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#20 永遠と庸子と広大そして刹那 ―寄り道―
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【コーちゃん今日もうひとりお昼一緒にいい?】
【いつでも来いやー!】
お昼休みが始まってすぐ。ピコンっと鳴ったスマホのメッセ『永遠とその周辺』が、こんなやりとりを表示した。って、もうひとり……?
永遠、学校には友達は広大しかいないって言ってたような気がするんだけど、これって……。よし、これは広大に聞き込みが必要だな。めっちゃ気になる。
【もひとりって誰?】
もちろんこのメッセは私と広大だけのグループに送ったもの。迂闊なこと言って永遠に警戒されちゃ困るからね、とりあえずこっちに飛ばして様子を伺うことにする。
【くわしくはあとで】
【了。わたしもごはんたべる】
クラスメイトのお昼の誘いもうまく断って、普段は滅多に行かない屋上へと急ぐ。ここは普段のこの時間ならそこそこ人がいるんだけど、最近はすっかり暑くなったせいなのか人もまばらで、お昼を食べながらメッセをするにはちょうどいい。おあつらえ向きに日陰も空いてたし。
今日の昼食は、登校途中のコンビニで買ったおにぎり・唐揚げ・野菜ジュース。永遠は「ちゃんと野菜も食べないとダメだよ」って言うんだけど、今日は野菜ジュースで勘弁してもらおう。
容赦なく照りつける初夏の日差しから身を隠し、ふと懐旧する。
私(と広大)が永遠と友達になって八年。永遠は私たち以外に一切友達を作ろうとしなかった。「友達、私たちだけでいいの?」って聞いたこともあるんだけど。
「私はツナとコーちゃんが友達でいてくれるならそれで充分」
嘘のない柔らかな笑顔の奥底から滲み出す、僅かな寂寥。縋るように言う彼女に、それ以上何も言えなかった。言わなかった。
もちろん私は永遠の友達を辞めるなんて考えたこともない。彼女は私や広大のこと、すごく大事にしてくれるし、なにより優しい。
なんというか、永遠といると『心地良い』んだ。なんでも話せる私の親友、永遠。
(ほんと永遠には感謝しかないよ)
なんてことを、彩度の高い青空を細目で見ながら思い耽ってると、
【ともだち】
という広大のメッセが画像と一緒に飛んできた。そこに写っていたのは、珍しく取り乱した様子の永遠と、隣には笑顔も眩しい同級生であろう女の子。ってか髪の毛ツヤッツヤだなこの子。で、この昆虫みたいな丸眼鏡はなんだ? もうちょっとJKっぽい眼鏡かければいいのに。って、この子もしかして眼鏡外すとめっちゃ綺麗なんじゃないの?
【だれこれ】
【くわしくはWEBで。今日の放課後ひまか?】
CMかっつーの。でもここはスルーしてやる。
さて、今日はなんかあったかな……スマホのスケジュールアプリを覗いても特に用事はなかった。というか永遠が関わってるなら、私にはそれが最重要で、何を差し置いても最優先で繰り上がる事案なのだ。
【ひま。だいじょぶ】
【じゃあ○○駅前のカフェ集合】
【わかった。さっきの写真の子の件?】
【そう】
【おけ。じゃ、あとで】
それから、午後の授業は正直何も頭に入らなかった。まぁ、いつもだいたいそうなんだけど。でもあの永遠がねぇ。随分勇気出したんだな。どうやら広大もその場にいたみたいだし、何しろ広大が警戒してないんだから大丈夫だろう。普段はあぁだけど、永遠と私のことになると妙に鋭いし、事実これまで何度も私たちを守ってくれた。ほんと、広大は頼れる男で自慢の彼氏だよ。だから実のところ、私はそんなに心配してないんだ。平日私が永遠に会えなくても、なにかあれば広大がきっとあの子を守ってくれるから。
最後の授業の終わりを知らせる調子はずれのチャイムと同時に、学校を飛びだす。私だけが『写真の子』のことを知らない。言い方は悪いけど、見極めさせてもらうからね。カフェにいるだろうその子のこと。
