだし、別にいいんだけどさぁ……。
でも、やっぱり若干、というか割と恥ずかしい。
というか今オレが“ベルンハルト・ミルザム“だとバレでもしたら、めちゃくちゃ恥ずかしいことにならないか……??
「大丈夫。堂々としていればバレませんよ」
そうは言ったって……なんか、視線がさぁ!!
まあ、その視線の大半は――。
「どうしました? 俺の可愛いアリス」
この状況でも浮かれてるオレのアホかわダーリンに向けられてるわけですけどね!!!
グレンの顔は“勇者パーティーのメンバー“としては知られていない――ずっと隠してたし――ので変装の必要はないが、黒髪で、しかも美形だからか目立つ。
「ねぇねぇ、“三月ウサギさん“。貴方も顔は隠した方がよくないですか?」
「却って不自然ですよ。それに、俺なら別に元勇者パーティーだとバレたところで、政治活動に駆り出される確率は低いです」
自分の麗しさを自覚しているはずなのにそんなことを言うのは、やはりその黄金の瞳のことを思ってだろう。
「……お前は、綺麗だよ。きっと聖女様にも負けないくらい」
「ふふっ。ええ、世界で一番美しい貴方の隣に立つのに見苦しくない程度だとは自負してますよ」
自己評価が高いのか低いのか判別し辛いな……。
◇◇◇
馬車が公爵邸に着いたのは、もう日が沈みつつある時間になってからだった。
「お疲れ様です、ベルタ」
差し出された手を取り、馬車を降り、門扉の外からその屋敷を見上げる。
ベネトナシュ公爵家の大きな邸宅は、幼い日のクラウスとの出会いや、元公爵の手で触れられる気色の悪さを思い起こさせる。
「……」
陰鬱な気持ちで門をくぐった。
◇
「クラウスから知らせが届いて驚きましたよ。あいつがわざわざ魔法まで使って私に連絡をしてくるなんて思いもしなかったものですから」
クラウスの兄――ベネトナシュ公爵は、オレ達の姿を下から上まで舐めるように見ると、唇を歪めた。
「グレン様と……ベルタ嬢。お会いできて光栄です。ゆっくりとご滞在ください」
意味ありげな笑みを浮かべた彼はオレ達を客室へと手ずから案内して去る。
「……はぁ」
念のため、と探査の魔法を使う。盗聴やらなんやらはされていないことを確かめてから、大人しい令嬢の仮面をかなぐり捨て、ベッドへと沈み込んだ。
「グレン。オレは詳しくは知らないんだけど、あの男、どういう類の収集癖なんだ?」
「そうですね……オレも詳しくは知らないんですが、前公爵の様に“人間“ではなく、“人外“に興味を向けていて、そういった情報を持っている人間をこの屋敷に集めている……とだけ聞いています」
人外……。
「魔王様とか?」
冗談めかして笑えば、彼も笑って隣に腰掛けた。
「どうでしょう。魔王の存在を本気で信じているのなんて、俺と貴方ぐらいでしょうから」
普段なら唇が触れ合うような距離で笑い合う。
そんな、穏やかな時間は――。
「失礼、お邪魔でしたか」
「うわ、なにその格好」
崩されるものだと相場が決まっている。
「……ロニーとエステル???」
ノックも無しに開かれたドア。
伯爵領にいるはずのシャウラの双子が、そこに立っていた。
正直、走って逃げる作戦と同じじゃない?と思ったけど、一応クラウスが人払いをしてくれたみたいで、ほとんど誰の目にも触れずに門を出ることができた。
「はー……とりあえず第一関門突破か……」
後はクラウスが手配してくれた、公爵邸行きの馬車に乗れば今日のミッションは完了。
「グレン、早く行こう」
「ええ、“ベルタ“」
――うっかり“ベル“と呼んでも誤魔化せるように決めた偽名だ。
そう。今のオレはそんな女性の名が相応しいような姿をしているわけで……それを、衆目に晒していて……。
あー…………似合ってるのはわかってるし、変装の手間が省けるんだし、別にいいんだけどさぁ……。
でも、やっぱり若干、というか割と恥ずかしい。
というか今オレが“ベルンハルト・ミルザム“だとバレでもしたら、めちゃくちゃ恥ずかしいことにならないか……??
「大丈夫。堂々としていればバレませんよ」
そうは言ったって……なんか、視線がさぁ!!
まあ、その視線の大半は――。
「どうしました? 俺の可愛いアリス」
この状況でも浮かれてるオレのアホかわダーリンに向けられてるわけですけどね!!!
グレンの顔は“勇者パーティーのメンバー“としては知られていない――ずっと隠してたし――ので変装の必要はないが、黒髪で、しかも美形だからか目立つ。
「ねぇねぇ、“三月ウサギさん“。貴方も顔は隠した方がよくないですか?」
「却って不自然ですよ。それに、俺なら別に元勇者パーティーだとバレたところで、政治活動に駆り出される確率は低いです」
自分の麗しさを自覚しているはずなのにそんなことを言うのは、やはりその黄金の瞳のことを思ってだろう。
「……お前は、綺麗だよ。きっと聖女様にも負けないくらい」
「ふふっ。ええ、世界で一番美しい貴方の隣に立つのに見苦しくない程度だとは自負してますよ」
自己評価が高いのか低いのか判別し辛いな……。
◇◇◇
馬車が公爵邸に着いたのは、もう日が沈みつつある時間になってからだった。
「お疲れ様です、ベルタ」
差し出された手を取り、馬車を降り、門扉の外からその屋敷を見上げる。
ベネトナシュ公爵家の大きな邸宅は、幼い日のクラウスとの出会いや、元公爵の手で触れられる気色の悪さを思い起こさせる。
「……」
陰鬱な気持ちで門をくぐった。
◇
「クラウスから知らせが届いて驚きましたよ。あいつがわざわざ魔法まで使って私に連絡をしてくるなんて思いもしなかったものですから」
クラウスの兄――ベネトナシュ公爵は、オレ達の姿を下から上まで舐めるように見ると、唇を歪めた。
「グレン様と……ベルタ嬢。お会いできて光栄です。ゆっくりとご滞在ください」
意味ありげな笑みを浮かべた彼はオレ達を客室へと手ずから案内して去る。
「……はぁ」
念のため、と探査の魔法を使う。盗聴やらなんやらはされていないことを確かめてから、大人しい令嬢の仮面をかなぐり捨て、ベッドへと沈み込んだ。
「グレン。オレは詳しくは知らないんだけど、あの男、どういう類の収集癖なんだ?」
「そうですね……オレも詳しくは知らないんですが、前公爵の様に“人間“ではなく、“人外“に興味を向けていて、そういった情報を持っている人間をこの屋敷に集めている……とだけ聞いています」
人外……。
「魔王様とか?」
冗談めかして笑えば、彼も笑って隣に腰掛けた。
「どうでしょう。魔王の存在を本気で信じているのなんて、俺と貴方ぐらいでしょうから」
普段なら唇が触れ合うような距離で笑い合う。
そんな、穏やかな時間は――。
「失礼、お邪魔でしたか」
「うわ、なにその格好」
崩されるものだと相場が決まっている。
「……ロニーとエステル???」
ノックも無しに開かれたドア。
伯爵領にいるはずのシャウラの双子が、そこに立っていた。
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