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第4章 モンスター襲来

第27話「ベルンハルトと悪役」

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 ――恒例の状況整理。
 今回は問題形式にしてみました。
 
 問一『グレンのこと好きかもだけどこの身体ってもともとベルンハルトのだし、じゃあグレンくんが好きなのって(以下略)』
 →生命維持セックス定期購読(?)により保留。
 
 問二『モンスターが襲ってきて故郷壊滅するかも』
 →死の魔石包囲網があることが判明したものの、グレンのチートによってほぼ解決。犯人の行動待ち。

 問三『伯爵しんでくれ』
 →オレの鍛え待ち。ただしグレンと色々する体力を残しておく必要があるので運動のやり過ぎは厳禁。


 ……はい。終わりました。
 なんか、どんどんオレにやれること少なくなってない……??


「暇そうじゃな」

 ベッドで寝そべるオレをスピカが横目で見てくる。「陛下は忙しくしておられるのに」とでも言いたいのだろうが、オレがいたところで役には立たないのだから仕方ない。

「まあ……事実暇なんで……」

 開き直る。


 いや、オレだってもっと色々忙しくしたかったよ。
 
 普通さぁ……“死の魔法“とか“死の魔石“とか出てきたらもうちょっと色々あるじゃん……!!
 
 地図に石のあった位置書き込んで、「これは……まさか、伯爵領を取り囲んでいるのか!?」とか、「まずは魔石の回収が先決だ」とか……。

 そういうので漫画だったら三話ぐらいあった!!!

 いや、半分ぐらいはオレがそのあるあるをわかってたせいなんですけどね。なんかもうわかってたからやんの面倒くさくて……。


「なぁ、スピカ。死の魔法に心当たりは?」

 一応これが唯一残された謎なのだが……グレンが今、どこかにこもって魔石の解析中なのでじきにわかるだろう。
 
 なのでこの質問は完全に暇潰しだ。

「うーん……魔王様のお力が近いと言えば近いが……ちと違うか」

「魔王の力、って言うと……」

「おぬしも聞いたことぐらいあるじゃろ。うぬらがおとぎ話と呼ぶ、あの言い伝えじゃ」

 ……あの厨二満開なやつね。生物から魔力を奪う……まあ、似てるか。

「ただ、魔王様は奪うだけで与えることはせぬからのう。此度の敵対者の方が厄介じゃ」

「いやどっちも厄介だろ……しかも規模も違うし」

 そうだ。
 今回の犯人は明らかにミルザム伯領だけを狙っている。

 ここ伯領は水源に囲まれているおかげで豊かで、領主の息子は勇者なこともあり王家の信任も厚いが、だからって狙い撃ちにする理由は――。

 ……理由しかなくてひさびさにワロタ。

 いや、でもなんで今更?? このタイミングで???
 ちょうどオレがここにきたタイミングで起こったってのがなんか嫌だ。
 

「あー……逃げたい……」

「いいですよ。逃げましょうか」

「……グレン」

 石の解析が終わったらしく、瞬間移動ワープしてきたグレンが、ベッドでダラダラとぼやくオレを見下ろして笑う。

「お前、せっかく調査も石の解析もしてくれてたのに……いいの?」

「別にいいですよ。全部、貴方に言われたからしただけです」

 指がオレの唇を撫でた。

「言ったでしょう? 俺は貴方のこの唇が紡ぐ言葉一つで世界だって滅ぼせる男ですよ」

 洞窟でのオレの世迷いごとを覚えていたらしい。今やそれはもう実現可能になってしまった。

「……だから、故郷を、領民を見捨てるぐらい些細な問題だって?」

「ええ。――俺にとって大切なのは貴方だけです。ベルンハルト」

 ……ああ、オレはこいつのこういうところが好きだ。

 普通の人間なら、「知った以上は見過ごせない」とか「人と人は助け合うべきだ」とか言って、オレの言葉を非難するだろうに。

「グレン……なあ、逃げても……見捨てても……お前は、オレを嫌いにならない?」

「当然です。何だったら……俺が今から領民全てを皆殺しにしてきましょうか」

「却下。お前が、そんなことしなくていい」

 皆殺し、は当然無しとして――逃げるのは選択肢として普通に有りだ。

 
 そもそもオレがミルザム伯領に来たのは、壊滅を防がないといけないと思ったのは、ここが『追放皇帝』の世界だと思っていたから。
 オレが生き残ったことで本来死ぬはずでなかった人が死ぬのが嫌だ――そんな、矛盾を孕んだエゴイズム。

 だから、この世界が『物語』でないとわかった今、オレがミルザム伯領の壊滅を防がないといけない道理なんてない。

 そうだ――。
 
 世界はずっとオレに優しくなかった。オレに優しかったのはお母さんと叔父さんと、グレンだけ。
 ベルンハルトにだって、同じだ。

 優しくない世界に優しくする必要なんてない。

 報いを求めずに世界を救うのは“ヒーロー“の役目だ。
 “悪役“のしなきゃいけないことじゃない。

 いいじゃないか。こんな場所、捨てて逃げよう。


 ……エステルだって男だったし。ロニーも陰険男だったし!!!


「ベル。もう必要ないかもしれませんが、一応……解析結果をお伝えしても?」

「ああ。頼む」



 ◇


 解析の結果――。
 “なにもわからない“ということがわかったらしい。

 この世に存在しないはずの未知の、新種の魔法。

 
「強力な魔法を編み出し、その上それを五つもの石に付与できるとなると……なかなかの術者ですね」

 グレンが言うとなんか嫌味みたいだけど、実際すごいんだろう。

「……お前も、使えんの? その魔法」

 横になったまま腕を伸ばせば、彼は意図を察したらしく身をかがめた。
 おつかいを全て果たした忠実な飼い犬の頭を撫でてやる。飼い主の義務だからな。

「今のところは使えません。そうですね……貴方に危機が及べば、【皇帝】で何らかのスキルを得て使えるようになるかもしれませんが……できればそうはなってほしくありませんね」
 
 ああ……そういや、【皇帝】はグレンが心より守りたいと思う人間のために発現し、そしてその相手を守護するためにだけ用いることができる……だったか。


 なんかこれ……。
 オレ、漫画とか小説ならすごい重要キャラ……それこそヒロインじゃん。

 だって、オレが危機に瀕したらグレンは強くなるわけでしょ……? しかも、オレとセックスしないとグレンは死ぬし……。

 え、このままグレンと一緒にいたら、オレもしかしてこの先いろいろ危険な目に遭ったりする!!??
 誘拐とか……ねぇ……!!??


 いやいや、考えすぎだ。漫画脳も大概にしろ、オレ。
 実際には最強チートのグレンと一緒にいる方が安全に決まってるじゃんか。
 

「相手が……死の魔法の術者が、お前のスキルの弱点を知っている可能性は?」

 でも一応訊いとこ。

「低いですね。【皇帝】が発現したのは石の傍なので、スキル自体を知られている可能性はありますが……弱点を知っているのは今のところ俺と貴方と……あれ」

「ん?……あ」

 弱点を知るもう一人――スピカが、いつの間にかいなくなってる。


「……あやしくない?」

 この状況でいなくなられたら、流石に庇えない。
 弱点を教えてくれたのはありがたいとして……それも、“間者スパイだったからオレたちにあやしまれないように自然に知った上で情報を持ち帰る為“で説明がついちゃうし。

「ええ。敵だと思っていた方がよさそうです」

 グレンも同意してくれた。ね、あやしいよね。


 よし。――やっぱ逃げるか。
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