余計なお世話だってこともわかってる。でも永遠を守ってあげられるのは私と広大だけなんだから。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「コーちゃんどこで話そっか?」
「駅前のカフェ。中見もそれでいいよな?」
「うん。構わないよ。あそこのカフェラテ美味しいし」
そのカフェは駅近くにあって、放課後ともなればうちの生徒もよく利用してる場所らしい。らしい、というのは私はそこに入ったことがないから。だってぼっちカフェって楽しいのかわからないし。そもそも私お茶派だもん。いや、コーヒーも好きなんだけどね。
徒歩10分ほどのカフェまでの距離がとても長く感じる。幸いなことにコーちゃんが私と中見さんの間に入って、うまいこと会話を回してくれたからよかったよ。たぶん、いや絶対私じゃこんなにうまく立ち回れない。普段こういうのはツナとコーちゃんの役目で、私はいつも一歩下がって頷いたり、二言三言話したり。でもちゃんと話は聞いてるんだよ。で、こう言おうかな、これ言ったらどう返ってくるかな、とか余計なこと考えてるうちに次の話題に変わっちゃう。
こんな風にまた余計なことを考えてるうちに、気づけば目的のカフェに到着していた。
さっそくコーちゃんは、一番奥のボックス席をでっかいショルダーバッグで確保してくれた。ほんとこういう時のコーちゃんは頼りになる。私は頼ってばっかり。
「俺アイスコーヒーのラージ」
「アイスラテのミドルお願いします」
「うーん……アイスティーにしよっかな」
ここコーヒーうまいのに紅茶かよ! ってコーちゃんのツッコミはいつものことなのでスルー。
「もしかして神代さん、コーヒー苦手?」
「あ、ううん。お茶が好きってだけ」
「それなら抹茶ラテとかどう? 甘いの苦手じゃなければ……だけど」
「うん、甘いのは好き……じゃあ中見さんのお勧め、飲んでみる」
「美味しいよ、抹茶ラテ」
聞いたことはあるけど、どんな味? あ、前にツナが飲んで「うえぇぇ苦えぇ~」って言ってたっけ。大丈夫かな私。
「飲めなきゃ俺が飲んでやるから」
「だいじょぶだよ。中見さんが美味しいって勧めてくれたんだから」
「あ、でも無理しないでね神代さん」
「ありがと、中見さん」
あれ。私、中見さんといても萎縮してない。彼女の纏う雰囲気が自分に合ってるのかな。さすがクラス委員、って言うと怒られちゃうから黙っておこう。
四人掛けのボックスシートに、私一人。対して目の前に中見さん、その隣にコーちゃんという位置に座る。普段だと中見さんの席にはツナがいるんだけど、今日は彼女がいないからちょっと新鮮。緊張して喉が乾く。ならばと中見さんお勧めの抹茶ラテにストローを立てた。
「あ……美味しい」
「ほんと!? 良かったぁ……勧めておいてなんだけど、実はドキドキしてたの私」
「そっか……でもほんと美味しいよ、中見さん。私、これ好き。だからもう、どきどきしないで大丈夫だから、ね?」
初めて口にする抹茶ラテとやらは、めっちゃ美味しかった。抹茶のおかげか飲んだ後もくどくないし、ほろ苦い感じも私好み。
「よかったじゃん永遠。また好きなもの増えたな」
「うん、増えたね……ありがとう中見さん。好きなもの、増えちゃった」
「っ! ……やっぱり私の思った通りの人だった、神代さんって」
「え?」
思った通りの人って何? 私どんなふうに思われてたのかな。いくら考えてもせいぜい『ちょっと背の高いひょろっとしたコミュ障気味の女子』くらいしか思いつかないのです私には。
その時。
「おーい永遠ー!」
はい? まさかとは思ったけどその聞き慣れた声。そのまさかだった。
【いつでも来いやー!】
お昼休みが始まってすぐ。ピコンっと鳴ったスマホのメッセ『永遠とその周辺』が、こんなやりとりを表示した。って、もうひとり……?
