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#36 永遠と庸子 ―膝枕―
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「あ、あれ……? 私どうし……っ! と、永遠さん!?」
私の想いを頑張って伝えたら、絶叫と共に倒れちゃったヨーコさん。やっと覚醒した彼女の顔を真上から覗き込んだ。よかった、目が醒めて。だって30分も意識なくしちゃうんだもん。
ところで、今はどういった状況かというと、床に寝かせたままだと首が痛くなっちゃうから、ちょっとしたイタズラ心で、膝枕をしてあげてたのだ。
起きたらヨーコさんビックリするかな? どんな顔するかな? なんて反応が見たくてやってみた人生初の膝枕。というかヨーコさんの艶々の髪をどうしても触ってみたくて膝枕してみた、というのが本音で、よしよしと撫でてみたり指をくるくると絡めてみたり。ついでに彼女ご自慢の丸眼鏡を拝借してみたり。彼女の髪は、見るだけじゃなく触れても素敵で、眼鏡は……鏡がなかったからよく分かりませんでした。
渦中のヨーコさん、やっと自分が今置かれている状況を理解したみたいで、顔が瞬く間にアメザリ並みに真っ赤になる。あ、アメザリっていうのはアメリカザリガニのことね。
よく『金魚みたいに真っ赤になる』っていうけど、言うほど金魚って真っ赤じゃないと思うんだよね。
とまぁそれほど彼女の顔は赤い、って言いたいだけなんだけど。
慌ててガバッと起き上がろうとするヨーコさんの肩を止めて、「急に起きると体によくないよ」って少し抱きかかえる格好でゆっくりと起こしてあげる。
「な……なんで私、永遠さんに膝枕されてたの?」
「だってヨーコさん絶叫して倒れちゃったでしょ? だから膝枕してみました。私の脚、固くなかった?」
「もう……永遠さん実はイタズラ好きでしょ?」
「へへ……ほんとはね、ヨーコさんの髪触りたくて。だってすごい綺麗だから、撫で撫でしてみたくなっちゃって……だったら膝枕が『最適解』だと思ったの」
「と……あ…………こ……した」
か細い彼女の声は何を言ってるのか聞き取れず、当の本人は俯いたままで、耳までアメザリになっている。
「ん? 何? ヨーコさん」
「その……永遠さんの脚……最高でした!」
おぉ……なんかちょっと逆ギレされてる? でも、最高って言ってもらえて幸いですよ。膝枕した甲斐があったというもの。
「ちょっとイタズラが過ぎちゃったね、ごめんねヨーコさん」
「……ううん、怒ってないわ。だって私、いい夢見たもの」
「夢? どんなの見たの?」
「……ウォーターベッドの五千倍寝心地のいい未知の新素材ベッドの上で天使としか言いようのない清廉かつ慈愛に満ち満ちた女性に髪を撫でられながら鈴のような歌声で子守唄を耳元で優しく歌われ――」
「……ぃぃぃいやあぁぁぁ!! 恥ずか死んじゃうぅぅぅーーー!」
✳︎ ✳︎ ✳︎
「……なんか楽しいね」
「……うん、楽しいね、ヨーコさん」
「「……ふふっ」」
確かに楽しかったんだけど、まさか逆襲の褒め殺しをされるとは思いもよらなかった。けど、こういうのもなんか楽しいな。仲がどんどん深まってくみたいで。
「ねぇ永遠さん、さっきツナちゃんが言ってた『変身三回』ってなんのこと?」
「あ、そっか。それなんだけど――」
おそらくツナの言ったことと、私の考えてるそれは一致してて、それはなにかと言うと、
第二形態:ギターを弾く私
第三形態:カラコンを外した翠の眼の私
最終形態:濃茶色に染まらない地毛の私
だと思うんだけど、最終形態だけはすぐには見せられない。髪の伸びる速度は私じゃ制御できないから。というか誰にもできない。
「少し準備したいから、『ペ◯ー・スー』、何回かリピート再生してもいい?」
「? えぇ、もちろん。何度聴いても私は大丈夫、大好きな曲だもの」
快く賛同してくれたヨーコさんに、ちょっとしたプレゼントも兼ねてギターを聴いてもらいたい私は、すかさずステレオの側に置いてあったリング綴じのノートとペンを手に取った。
何をするのかというと、それはこの曲のコード進行をメモること。幸い、というかこの時代の曲って、いわゆる『スリーコード』の曲が多くて、コードストロークくらいならすぐにコピーできる。あとは時々アルペジオとか単音ソロっぽいフレーズを入れてしまえば、とりあえず聴けるくらいにはなるかな。
とは言うものの、実は私、音楽を純粋に楽しんで聴いてなかったりする。
