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#17 刹那と広大 ―秘密の話001―

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【きょううごかないひと動いた】

 不意にピコンッと広大こうだいからのメッセ。

 珍しいな、こっちの『二人だけのグループ』には滅多に寄越さないのに。
 普段、私と広大は、『永遠とわとその周辺』という私が作ったグループで、やりとりをしている。三人の間には隠し事とかないし、小三からずっと、何をするにも一緒だったから、なんでも共有したい。だから広大とデートの約束なんかもこのグループでする。

 永遠は永遠で私たちのやりとりを読んではいるけど、いい感じでスルーしてくれる。たまにね、広大と言い合いみたいになると、仲裁に入ってくれたりもする。永遠はいつでも優しい私の親友。

 でも広大のこのメッセ、二人だけでやりとりする内容かな。このグループって『永遠に内緒で話したいこと』にしか使わないのに。例えば永遠の誕プレ何にする? とかちょっとしたイタズラの計画とか。でも、『永遠の悪口』とか、そういうネガティブなことは一切ない。だって永遠にそんな要素一つもないから。

 というか、動いた? 昨日広大あの場にいなかったじゃん。どっかで一人で見てたの? まぁいいか。

 ちょうどお風呂上がりでパクついていた棒アイスを、一気にお腹に片付けてから腰を据えてメッセを返す。

【なにいってんの?】
【うごいたっていうか店にきた】

 えっ!? どういうこと? 店って『アクアリウムビリー』だよね。店の手伝いするって広大言ってたし。これだけじゃ全く何が何やらわかんないっての。

【マジかーわたしもいけばよかった】
【てかふつうにうごいてしゃべってたんだが】
【なにはなしてたの?】
【くつしろはるひさっていうんだと。ふだんはゆうって】
【よばれてるらしい】

 はるひさとゆうって、全然ちがうじゃんね。何? もしかして双子とか?

【ふたご説きた?】
【いや、悠久て書いてはるひさ。だからゆうなんだろ】
【理解した】

 ふむ。『くつしろ悠久はるひさ』でゆう、ね。さらに理解した。
 あ、だから段ボールに『UQ』って書いてあったのか。深く理解した。

【ところでさ。かみのけまっしろだったでしょ】
【超まっしろ。すげーなあれ地毛なんかな】
【なんかきづいたらあんなんなったってレイちゃんいってた】
【なんかショックなことでもあったとか?】

 私も昨日初めて見たのに、わかるわけないでしょ。てか私『動いてない』状態しか知らないし。

【このはなしここですることかねこーだいくん】
【いや】
【とわがさ】
【なんかさ】
【なんというかその】
【分割うざ】
【おれのかんちがいじゃなきゃ】

 永遠がどうしたの? どうせいつもみたいに誰かの後ろで大人しくしてたんでしょ。あの子、私たち三人の時は普通に喋れるし面白いんだけど、相手が初対面だったりとかグイグイくる系の人、苦手なんだよね。
 ううん、苦手じゃないな。怖がってるんだ。私と広大は知ってる、あの子の傷を。知ってるからこそ私は永遠を全力で守りたい。
 かって永遠が私たちにそうしてくれたみたいに。

――永遠に仇なす者は誰だろうが私と広大で蹴散らしてやる――

 くつしろ悠久がそう仇なす者なら、そうしてやるまで! と物騒な私の思考を広大のメッセがひっくり返す。

【たのしそうだったんだよ】

 あの永遠が? 確かに昨日の土曜日、あの子必死に写真撮りまくってたけど、それもいつもみたいに『絵のモチーフ』だって言ってたし。

【じゃあゆうって人はとわには有害じゃない?】
【むしろ無害というか有益にみえた】

 そっか……そうなんだ! それってもしかして……。

【そかそか。あのとわが】
【おれもびっくりしたけどなんもいわんでおいた】
【こーだいさすがわかってる】

 そう。あの子永遠ってハリネズミだからね。臆病だけど可愛いくて綺麗なハリネズミ。ちょっと突っ突くとすぐ丸まっちゃう。そうなるともう私たちにはお手上げだ。だから今は何もしないで永遠の心に任せるしかない。永遠の心がなのかはわからないけど。でも、そんな永遠、初めてかもなぁ。

【ねぇこーだい】
【これっていいことだよね】
【おれもそーおもう】
【じゃあ静観モードでいこ】
【制汗モードりょうかいした】
【こら誤字すんなエイミーに怒られるぞ】
【エイミーってだれ】
【今読んでるネット小説のしゅじんこう】
【知らんわ】
【ある意味合ってるからちょいムカつく】
【^3^】

 あ、誤魔化した。

【そろそろ寝るおやすみん】
【おやすみ(((   *´)` )チュッ♡】

 スマホを無造作にポイっとベッドに放り投げてから、私も追随してバサッとベッドに倒れ込み、目を閉じて考えてみる。

 (永遠、どんな顔してたんだろ)

 広大でもわかるくらいに楽しそう、か。
 今の会話だけじゃ、何が楽しかったのかは私にはわからないけど、楽しかったのなら一安心。永遠が楽しければ私はそれでいい。

 なんかわからないけど、永遠。よかったね。
 私、いつだって永遠の味方だから。
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