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第二章・アイゼンリウト騒乱編
第69話 主人公と悪役
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「だからなんだ!」
剣撃が粗くなり動揺の激しさが伝わる。こちらとしては粗ければ粗いほど受けるのは大変だが、慣れれば力を逃がせる上に相手により多くのエネルギーを消耗させられるから有難い。
徐々に目も体も慣れてきて受けたと思わせた瞬間、剣で流れを変えるのも苦も無く行えるようになってきた。アーサーは未だに動揺が収まらないのか多少の違和感も気付かない。
俺は一撃目で黒隕剣を袈裟斬り、間髪入れずバルムンクで逆袈裟斬りを、そして返す黒隕剣で突く。アーサーは突きを避ける為にバックステップをするが逃がさない。懐ギリギリまで間合いを詰めてインファイトに持ち込む。この状態であれば俺の方が身長が低い分小回りが利くし、剣技で捌き辛くなるだろうと考えての行動だ。
「ぐあっ!?」
思惑通りアーサーは動揺も手伝い動きが窮屈に、そしてぎこちなくなり始める。そして薙いだ俺の剣を避けた時にがら空きになった鳩尾を、黒隕剣を握ったまま拳を突き出し叩き込んだ。鳩尾に叩き込んだのは昔虐められた時にここを強打されて息が出来なくなったのを思い出たからだ。
タイミング良く入ったようで堪らずくの字の態勢なった所を俺は見逃さず、剣身が光の粒子になり融通が利くように感じた黒隕剣の柄で突き上げる。剣身の光は俺を護る様に短くなりしっかりヒットした。アーサーは堪らず苦痛に顔を歪めながらよろめきつつめちゃくちゃに飛び退くも、俺はそれを食らいついた犬のように間合い詰めて離さない。
ハエを払うように詰め寄る俺に対してめちゃくちゃに剣を振りまわすアーサー。だが癖もタイミングも目が俺を護る様にしっかりと追ってくれてそれに合わせて綺麗に掻い潜り、黒隕剣の柄で再度鳩尾へ叩きつける。
「ぬあああっ!」
体がくの字に折れ曲がったアーサーの頭部目掛けて剣を振り下ろした瞬間、爆風と共に吹っ飛ばされてしまった。煙は直ぐに俺を通り過ぎ前を見ると黒いオーラのようなものを纏ったアーサーが肩で息をしながら立っている。俺はそれが何なのか考えずに直ぐに間合いを詰める。分からないものより、着実に追い詰めているという事実を逃す手はない!
「何故だ! 何故私の世界で私が有利にならない!?」
「そんなものは自分に聞け!」
「何!?」
「アンタの物語の結末だよ! 自分なら分かるだろうに!」
「俺の物語だと!? 俺の物語は……」
アーサーは少し考えて気付いたのか目を丸くする。俺はアーサーの物語を読んではいないが、最早アーサーは完全な悪役なのだ。血の繋がる家族を犠牲にし護るべき民をも犠牲にした最強最悪の王。
それに物語を書いていた男が気付かない筈は無いんだ。
俺は再度動揺したアーサーの隙を突いて、当たるか分からないが全力でオーラ越しに腹に前蹴りを繰り出す。どうやらオーラ越しでもダメージは弱まるがしっかり通るようで、アーサーは度重なる腹部への攻撃により足取りが怪しくなってきた。
「ちくしょおおおっ!」
苦し紛れの一撃を寸での所でしゃがんで避けるも髪の毛が少し斬れた。少なくも無いが多くも無い髪を斬られて少しショックを受けるも、どうせ減ったならと俺はそのまま腹に頭突きをするように突っ込んだ。
「ぬぅ!」
一撃入り咳込み、転がる様に下がるアーサー。すぐさまくの字ながらも何とか立ち上がり、俺を追い払うように剣を振り回した。俺は自分の体力の回復も考えながら一定の距離を保ちつつ隙を窺う。
それにしてもアーサーは無駄な体力を使うな。俺の倍と見ていたが、予想以上にあるのかもしれない。俺はセコイ作戦が背に腹は代えられないと考え、飛び込むフェイントを細かく入れて剣撃を止めさせないように仕向ける。
