上 下
46 / 93
最終章 チート小説

第46話「ベルンハルトの話」

しおりを挟む
 ……いまこそ状況整理だ。
 オレは頭の中にノートを用意して、二人から聞いた話をまとめた。


 《一周目》。
 オレはグレンを追放した後に一人で死ぬ。
 グレンはオレを生き返らせるために魔王の力を借りる。

 《二周目》。
 オレは赤谷蓮に転生(死んだオレの魂を一時的に赤谷蓮の身体に避難させた)。
 グレンは叔父さん、魔王は井上さんとしてオレを見守る。

 《三周目》。←イマココ
 魔王のスキルで時間をオレが死ぬ前まで巻き戻し、オレの魂を元の身体(ベルンハルト・ミルザムの肉体)に転生(?)させる。
 グレンと魔王は一、二周目の記憶・スキルなどを引き継いでいる。
 オレには一周目の記憶が断片的にしかない。


 『追放皇帝』。
 グレン=叔父さんの監修で作ったから、この世界と酷似している。そのせいでオレは自分が『物語』の世界に転生したんだと思い込んでいた。


 ――だいたいこんな感じか……。


「どう? 知りたいことはそれで全部かな」

「うん……まあ」

「なんか歯切れ悪いねぇ。いいよ? まだあるならなんでも訊いて。お姉さんなんでも答えてあげる」

 同い年だろ、と言いかけて思い留まる。
 そうか……井上さん、魔王だから年上だよな。お姉さんどころの騒ぎじゃねぇわ。

「ちょっとなに失礼なこと考えてんの。そりゃ、私はおばあちゃんだけどね」

「あ~もう、いちいち心読まないで……あのさぁ、どうでもいいけど、なんで二人は……ああいう趣味を持つに至ったわけ?」

 勢いで、訊かなくてもいいことを口に出した。
 ほんっとオレって衝動的!!!

「ああいうとは?」

「いや、叔父さ……グレンは“追放もの“が好きで、井上さんはBLが好きでしょ。なんでそんなことになったのかな~って……」

 二人(正確には一人と一匹)は顔を見合わせる。

「あ……答えにくいやつだったら、いいです」

 魔王と皇帝だしなんか深いお考えがあるのかもしれないもんね。あるんだよね、とオレが遠慮すると、グレンは首を振った。

「いえ……ベル。話します。もう貴方に隠し事はなに一つしたくありませんから」


 そうしてグレンは二人の出会いの話を――オレの死に絶望して世界を滅ぼそうとしたグレンを魔王が止めた、《一周目》の話を始めた。



 ◆◆◆



 さっきも言った通り、魔王と同じ魔法を使って世界を滅ぼそうとした俺を止めたのはそこのクソ猫……いいえ、“魔王“です。

 
 ――やめておけ。そんなことをしても、その子は帰ってこない。

 ――私もかつて、大事な者を失いお前と同じことをしようとした。そして、“魔王“と呼ばれ、封印された。


 そう俺に告げた魔王は、その後こう続けました。


 ――協力するぞ。皇帝よ。

 ――私のスキルで、時を巻き戻してやる。だが、それには時間がかかる。それまでその子の魂を……異世界へ送ろう。そして、スキルの発動まで、その子を見守ろう。

 ――その間に……そうだな。お前たちが幸せになれる道を探るべきだろう。



 ◆◆◆



「で、見守っている間に俺たちはそれぞれ、貴方を幸せにするために“追放もの“と“ボーイズラブ“の勉強をすることにしました」

 そこには繋がんなくない???!!!

 
「このクソ猫が言い出したんですよ。――お前は彼の気持ちを理解することに集中せよ。私はお前らが上手くまぐわう為の方法を勉強しておこう……とかなんとか」

 は、はぁ……どうりで“叔父さん“の蔵書ラインナップが偏ってたわけだ。
 あれはオレの……“無能勇者“の心情を理解するためのお勉強だったってことか。井上さんがBLを読み漁ってたのも……それなら納得――。

「え、オレにBL読ませる意味ってある??」

 いやできねぇわ。

「ある。だってベルンハルトくんさぁ……暗いんだもん。ハピエンBLいっぱい読んだら少しは明るくなるかな~って思ったんだよ」

 うっ……前半がぐさっときた。
 自覚はしてる、してるけど……!!!

 
「……君はさ、“理想“としてあの世界を……『追放皇帝』を書いたんでしょう?」

「ああそうだよ……叔父さんを、理想の男をモデルにした主人公と、理想の女の子愛莉ちゃんをモデルにしたヒロイン! オレの欲望詰め合わせ!!! でもそれのなにが悪い。貴方だってさっき……夢?の中で、言ってたでしょう。望みを口にしろって……」

 ヤケクソになって叫ぶ。

 “主人公“の中身のモデルは自分だなんて強がってはいたけれど、本当は“主人公“にオレの要素なんて微塵もない。

 ただ理想を描いただけ。
 見た目もオレの理想たる叔父さんがモデル。だから結局は叔父さん――いや、グレンそのものになった。
 
 だって“オレ“には初めから主人公の資格なんてないから。


 井上さんは痛々しいものを見る目でオレをみて、静かに告げてくる。

 
「――君が望んだ世界は……全然、理想なんかじゃないよ。ベルンハルトくん。君は、ベルンハルトを痛めつける物語を紡いだ。君自身では、君のハッピーエンドを望めなかった」


 ベルンハルトの、オレの……ハッピーエンド……?

「そんな……始めから存在しないものを、どうやって望めって言うんだ」

 無能勇者にハッピーエンドはない。
 オレは主人公のような世界に望まれる存在ではなくて、誰かに愛される存在ではなくて。

 最後は一人で……。


「はっ……あ、ぐ」

 息が詰まる。
 
「ベル……」

 グレンの手が、オレの頬を撫でる。
 井上さんの肉球も、オレの髪を撫でた。

「……君がハピエンBLにはまれば……ベルンハルトが幸せになるような物語を書けるように、君自身の幸せを望めるようになるんじゃないかって。私はそう考えて君を腐らせようとしたんだ。そのために物語をグレン×ベルンハルトに誘導しようとした。……上手くいかなかったけどね」

 いい事言ってる風で全然言ってないなこの魔王……。


「……ちょっと休ませてもらっていいですか」

 とりあえず一回寝よ。
 
 オレがベルンハルトで叔父さんがグレンで井上さんが魔王で……うん。理解に時間がかかりそうだから寝て整理しよう。夢は記憶の整理だから……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

処理中です...