永遠、学校には友達は広大しかいないって言ってたような気がするんだけど、これって……。よし、これは広大に聞き込みが必要だな。めっちゃ気になる。
【もひとりって誰?】
もちろんこのメッセは私と広大だけのグループに送ったもの。迂闊なこと言って永遠に警戒されちゃ困るからね、とりあえずこっちに飛ばして様子を伺うことにする。
【くわしくはあとで】
【了。わたしもごはんたべる】
クラスメイトのお昼の誘いもうまく断って、普段は滅多に行かない屋上へと急ぐ。ここは普段のこの時間ならそこそこ人がいるんだけど、最近はすっかり暑くなったせいなのか人もまばらで、お昼を食べながらメッセをするにはちょうどいい。おあつらえ向きに日陰も空いてたし。
今日の昼食は、登校途中のコンビニで買ったおにぎり・唐揚げ・野菜ジュース。永遠は「ちゃんと野菜も食べないとダメだよ」って言うんだけど、今日は野菜ジュースで勘弁してもらおう。
容赦なく照りつける初夏の日差しから身を隠し、ふと懐旧する。
私(と広大)が永遠と友達になって八年。永遠は私たち以外に一切友達を作ろうとしなかった。「友達、私たちだけでいいの?」って聞いたこともあるんだけど。
「私はツナとコーちゃんが友達でいてくれるならそれで充分」
嘘のない柔らかな笑顔の奥底から滲み出す、僅かな寂寥。縋るように言う彼女に、それ以上何も言えなかった。言わなかった。
もちろん私は永遠の友達を辞めるなんて考えたこともない。彼女は私や広大のこと、すごく大事にしてくれるし、なにより優しい。
なんというか、永遠といると『心地良い』んだ。なんでも話せる私の親友、永遠。
(ほんと永遠には感謝しかないよ)
なんてことを、彩度の高い青空を細目で見ながら思い耽ってると、
【ともだち】
という広大のメッセが画像と一緒に飛んできた。そこに写っていたのは、珍しく取り乱した様子の永遠と、隣には笑顔も眩しい同級生であろう女の子。ってか髪の毛ツヤッツヤだなこの子。で、この昆虫みたいな丸眼鏡はなんだ? もうちょっとJKっぽい眼鏡かければいいのに。って、この子もしかして眼鏡外すとめっちゃ綺麗なんじゃないの?
【だれこれ】
【くわしくはWEBで。今日の放課後ひまか?】
CMかっつーの。でもここはスルーしてやる。
さて、今日はなんかあったかな……スマホのスケジュールアプリを覗いても特に用事はなかった。というか永遠が関わってるなら、私にはそれが最重要で、何を差し置いても最優先で繰り上がる事案なのだ。
【ひま。だいじょぶ】
【じゃあ○○駅前のカフェ集合】
【わかった。さっきの写真の子の件?】
【そう】
【おけ。じゃ、あとで】
それから、午後の授業は正直何も頭に入らなかった。まぁ、いつもだいたいそうなんだけど。でもあの永遠がねぇ。随分勇気出したんだな。どうやら広大もその場にいたみたいだし、何しろ広大が警戒してないんだから大丈夫だろう。普段はあぁだけど、永遠と私のことになると妙に鋭いし、事実これまで何度も私たちを守ってくれた。ほんと、広大は頼れる男で自慢の彼氏だよ。だから実のところ、私はそんなに心配してないんだ。平日私が永遠に会えなくても、なにかあれば広大がきっとあの子を守ってくれるから。
最後の授業の終わりを知らせる調子はずれのチャイムと同時に、学校を飛びだす。私だけが『写真の子』のことを知らない。言い方は悪いけど、見極めさせてもらうからね。カフェにいるだろうその子のこと。
余計なお世話だってこともわかってる。でも永遠を守ってあげられるのは私と広大だけなんだから。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「コーちゃんどこで話そっか?」