こちらも行ければ行こうと考えながら掛けているフェイントだから、多少体力は消耗する。だが今はアーサーにこちらよりも多く消耗させるのが肝心だ。
相手と違ってこっちは一度しかない命だ。それにここで俺がこいつを終わらせないと、皆の明日がめちゃくちゃにされてしまう。体裁も何もないし正義の味方を気取るつもりもない。どんな方法を取ってでも倒さなけば……倒しさえすれば後は姫が居る。
姫ならきっとこの国を立て直してくれるだろう。頭の中にあの凛々しい姿で民の前に立つ姫が浮かび小さく笑う。それに対してアーサーは歯を剥き出しにして来てこちらに剣を振り下ろして来た。
掠るかと思ったが剣が自ら少しずらした様に見えた。アーサーの顔を見ると剣を睨み付けている。そう言えばアイツの握っている剣は姫の両親だったな。母親はもとよりあの王も剣になった今、やっと親として娘を純粋に思える様になったのかもしれない、そう考えて俺は問いかけてみる。
「そうだろう、姫の両親」
「何!?」
俺の問いかけに剣撃が止まった。それは明確な隙。
「ああああああっ!」
俺が突き出した黒隕剣の光の剣身は、アーサーの腹を貫いた。だがこれで終わりじゃない。
「消えろ!」
確実に倒すべく俺は大きく振りかぶり、黒隕剣とバルムンクを全力で振り下ろす。
「ぐおぉ」
アーサーは剣を捨て飛び退く。俺も読んでいたのだからアーサーも俺の動きや癖を呼んだのだろう。それに息は荒いが傷は再生してしまった。体力もある上に再生する余裕まであるとは。
となるとこの状況でまだ奥の手を隠していると見て間違いないだろう。随分と余裕だな。だが堕天剣ロリーナとキャロルは今俺の前にある。まだ俺が有利だ!
「良いだろう。俺がただ長い年月を生きてきた訳ではない事を教えてやる」
「変身でもするのか?」
「……一々癇に障る野郎だな貴様は!」
王も変身したのでアーサーも更に変身するかもと思い言って見たら当たりらしい。アーサーは俺に対する苛立ちを叫ぶと、纏っていた黒いオーラはアーサーの体に吸い込まれ、肌の色を変えて行き脈打つように体のあちこちが膨らんだりしぼんだりを
繰り返し始めた。
スライムかお前はと突っ込みたくなるのを抑え、俺は黒隕剣とバルムンクを下に向けると目を閉じた。一秒でも多く回復の為に備える。今の状況で攻撃したところで弾かれるのは色んな話で見た。なので自分が確実に出来るものをする。
やがて周囲が地震でも起きたかのように揺れ始め、生暖かい空気が去った後で凍えるような風とバチバチと静電気が発生するような音がした。
「最早、お前ごときでは私を捉えられないぞ?」
「ついに奥の手を出すまで追い込まれたと認めてくれたのか」
目を閉じたままそういうと、それは近付いてきた。一瞬だった。地面を蹴り体を浮かして、腹に受けた衝撃を和らげるが痛いは痛い。だが何故か目を閉じてもハッキリと解る。形さえも見えるようだ。これが気を捉えたという状況なのだろうか。
「おらおらおらおら!」
剣を取らずに何故か拳で殴りかかってきた。斬るまでも無いと思っているんだろうな。俺がアーサーでもそう考える。何しろ相手は良く分からないが人間には違いないとしか思えないだろうし。
だが俺は確かに人間だと思うけど少し特殊だ。それに妙な世界で変な目薬を差されたが、見えるようになるだけでは無いんじゃないかと言う気がして来た。
もしかすると自分が気付かなかっただけで、この体は力や魔力以外もかなり高度な能力を備えてこの世界に来たのかもしれない。それなら底が付くまで絞り出そうと全神経を更に集中させ、風を切る音を頼りに紙のように流れに逆らわず避けていく。
誰の御蔭か知らないが、そのお陰でアーサーを止められるのだから感謝しかない。余すところなく使い切って必ずアイツを倒す!
