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第1章 パーティ追放

第4話「主人公が一緒に風呂に入りたがってきました」

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 ドロドロになった身体を清めるべくシャワーを浴びながら、オレは息子(比喩としてのね)を慰める。

「っ、ふ……」

 唇を噛み、お湯を出しっぱなしにすることで部屋にいるグレンには声が聞こえないようにしながら――。

「は……あ……っ」

 くそっ……なんでこんなこと……。


 オレの前世の自慰環境(多分そんな言葉はない)は他の高校生に比べれば、おそらくかなり恵まれていた方だ。

 母と二人で暮らしていた部屋には自室があったし、彼女は頻繁に入院していて家にいないことも多く、実質一人暮らしのようなものだった。


 だから、こんな風に隠れてコソコソと股間を弄るなんて初めてで、妙な羞恥に襲われてしまう。
 
「っ、う……」

 仕方ない。
 
 こうして一人で浴室に来るまでにも一悶着あったのだ。どうにか一人にしてもらえただけでも良しとしよう。


 
 ◇◆◇



「だからっ……! 一人で入るって言ってるだろ!!」

「俺のせいなんですから、責任……取らせてください」

 無駄に格好良い声と顔でグレンはオレの手を握ったが、よく考えると内容は最悪だった。

 
 うん……本当に最悪だ。男に乳首でイかされるなんて……。

 しかも、なんかまだ半ちだからさっさと抜いて寝たいのに……あろうことか、グレンはシャワールームまで一緒に行ってオレの身体を洗うと言い、聞かないのだ。

 
「しつこい……っ!」

「ベル!」

 小声での攻防(オレもグレンも途中でここが宿屋で、隣の部屋には女の子達パーティーメンバーがいることを思い出した)は中々終わらなかったが。

 
「これ以上しつこく言うなら――お前のこと、嫌いになるからな……!!」


 オレが思わず口走った子供のような言葉で決着した。



 ◇◆◇



「……恥ずかしい……」

 本当に子供みたいだ。

 でも……あんな幼稚園児の喧嘩でしか通用しない脅し文句で、どうしてグレンはあんなに動揺したんだろうか。

「まさか……本当に、オレ……というかベルンハルトが好きで……嫌われるのが、怖い?」

 あり得ない。否定してしまいたい。
 
 けど、ああ――。

 
 ――俺は……貴方がいないと、生きていけない。

 あの、目が。

 ――ずっと、貴方にこうして触れたかったんです。

 あの声が、指が……。

 全て偽りだったなんて思えない。

 
「っ、ん……あ……ン!」

 そんなことを思っていると突然――何故か、大きな快感が身を貫いて、声が抑えられなくなった。

 は? いや、なに???

「あ……ッ! や……」

 ――ダメだ。

「レン……」

 ――呼ぶな。考えるな!

「グレ、ン……」

 言い聞かせても、ベルンハルトの身体はオレを無視してグレンの声を、手つきを思い出す。

 先走りで濡れた手が上下に動いて、腰が知れず揺れた。

「あっ……! イ、く……」

 あられもない嬌声と共に、反り返って白い腹にひっついていたそれから、白濁が溢れ出す。


「あー……ほんと、最悪」

 こいつベルンハルト、マジでなんなの???

 は? 普段からグレンのこと考えてオナってたわけ??

 そうじゃないと、説明がつかない。
 
 グレンの事を考えだした途端に、あんなに……!

「クソッ……」

 ああ、もうダメだ。落ち着け、落ち着けオレ。

 頭の中でベルンハルトへ問いかけるように、彼の記憶を探る。

 ――なあお前、普段何考えてオナニーしてた?
 ――乳首は開発してたの?
 ――童貞?
 
 ――グレンのこと、好きだった?

 答えは、返ってこない。

 
 オレにはベルンハルトの十八年間の記憶が全てあるものだと思い込んでいた。
 だが、どうやら残されているのは“今が追放前夜一話の直前である“だとか、どこで生まれ育ったか――といったような、“情報“だけらしい。

 彼が、何を考えて生きていたかはわからない。

 オレにわかる彼の気持ちはオレが書いた部分だけだ。
 それも、勇者はあくまでも主人公の引き立て役なのだから、感情の描写はほとんどない。
 
 オレが描いたベルンハルトの感情は――死の間際の、グレンへの想いだけだ。

 妬み。羨望。恐怖。

 ただ、それだけ。


「はぁ~~」

 身体はすっきりしたのに心は重くなる一方だった。



 ◇

 
 服をしっかりと着込んでからシャワールームを出て、ベッドにどさりと座り込む。

 案の定、グレンは先に眠ってはくれていなかったらしい。隣の、自分のベッドに腰掛けたままじっとオレを見つめてきた。

 隠されていない黄金の瞳は、なるほど確かに少し怖い……というか威圧的だ。

 何も言われていないのに、言い訳めいたものを口走ってしまう。

「オレ、もう寝るから。疲れたし……明日もダンジョンだろ?」

 
 予定通りならオレ勇者たちは明日、ダンジョンでS級モンスターに襲われ重傷を負い、逃げ出すことになる。
 
 まあ、予定が狂って(?)グレンが同行するから、多分そうはならないけど……物語も狂い始めている以上、確証はない。
 

 はぁ~……。
 寝たらこれは夢でした!ってならないかなぁー!(夢オチなんてサイテー……!)
 
 
 とにかく今日は全部忘れて寝てしまおう。明日のことは明日のオレに任せよう。

 そう思って布団に潜り込んだオレを引き留めるように、グレンが口を開いた。
 
「まって、ベル」

 真剣な表情と声音。
 
 え。まだなんかあんの? 
 もう勘弁してほしいんですけど。

「……なに」

「さっきの……誰かに、言われたことがあるのか」

 さっきの……さっきのってどれだ?
 色々言い過ぎて言われ過ぎて、どれがどれやら。

「なんの話だよ」

「だから――っ! 身体を差し出せって、そう……誰かに言われたことがあるのかって、聞いてるんだ」

 綺麗な顔を悲痛に歪めるグレンには悪いが、そんな設定は断じてない。

 井上さん(腐女子歴十八年。本人曰く前世から数えるなら八百一年)は、「ベルンハルトはモブおじさんウケが良すぎるから多分父親に取引材料として身体を他の有力貴族に……」的な事を語っていたが、オレはそれを採用していない。

 ベルンハルトくんもオレも清いカラダ! 
 はい、リピートアフタミー!!!

「馬鹿なこと言ってないで、お前も早く寝ろよ。――足手まといにはならないんだろ」

 付き合ってられるか。
 
 オレは布団を頭まで被って全ての情報をシャットダウンした。

 
 ――したかった。


 ……え? ベルンハルト……。
 
 お前、しょ、処女だよな? 男に処女っておかしい気もするけど、処女だよな?

 答えがないことはわかっているのに思わず問いかけてしまう。

 いや、別にいいんだけどさ……個人の自由だし……。オレも童貞だし……。うん……。

 でも、もし答えられるなら一つだけ教えてくれ、ベルンハルト。

 目を瞑る。


 ――乳首ってさ……普段からなんかガードしてないと……イっちゃったりする?
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