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【後日譚2】異世界(日本)から聖女が来たらしいけど、オレ(元勇者で元日本人)には関係ないったらない!!!

第3話 聖女と勇者様

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 一呼吸置いてから、思い切って質問する。

「グレン……その聖女って、やっぱ日本人なのかな?」

 頼む、違うと言ってくれ……!!
 オレの考えすぎであってくれ……。オレがラノベ脳なだけだよな!!! そうだよな!!!

 そんな願いも虚しく。
 
「ほぼ間違いなく日本人でしょうね」

 グレンは淡々と答えた。
 
 
「え。なんで……??」

 自分で訊いといてなんだよ、って感じだけど思わず。

「地球、特に日本はこの世界と“繋がりやすい“んです。だからこそ、貴方の転生先もあそこにしたわけですから」

 ほ、ほーん?? なるほど??

「でも……異世界と“繋ぐ“魔法は俺か魔王かぐらいしか使えないはずなんです……」

 …………????
 なるほどわからん。

「“繋ぐ“ってなに……?」

「そうですね……土地で例えれば、直通の道路を通しやすい場所同士に、この世界と日本が存在した……と言えばわかりますか?」

 わかったようなわからんような。

 
「……とにかく、“聖女“は日本人である可能性が高いわけだな」

 原理は後回しだ。

「はい。俺たちが日本人としての記憶を持っていることを聖女側に知られると確実に面倒なことになります」

 オレの――オレたちの目標は、喧騒から離れたスローライフ。

 異世界転生だの魔法だの聖女だのはもうこりごりだ!

 いや、聖女が異世界からくるのは世界が危機に瀕したときなわけだから、これから色々起こることには起こるんだろうけど……!!!
 
 でも、オレたちの関係のないところでやって欲しい。聖女様と勇者パーティーとかで勝手にやって欲しい。


「絶対会わない、関わらないようにしような!!」

「そうしたいのはやまやまですが……ベルンハルト」

 グレンはオレの目を見据えて、重々しく口を開いた。

「貴方は、元勇者――王に選ばれた存在なんです」

 うん?? 確かにオレは元勇者サマだけど……え、それがなんなの??

「いや、そうだけど……“元“だし」

 いくらオレが元勇者だからってもう王とか国とかと関係ないだろ、と抗議すると、グレンは少し悲しそうに眉を下げた。

「……ベル、ごめんなさい。今から嫌な話をします」

 ……なにその嫌な前置き。
 絶対に想像の倍は嫌な話じゃんか。

「貴方には知らせていなかったんですが……実はまだ、新しい勇者はいないんです」


 ◇


 ――グレンの話をざっくりまとめると。

 オレが辞めたことで勇者の席は空いているものの、新しい勇者の選定は難航している。

 その理由は大きく分けて二つ。
 前任のオレがスキル二つ持ちかつ強かった(大半はグレンの功績だけど)こと。
 そして、あまりにも見目麗しかったこと。
 
 そのせいでどの候補も見劣りしてしまうらしい。


 ……そんなわけで。


「貴方へ、再度勇者になるように王家からの打診が来る可能性が高いです。……高いと言いますか、確実ですね」

 普通の男の子に戻ります宣言してまだ一年ちょっとしか立ってないのにまた表舞台に引きずり出されるなんて御免被りたい……。
 
 まじでほっといてくんないかなぁ~!!! オレもう表向きはミルザム伯爵家の中でも何ポジかもわからない穀潰しなんだから!!!

「“聖女様“があんなに派手な登場をしてくれやがったせいで、彼女の存在は――聖女が現れる程の危機が迫っていることは、すぐに国中に知れ渡ることになるでしょう。そうなると混乱が起こることは必至です」

 グレンは会ったこともない聖女を睨みつけるように窓の外に視線を向けた。

「……それを鎮めるために、ベルンハルト。王家は貴方を利用したいとかんがえるはずです」

「あー……そうだね。今から新しい勇者急いで用意して聖女様と並べるより、顔が知られてるオレだよなぁ……」

 “世界の危機“ってのが具体的には何かはわかんないけど、とりあえず聖女と勇者を並べて“この二人が世界の危機を救ってくれるので安心しなさい“って王が宣言すればある程度は収まるだろうが……信頼も知名度もない新人を引っ張り出したところで鎮静の効果は低いだろう。

 そのためにオレが必要ってわけだ。

「めんどくさ……」

「魔法が使えればどうとでもなるんですが……本当に厄介だ」

 二人で顔を見合わせて、嘆息する。

 
「とりあえず……逃げるか」

「そうですね」

 ノープランだけど、王宮ここに留まっているよりはマシだろう。

「窓から……は魔法なしだときついし、走るか」

「ベル、流石に無理です」

 
 デスヨネー……。



 ◇


 
 とりあえず現状把握のためにもクラウスが戻ってくるのを待つことになった。

 けど……遅いな~お兄様。暇だ。
 

「グレン~この服ってさ、誰の趣味?」

 暇なのでつい訊かなくていいことも訊いてしまう。
 ……だって気になるんだもん。
 
「ベネトナシュ卿の、ご趣味じゃないですかね」

 めちゃくちゃ誤魔化してるな……。
 グレンくんってさ、オレには嘘つくの下手だよねぇ。

「ふーん……この世界にも“アリスコーデ“ってあったっけ?」

 そう――。
 
 一度考えてしまえば、この服はどう考えてもグレンの趣味だ。

 
 水色のワンピースと、白いエプロン。黒いリボンのカチューシャ。
 オレ(の容姿を模したこの人形)が金髪碧眼なことも相まって、完璧な不思議の国のアリスコーデ。

 で、この世界に『不思議の国のアリス』は存在しないわけで、そうなるとこんなコーデを考えられるのは地球人の記憶を持った人間しかいない。

 つまり、成人男性(この世界の成人年齢は十六だから、とっくに成人してる)にアリス幼女の服を着せたい願望を持っているのはグレンしかいないことになってしまうのだ。

 ――QED。


「いや、ほんと……違うんです!!! ただ俺は、あの男クラウスに、“ベルンハルト様にはどんなドレスが似合うだろう“って訊かれたから正直に答えただけで!!!」

 何が違うんだよ。

「その服のデザインを考えたのは俺ですけど、作ったのも着せたのもベネトナシュ卿です! 俺はただ純粋に、ベルはアリスドレス似合うだろうな、と思っただけなんです」

 そんなこと純粋に思うなよ。
 ……そもそも、なんで人形が執務室に置いてあんだよ。仕事の邪魔だろ。


「グレン、先に言っとくけど本体のオレはもう二度と女装はしないからな」

 前はなんか流れで猫耳メイドになったけど、今後は一切しないつもりだ。
 
 ただでさえ猫耳フェチなのに、もうこれ以上性癖を増やしたくない。……これを言ったらスピカは「いいじゃんか。グレンくんを一人性癖博覧会にしようよ!!」とか言いそうだけど、オレは彼氏をそんな妙な生物にする気はないのだ。

「いや、俺も別に女装が特別好きなわけじゃないですからね!? ベネトナシュ卿がドレスで指定してきたからで! 女装以外なら書生服とかが似合うって答えましたよ!!」

 ……そっか。

 
 オレ達はそうして、そんな世界の危機が迫っているとはとても思えないような――それを忘れるための――与太話をしながら、クラウスの帰りを待つのであった。

 ……いや、まじで遅いなお兄様。
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