「駅前のカフェ。中見もそれでいいよな?」
「うん。構わないよ。あそこのカフェラテ美味しいし」
そのカフェは駅近くにあって、放課後ともなればうちの生徒もよく利用してる場所らしい。らしい、というのは私はそこに入ったことがないから。だってぼっちカフェって楽しいのかわからないし。そもそも私お茶派だもん。いや、コーヒーも好きなんだけどね。
徒歩10分ほどのカフェまでの距離がとても長く感じる。幸いなことにコーちゃんが私と中見さんの間に入って、うまいこと会話を回してくれたからよかったよ。たぶん、いや絶対私じゃこんなにうまく立ち回れない。普段こういうのはツナとコーちゃんの役目で、私はいつも一歩下がって頷いたり、二言三言話したり。でもちゃんと話は聞いてるんだよ。で、こう言おうかな、これ言ったらどう返ってくるかな、とか余計なこと考えてるうちに次の話題に変わっちゃう。
こんな風にまた余計なことを考えてるうちに、気づけば目的のカフェに到着していた。
さっそくコーちゃんは、一番奥のボックス席をでっかいショルダーバッグで確保してくれた。ほんとこういう時のコーちゃんは頼りになる。私は頼ってばっかり。
「俺アイスコーヒーのラージ」
「アイスラテのミドルお願いします」
「うーん……アイスティーにしよっかな」
ここコーヒーうまいのに紅茶かよ! ってコーちゃんのツッコミはいつものことなのでスルー。
「もしかして神代さん、コーヒー苦手?」
「あ、ううん。お茶が好きってだけ」
「それなら抹茶ラテとかどう? 甘いの苦手じゃなければ……だけど」
「うん、甘いのは好き……じゃあ中見さんのお勧め、飲んでみる」
「美味しいよ、抹茶ラテ」
聞いたことはあるけど、どんな味? あ、前にツナが飲んで「うえぇぇ苦えぇ~」って言ってたっけ。大丈夫かな私。
「飲めなきゃ俺が飲んでやるから」
「だいじょぶだよ。中見さんが美味しいって勧めてくれたんだから」
「あ、でも無理しないでね神代さん」
「ありがと、中見さん」
あれ。私、中見さんといても萎縮してない。彼女の纏う雰囲気が自分に合ってるのかな。さすがクラス委員、って言うと怒られちゃうから黙っておこう。
四人掛けのボックスシートに、私一人。対して目の前に中見さん、その隣にコーちゃんという位置に座る。普段だと中見さんの席にはツナがいるんだけど、今日は彼女がいないからちょっと新鮮。緊張して喉が乾く。ならばと中見さんお勧めの抹茶ラテにストローを立てた。
「あ……美味しい」
「ほんと!? 良かったぁ……勧めておいてなんだけど、実はドキドキしてたの私」
「そっか……でもほんと美味しいよ、中見さん。私、これ好き。だからもう、どきどきしないで大丈夫だから、ね?」
初めて口にする抹茶ラテとやらは、めっちゃ美味しかった。抹茶のおかげか飲んだ後もくどくないし、ほろ苦い感じも私好み。
「よかったじゃん永遠。また好きなもの増えたな」
「うん、増えたね……ありがとう中見さん。好きなもの、増えちゃった」
「っ! ……やっぱり私の思った通りの人だった、神代さんって」
「え?」
思った通りの人って何? 私どんなふうに思われてたのかな。いくら考えてもせいぜい『ちょっと背の高いひょろっとしたコミュ障気味の女子』くらいしか思いつかないのです私には。
その時。
「おーい永遠ー!」
はい? まさかとは思ったけどその聞き慣れた声。そのまさかだった。
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