もちろん音楽は聴くのも弾くのも大好きなんだけど、コード進行を追うように聴いちゃう癖がついてるから、音楽を娯楽として聴くよりも『解析しながら聴く』耳になってるのだ。たぶん、楽器を弾く人なら少なからずそういう耳になってるんじゃないかな。
と、ヨーコさんには申し訳ないけど同じ曲を数回リピートして、『ペ◯ー・スー』のコード表が出来上がった。
――――――――――
A D | A E ×2 intro
――――――――――
――――――――――――――――――――――
A | D | A D | A
――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――
D | D | A D | A
――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――
E | D | A D | A E
――――――――――――――――――――――
よし、あとは途中のメロにFのコードがあるのを忘れなければ大丈夫だ。
あとはなんとかなるでしょ。間違っても大丈夫、ロックなんだから(偏見)。
神妙な顔でコードを写しとる私に、ヨーコさんは不思議そうな顔をしつつも見守ってくれていた。おそらく、この曲をイメージして絵を描いてるって勘違いしてるのかも。なら、余計にサプライズ感も増すからよしとしましょう。だって絵は別に用意してあるんだから!
ヨーコさんの横を通りすぎて、ギターが仕舞い込んであるクローゼットのドアを開ける。ちょうどヨーコさんは私の背後にいるから、私が壁になってギターを出す様を悟られないのも幸いの偶然だ。体が大きくてよかったよ。
ケースからギターを引っ張り出しながら、背中越しの彼女に話しかける。
「ごめんねヨーコさん、あともうちょっとだから」
「う、うん。それはいいけど……これから何が始まるの?」
「それは……これ!」
「それ……」
くるっと振り向いて見せた私のギター。どのギターで弾こうかなって考えた末、選んだのはオレンジ色のムス◯ングことムーちゃん。ほんとはね、ジョ◯・レノンならこれ! ってギターがあるんだけど、それは夕ご飯を食べたあと、って決めてるんだ。これはもうとっておきですよ。楽しみにしててねヨーコさん!
◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯
頑張ってコード表を表現してみましたが、閲覧環境によってはズレちゃうんだろうなあ……。
私の想いを頑張って伝えたら、絶叫と共に倒れちゃったヨーコさん。やっと覚醒した彼女の顔を真上から覗き込んだ。よかった、目が醒めて。だって30分も意識なくしちゃうんだもん。
ところで、今はどういった状況かというと、床に寝かせたままだと首が痛くなっちゃうから、ちょっとしたイタズラ心で、膝枕をしてあげてたのだ。
起きたらヨーコさんビックリするかな? どんな顔するかな? なんて反応が見たくてやってみた人生初の膝枕。というかヨーコさんの艶々の髪をどうしても触ってみたくて膝枕してみた、というのが本音で、よしよしと撫でてみたり指をくるくると絡めてみたり。ついでに彼女ご自慢の丸眼鏡を拝借してみたり。彼女の髪は、見るだけじゃなく触れても素敵で、眼鏡は……鏡がなかったからよく分かりませんでした。
渦中のヨーコさん、やっと自分が今置かれている状況を理解したみたいで、顔が瞬く間にアメザリ並みに真っ赤になる。あ、アメザリっていうのはアメリカザリガニのことね。
よく『金魚みたいに真っ赤になる』っていうけど、言うほど金魚って真っ赤じゃないと思うんだよね。
とまぁそれほど彼女の顔は赤い、って言いたいだけなんだけど。
慌ててガバッと起き上がろうとするヨーコさんの肩を止めて、「急に起きると体によくないよ」って少し抱きかかえる格好でゆっくりと起こしてあげる。
「な……なんで私、永遠さんに膝枕されてたの?」
「だってヨーコさん絶叫して倒れちゃったでしょ? だから膝枕してみました。私の脚、固くなかった?」
「もう……永遠さん実はイタズラ好きでしょ?」
「へへ……ほんとはね、ヨーコさんの髪触りたくて。だってすごい綺麗だから、撫で撫でしてみたくなっちゃって……だったら膝枕が『最適解』だと思ったの」
「と……あ…………こ……した」
か細い彼女の声は何を言ってるのか聞き取れず、当の本人は俯いたままで、耳までアメザリになっている。
「ん? 何? ヨーコさん」
「その……永遠さんの脚……最高でした!」
おぉ……なんかちょっと逆ギレされてる? でも、最高って言ってもらえて幸いですよ。膝枕した甲斐があったというもの。
「ちょっとイタズラが過ぎちゃったね、ごめんねヨーコさん」
「……ううん、怒ってないわ。だって私、いい夢見たもの」
