上 下
48 / 93
最終章 チート小説

最終話「ベルンハルトとグレンの話」

しおりを挟む
 拝啓、天国のお母さん。

 オレが勇者を引退してから半年が経ちました。

 前伯爵、ブルーノの排斥も無事に終わり、オレは新たにミルザム伯爵になったロニーが治めるミルザム伯領の片隅で、悠々自適な貴族ライフを送っています。


 もちろん、グレンも一緒に。


 
 ◇◇◇



 悠々自適ダラダラ貴族ライフご隠居生活を送っているオレは暇を持て余している。

 なので気まぐれに訪ねてくるスピカ(本人が希望したのでそう呼んでいる)が話してくれる昔話が結構楽しみだったりするのだが……そんな彼女がある日、とんでもない暴露をしてきた。

 
「――え、グレンって魔王の末裔なの??」

「そうだよ。私の子孫~」

 スピカはオレの膝の上で丸まって、嬉しそうに笑う。

「おいクソ猫!!! ベルには言うなってあれほど言いましたよね!!??」

「いいじゃん別に。あとスピカって呼んで」

 オレの背もたれになっていたグレンは血相を変えてスピカに怒鳴った。耳痛いんでやめてください。

「グレンくんは間違いなく私の――魔王の血を引いてるよ。……私の愛した子の血もね。だから私はグレンくんに協力したんだもん」

「へぇ~」

 言われてみれば……魔王がわざわざただの人間に協力する理由がないもんなぁ。

「そっか……魔王の血か。なら、あの強さも納得だ」
 
 グレンは強い。本当に……こんなところにいるのにはもったいないぐらい。


 正直、まだ少し迷うこともある。
 グレンは、ドロシーたちが言うように“真の勇者“に相応しい。
 強くて、格好よくて、高潔で……。

 そんな彼を、オレの傍にこのまま縛り付けていいんだろうか。


「ベル……オレのこと、嫌になりましたか?」

 思い悩んでいると、グレンが悲しげな声で問いかけてきた。

「え? いや、なんで?」

「だって貴方は、怖いのが嫌いでしょう? 魔王の末裔だなんて……貴方が嫌いなモンスターみたいなものじゃないですか」

 ああ、オレに怖がられて嫌われるのが嫌で、スピカに口止めしていたのか。

 ……可愛いなぁ……好き。

 オレの肩に頭をぐりぐり擦り付けてきているグレンの髪が頬に当たる。くすぐったい。

 お前のどこがモンスターなんだ。
 お前はオレの可愛い可愛い飼い犬で……恋人だよ。

「そりゃ、少しも怖くないって言ったら嘘になるかもしれない。でも……だからって、オレはお前と離れたいとは思わない」

「ベル……」

 腰に回された腕の力が強くなって、少し苦しい。

「……スピカさん、席を外していただいても?」

「え~~!! いいじゃん続き見せてよ!!!」

「続きってなんだ! 魔王様のくせに駄々こねないの。ほら帰った帰った!!」

「はぁ~? われ魔王ぞ?? なんで魔王なのに愛し子たちのセックスの一つも見せてもらえないのさ!!!」


 スピカはそんな意味不明なことをぼやきながらも、窓から外へと出ていった。



 ◇


 
「グレン、ほら……二人っきりだ」

 グレンの腕を撫でる。
 込めた力の強さに気がついたのか、締め付けはすぐに緩くなった。えらいえらい。

「……ベル、愛してます……俺、絶対に貴方を傷つけません。俺のことが怖くてもいいから……」

「大丈夫。わかってるよ……お前は、オレを守るために強くなったんだもんな」


 ――スピカが少し前に教えてくれた。
 
 グレンが【皇帝】の力を発現させたのは、オレを守れなかった後悔からだと。
 オレを世界の全てから守るために、彼は世界の全てを壊せるほどの力を望んだのだ。

 
「はい、ベル……」

「グレン。オレはもしお前がいつか人じゃなくなる日がきたって……お前のことが大好きだよ」

 唇を合わせた。

「お前こそ、いいの……? お前は皇帝……望めば、世界を手に入れられる男なのに。ずっとオレなんかの傍で一生、なにもせずに過ごすだけで」

 グレンの手がオレの肌を撫でる心地よさに浸りながら、問いかける。

 
 ああ……返ってくる答えはいつも同じだとわかってるのに。
 こうして何度も何度も確かめてしまうオレはなんて愚かで面倒くさいんだろう。

 
「はい。俺の世界は貴方です。貴方の傍にいられるなら俺は他になにもいりません」

「……いい子だ、グレン」

 でもオレは、そんな自分が最近少しだけ、嫌いじゃなくなってきたよ。
 お前が何度も、何度でも……オレの全てが好きだと、愛しいと言ってくれるから。


 ――オレはお前に愛されるのには相応しくない。
 ――オレはお前の輝かしい未来を奪った。

 そんな迷いはいつまで経ってもなくならない。

 でも、それでも。
 

「好きです。命に変えても貴方を守ります。だから、これから先の未来も、ずっと貴方の傍にいさせて」

 オレの一番大切な人の望みを叶えられるのはこの世でオレ一人。

「ああ、グレン。ずっとオレの傍にいて、オレを幸せにしろ。……約束だ」




 魔王を倒して世界を救って、完璧なヒロインと結ばれて世界から讃えられ認められる。――オレが思い描いていた、そんなチート小説みたいな完璧な結末じゃない。


「愛してるよ、オレのヒーロー」

 でもこれが。
 オレとグレンにとっての最高のハッピーエンドだ。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

アンダー(底辺)アルファとハイ(上級)オメガは、まずお友達から始めます!

みゃー
BL
ど底辺アルファ(Fランク)の俺に、上級オメガ(Sランク)が求愛してきます! 体でフェロモンの生成が出来ず、オメガのフェロモンも感知出来ない出来損ないのアルファに、果たして「運命の番」のオメガは存在するのか? 西島恒輝は、名門アルファ一族出身で、自身もアルファ。 しかし、顔だけはいいものの、背は低く、成績も悪く、スポーツも嫌いで不得意。 その上、もっとも大事なアルファのフェロモンを作れず、オメガのフェロモンも感知出来ない病持ち。 そんな理由で両親に冷遇されてきた恒輝は、すっかり捻くれて荒っぽい男になってしまっていた。 しかし、ある日。 恒輝は、一人のハイスペックオメガの明人と出会う。 明人と出会いオメガ全員が憎い恒輝は、明人がウザいと思いながら掻き回わされ、日常が一変してしまう。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...