「馬鹿め。そのまま黙ってかわしていればいいものを」
「一発入れば終わりなのは剣でも拳でも同じだろ?」
「敢えて死にたいなら望み通りにしてくれるわ!」
剣撃が粗くなり動揺の激しさが伝わる。こちらとしては粗ければ粗いほど受けるのは大変だが、慣れれば力を逃がせる上に相手により多くのエネルギーを消耗させられるから有難い。
徐々に目も体も慣れてきて受けたと思わせた瞬間、剣で流れを変えるのも苦も無く行えるようになってきた。アーサーは未だに動揺が収まらないのか多少の違和感も気付かない。
俺は一撃目で黒隕剣を袈裟斬り、間髪入れずバルムンクで逆袈裟斬りを、そして返す黒隕剣で突く。アーサーは突きを避ける為にバックステップをするが逃がさない。懐ギリギリまで間合いを詰めてインファイトに持ち込む。この状態であれば俺の方が身長が低い分小回りが利くし、剣技で捌き辛くなるだろうと考えての行動だ。
「ぐあっ!?」
思惑通りアーサーは動揺も手伝い動きが窮屈に、そしてぎこちなくなり始める。そして薙いだ俺の剣を避けた時にがら空きになった鳩尾を、黒隕剣を握ったまま拳を突き出し叩き込んだ。鳩尾に叩き込んだのは昔虐められた時にここを強打されて息が出来なくなったのを思い出たからだ。
タイミング良く入ったようで堪らずくの字の態勢なった所を俺は見逃さず、剣身が光の粒子になり融通が利くように感じた黒隕剣の柄で突き上げる。剣身の光は俺を護る様に短くなりしっかりヒットした。アーサーは堪らず苦痛に顔を歪めながらよろめきつつめちゃくちゃに飛び退くも、俺はそれを食らいついた犬のように間合い詰めて離さない。
ハエを払うように詰め寄る俺に対してめちゃくちゃに剣を振りまわすアーサー。だが癖もタイミングも目が俺を護る様にしっかりと追ってくれてそれに合わせて綺麗に掻い潜り、黒隕剣の柄で再度鳩尾へ叩きつける。
「ぬあああっ!」
体がくの字に折れ曲がったアーサーの頭部目掛けて剣を振り下ろした瞬間、爆風と共に吹っ飛ばされてしまった。煙は直ぐに俺を通り過ぎ前を見ると黒いオーラのようなものを纏ったアーサーが肩で息をしながら立っている。俺はそれが何なのか考えずに直ぐに間合いを詰める。分からないものより、着実に追い詰めているという事実を逃す手はない!
「何故だ! 何故私の世界で私が有利にならない!?」
「そんなものは自分に聞け!」
「何!?」
「アンタの物語の結末だよ! 自分なら分かるだろうに!」
「俺の物語だと!? 俺の物語は……」
アーサーは少し考えて気付いたのか目を丸くする。俺はアーサーの物語を読んではいないが、最早アーサーは完全な悪役なのだ。血の繋がる家族を犠牲にし護るべき民をも犠牲にした最強最悪の王。
それに物語を書いていた男が気付かない筈は無いんだ。
俺は再度動揺したアーサーの隙を突いて、当たるか分からないが全力でオーラ越しに腹に前蹴りを繰り出す。どうやらオーラ越しでもダメージは弱まるがしっかり通るようで、アーサーは度重なる腹部への攻撃により足取りが怪しくなってきた。
「ちくしょおおおっ!」
苦し紛れの一撃を寸での所でしゃがんで避けるも髪の毛が少し斬れた。少なくも無いが多くも無い髪を斬られて少しショックを受けるも、どうせ減ったならと俺はそのまま腹に頭突きをするように突っ込んだ。
「ぬぅ!」
一撃入り咳込み、転がる様に下がるアーサー。すぐさまくの字ながらも何とか立ち上がり、俺を追い払うように剣を振り回した。俺は自分の体力の回復も考えながら一定の距離を保ちつつ隙を窺う。
それにしてもアーサーは無駄な体力を使うな。俺の倍と見ていたが、予想以上にあるのかもしれない。俺はセコイ作戦が背に腹は代えられないと考え、飛び込むフェイントを細かく入れて剣撃を止めさせないように仕向ける。
