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#10 永遠と楽器屋(追想そして現在) ―Nashville―

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「……ってことなんだけど……」
「「確かにやばい」」

 私のテレ◯ャスターが、実はとんでもない代物だったという驚きの報告を、まさに今カフェでツナとコーちゃんに打ち明けたところ。ちなみに今、その元凶なるテレ○ャスターは持っていない。『ギターガレージ』に置いてきたから。
 最初はただ見せるだけのつもりだったんだけど、

『このギターも、もちろん僕がきっちりと調整します、いやさせてください!』

 というフミヤさんの勢いに気圧されて、つい置いてきた、ってわけ。私の懐具合、なにも考えてないんじゃないのかな。と思ったら今回はタダでいい、とか言い出すし。さすがにタダは気が引けたから、お金が出来次第お支払いするって言ったんだけど……JKが『ツケ』ってどうなのかなぁ。

「しかもね、置いてきたギターも、調整が済んだら家まで届けてくれるんだって」
「すげぇ……でもそのほうがいいと思うぞ。そんな貴重なギター、持ったまま電車とか乗りたくないだろ。俺なら怖くて無理だわ」
広大こうだいの言う通りだよ! ってかジョー、どんだけ高いギター買ってるの。もうちょっと永遠とわの身の丈に合ったのくれればいいのに」

 それね。私も思ったよ。

「ほんとだよね……って今受け取ってきたこのギター……あのオレンジに赤ラインのやつなんだけど、これも『あのお店ギターガレージ』で売るとすると63万円なんだって」
「えー……。もう永遠さぁ、さっさと帰ろうぜ。こんなん持って今から遊ぶとか俺マジ無理」
「私も無理! 永遠の家で遊ぼ」
「そうだね、そうしよっか」

 そうして私たち三人は、もうドキドキしながら地元へと帰っていった。たぶんすごく挙動不審だった。そして、今後も『ギターガレージ』とは、付き合いが続くんだろうなって予感がしてる。

 ✳︎          ✳︎          ✳︎

 そして#612○を『ギターガレージ』に持ってきた今日――
 
 懐かしい出来事を急ぎ足に追想していると、相変わらずの眠たそうな目でフミヤさんは続けた。

「そもそも#612◯って、状態のいい個体が少ないんですよ……じゃあさっそくこれも弾いてみましょうか? そして店長わかってて買い取りって言ってますよね?」
「もちろんわかってるさ。挨拶みたいなもんだってば」
「あはは……あれ、いつも通りのセッティングじゃないんですか?」
「えぇ。これはフルアコギターですから、今までのギターとはセッティングを変えたほうがいいと思いますので」

 なるほど、そういうものなんだと思いつつ、実はよくわからないからフミヤさんに言われるままに防音室に。そしてアンプに繋げて音をジャーンっとかき鳴らす。

「あれ?……確かに違いますねフミヤさん」
「フルアコギターというのもありますが、とにかくグレ◯チのギターは独特なんです。なんというか、ジャンルを選ぶというか……ハマれば最高、そんなギターだと思いますよ」
「ジャンルですか……例えばどんなのですか?」

 ジャンルって言われてもなぁ……あんまりそのへんは詳しくないというか、音楽の嗜好もね、基本パパのバンドと、パパが送ってくれるCDやレコードが好きだから、特に『私ハードロック大好きです!』とかじゃないんだよ。

「そうですね……ジャンルというか、グレ○チを使用しているミュージシャンをまずは聴いてみるというのは?」
「なるほど! 参考になりそう」
「まずはチェット・ア◯キンスとか。彼はカントリーのミュージシャンですが、グレッチといえばチェットだと思いますよ。あとは、ブラ◯アン・セッツァーもいいんじゃないでしょうか」

 ふむふむ、ちょっと検索してみようかな。なになに……おー、なんかイカしたいかにも50年代のお兄さんの画像が出てきたよ……これがチェット・ア◯キンスね。お、動画もたくさんあるからあとで見てみよう。
 で、次はブラ◯アン・セッツァーだったっけ。どれどれ……なるほど『ストレイ・キャ◯ツ』ってバンドのメンバーなのか。ってなかなかカッコいいかも。リーゼントっていうんだっけこの髪型? というか……なんかいいかも!?
 とりあえず、ビビッときた『ストレイ・キャ◯ツ』の動画をフミヤさんと鑑賞会。

「そうですね……『Rock This T◯wn』を見てみましょうか」

 と言いながら私のスマホを勝手にポチるフミヤさん。
 そして『Rock This T◯wn』をスマホが奏ではじめた。

 これヤバい! カッコいいかも!? というかこれ弾きながら歌ってるんだよね? すごいぞブラ◯アン!(上から) 他のメンバーもいいじゃん。ドラム立って叩いてるしめっちゃ細いし、ウッドベースの人もシブいなぁ。なんか自然に体が跳ねる感じで曲もいいなぁ。

 私もブラ○アンみたいに弾きたい! って顔を浮かべると、うんうん頷いたフミヤさん。顔でわかっちゃったのか、確かにちょっとだけ興奮してるもん私。

「さすがにブラ◯アン・セッツァーと同じセッティングってわけにはいきませんが、神代さんに合いそうなセッティングにしつつ様子をみましょうか」
「はい! お願いします!」

 と、ここで防音室に入ってきた寺田店長。相変わらずニコニコしてなんか嬉しそうだね。調整の方針は決まったかい? という言葉にやはりいつも通りに小さく首肯したフミヤさん。この二人、雰囲気とか性格とか真逆なのに、気が合っててなんだか面白い。

「今、ちょっとリペアが立て込んでて、ちょっと時間がかかるかもしれませんが、いいですか? 神代さん」
「はい。特に急いでるわけでもありませんから。ゆっくりでいいですよ」
「そう言っていただけると気が楽です」
「じゃあ永遠ちゃん、できたら僕のほうから連絡するから楽しみに待ってて。あ、あとこれ」
「店長、これは?」
「チェット・ア◯キンスといえばサムピックだからね。プレゼント」
「ありがとうございます!」

 私の#612◯、一体どんな感じにしてくれるんだろうなぁ、そんな期待に足取りも軽く、二人に別れを簡単に済ませて帰路についた。
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