「夢? どんなの見たの?」
「……ウォーターベッドの五千倍寝心地のいい未知の新素材ベッドの上で天使としか言いようのない清廉かつ慈愛に満ち満ちた女性に髪を撫でられながら鈴のような歌声で子守唄を耳元で優しく歌われ――」
「……ぃぃぃいやあぁぁぁ!! 恥ずか死んじゃうぅぅぅーーー!」
✳︎ ✳︎ ✳︎
「……なんか楽しいね」
「……うん、楽しいね、ヨーコさん」
「「……ふふっ」」
確かに楽しかったんだけど、まさか逆襲の褒め殺しをされるとは思いもよらなかった。けど、こういうのもなんか楽しいな。仲がどんどん深まってくみたいで。
「ねぇ永遠さん、さっきツナちゃんが言ってた『変身三回』ってなんのこと?」
「あ、そっか。それなんだけど――」
おそらくツナの言ったことと、私の考えてるそれは一致してて、それはなにかと言うと、
第二形態:ギターを弾く私
第三形態:カラコンを外した翠の眼の私
最終形態:濃茶色に染まらない地毛の私
だと思うんだけど、最終形態だけはすぐには見せられない。髪の伸びる速度は私じゃ制御できないから。というか誰にもできない。
「少し準備したいから、『ペ◯ー・スー』、何回かリピート再生してもいい?」
「? えぇ、もちろん。何度聴いても私は大丈夫、大好きな曲だもの」
快く賛同してくれたヨーコさんに、ちょっとしたプレゼントも兼ねてギターを聴いてもらいたい私は、すかさずステレオの側に置いてあったリング綴じのノートとペンを手に取った。
何をするのかというと、それはこの曲のコード進行をメモること。幸い、というかこの時代の曲って、いわゆる『スリーコード』の曲が多くて、コードストロークくらいならすぐにコピーできる。あとは時々アルペジオとか単音ソロっぽいフレーズを入れてしまえば、とりあえず聴けるくらいにはなるかな。
とは言うものの、実は私、音楽を純粋に楽しんで聴いてなかったりする。
もちろん音楽は聴くのも弾くのも大好きなんだけど、コード進行を追うように聴いちゃう癖がついてるから、音楽を娯楽として聴くよりも『解析しながら聴く』耳になってるのだ。たぶん、楽器を弾く人なら少なからずそういう耳になってるんじゃないかな。
と、ヨーコさんには申し訳ないけど同じ曲を数回リピートして、『ペ◯ー・スー』のコード表が出来上がった。
――――――――――
A D | A E ×2 intro
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A | D | A D | A
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D | D | A D | A
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E | D | A D | A E
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よし、あとは途中のメロにFのコードがあるのを忘れなければ大丈夫だ。
あとはなんとかなるでしょ。間違っても大丈夫、ロックなんだから(偏見)。
神妙な顔でコードを写しとる私に、ヨーコさんは不思議そうな顔をしつつも見守ってくれていた。おそらく、この曲をイメージして絵を描いてるって勘違いしてるのかも。なら、余計にサプライズ感も増すからよしとしましょう。だって絵は別に用意してあるんだから!
ヨーコさんの横を通りすぎて、ギターが仕舞い込んであるクローゼットのドアを開ける。ちょうどヨーコさんは私の背後にいるから、私が壁になってギターを出す様を悟られないのも幸いの偶然だ。体が大きくてよかったよ。
ケースからギターを引っ張り出しながら、背中越しの彼女に話しかける。
「ごめんねヨーコさん、あともうちょっとだから」
「う、うん。それはいいけど……これから何が始まるの?」
「それは……これ!」
「それ……」
くるっと振り向いて見せた私のギター。どのギターで弾こうかなって考えた末、選んだのはオレンジ色のムス◯ングことムーちゃん。ほんとはね、ジョ◯・レノンならこれ! ってギターがあるんだけど、それは夕ご飯を食べたあと、って決めてるんだ。これはもうとっておきですよ。楽しみにしててねヨーコさん!
◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯
頑張ってコード表を表現してみましたが、閲覧環境によってはズレちゃうんだろうなあ……。
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