こちらも行ければ行こうと考えながら掛けているフェイントだから、多少体力は消耗する。だが今はアーサーにこちらよりも多く消耗させるのが肝心だ。
相手と違ってこっちは一度しかない命だ。それにここで俺がこいつを終わらせないと、皆の明日がめちゃくちゃにされてしまう。体裁も何もないし正義の味方を気取るつもりもない。どんな方法を取ってでも倒さなけば……倒しさえすれば後は姫が居る。
姫ならきっとこの国を立て直してくれるだろう。頭の中にあの凛々しい姿で民の前に立つ姫が浮かび小さく笑う。それに対してアーサーは歯を剥き出しにして来てこちらに剣を振り下ろして来た。
掠るかと思ったが剣が自ら少しずらした様に見えた。アーサーの顔を見ると剣を睨み付けている。そう言えばアイツの握っている剣は姫の両親だったな。母親はもとよりあの王も剣になった今、やっと親として娘を純粋に思える様になったのかもしれない、そう考えて俺は問いかけてみる。
「そうだろう、姫の両親」
「何!?」
俺の問いかけに剣撃が止まった。それは明確な隙。
「ああああああっ!」
俺が突き出した黒隕剣の光の剣身は、アーサーの腹を貫いた。だがこれで終わりじゃない。
「消えろ!」
確実に倒すべく俺は大きく振りかぶり、黒隕剣とバルムンクを全力で振り下ろす。
「ぐおぉ」
アーサーは剣を捨て飛び退く。俺も読んでいたのだからアーサーも俺の動きや癖を呼んだのだろう。それに息は荒いが傷は再生してしまった。体力もある上に再生する余裕まであるとは。
となるとこの状況でまだ奥の手を隠していると見て間違いないだろう。随分と余裕だな。だが堕天剣ロリーナとキャロルは今俺の前にある。まだ俺が有利だ!
「良いだろう。俺がただ長い年月を生きてきた訳ではない事を教えてやる」
「変身でもするのか?」
「……一々癇に障る野郎だな貴様は!」
王も変身したのでアーサーも更に変身するかもと思い言って見たら当たりらしい。アーサーは俺に対する苛立ちを叫ぶと、纏っていた黒いオーラはアーサーの体に吸い込まれ、肌の色を変えて行き脈打つように体のあちこちが膨らんだりしぼんだりを
繰り返し始めた。
スライムかお前はと突っ込みたくなるのを抑え、俺は黒隕剣とバルムンクを下に向けると目を閉じた。一秒でも多く回復の為に備える。今の状況で攻撃したところで弾かれるのは色んな話で見た。なので自分が確実に出来るものをする。
やがて周囲が地震でも起きたかのように揺れ始め、生暖かい空気が去った後で凍えるような風とバチバチと静電気が発生するような音がした。
「最早、お前ごときでは私を捉えられないぞ?」
「ついに奥の手を出すまで追い込まれたと認めてくれたのか」
目を閉じたままそういうと、それは近付いてきた。一瞬だった。地面を蹴り体を浮かして、腹に受けた衝撃を和らげるが痛いは痛い。だが何故か目を閉じてもハッキリと解る。形さえも見えるようだ。これが気を捉えたという状況なのだろうか。
「おらおらおらおら!」
剣を取らずに何故か拳で殴りかかってきた。斬るまでも無いと思っているんだろうな。俺がアーサーでもそう考える。何しろ相手は良く分からないが人間には違いないとしか思えないだろうし。
だが俺は確かに人間だと思うけど少し特殊だ。それに妙な世界で変な目薬を差されたが、見えるようになるだけでは無いんじゃないかと言う気がして来た。
もしかすると自分が気付かなかっただけで、この体は力や魔力以外もかなり高度な能力を備えてこの世界に来たのかもしれない。それなら底が付くまで絞り出そうと全神経を更に集中させ、風を切る音を頼りに紙のように流れに逆らわず避けていく。
誰の御蔭か知らないが、そのお陰でアーサーを止められるのだから感謝しかない。余すところなく使い切って必ずアイツを倒す!
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