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第一章・引きこもり旅立つ!

第10話 引きこもり、武器屋と話す

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 ダンディスさんは俺に向かって手を差し出した。
狼の獣人らしく毛むくじゃらだが筋肉質な腕と体格に白いエプロンと青いズボンが印象的な、明るい男と俺は握手をする。
誰かと握手するなんて人生で初めての経験かもしれない。
何かこそばゆい感じがした。

「よし、これで俺とお前は知らない仲じゃなくなった訳だ。オマケして金貨二十枚にしとくよ」
「え!?二倍になってるじゃないか!」

「おうよ。お前達この辺りで稼ぐんだろ? その上知らない仲じゃないなら、新鮮な肉とか手に入れやすくなる。商人としては先行投資ってやつだな」
「……是非そうさせてもらうよ」

 最初は凄い人が良いだけかと思ったけど商売と言われて俺は受け入れる。受け入れ易い感じで言ってくれただけでないのは分かるが自分の目が間違っていない気がして少し嬉しい。

「期待してるぜ! で、身なりを整えるなら、この2軒先の店である程度必要な物が揃う。俺の名前を出してくれれば、良いアイテムを割安で手に入れられるはずだ」
「そこまでサービスしてくれるのか」

「言ったろ?先行投資だ。お前達が変な装備でウチに入れてくれる肉とかが減るのは困るから、良い店を紹介するまでだ。なんで気にしないでくれ。巧く回れば、店のオヤジに奢らせようぜ」 

 そうダンディスさんはウィンクしながら言った。
俺は思わず笑みがこぼれる。
人間じゃないからこそ、引きこもりの俺でもここまで話せるのかもしれない。
ダンディスさんのあけっぴろげな感じもあるだろうけど。

「有難う……そ、それじゃあ名残惜しいけどこの辺で。ファニー、行こうか」
「了解」

「じゃあまたな! 肉、待ってるぜ!」

 ダンディスさんに見送られながら、ファニーと共に身なりを整えるべく
ダンディスさんに買い取ってもらい得た金貨を持ってその二軒先の店に向かうと”武器屋”とのみ書かれている看板が見えた。

何ともそっけない。ここで身なり一式揃える事が出来るのだろうかと心配になる感じの質素な外観もあり入るのに躊躇する。

だがダンディスさんが折角勧めてくれたので入らない訳にはいかない。ファニーを見て頷き恐る恐る近付き心配しながらドアを開けて中に入る。

お化け屋敷よりはマシだけど陽の光が全く入らない薄暗い部屋の中には武器だけでなく防具や衣料もあった。
商売っ気がさっぱりない店内でどれもシンプルな作りだが出来は良さそうだ。
店主のこだわりなのか華美な装飾が付いている物が殆どない。

「誰だ?」

 奥の方からこちらに向かって声が掛かる。店に入ってきたのだから客以外いないだろう、と思いながらも答えてみる。

「お邪魔します。ダンディスさんの紹介で来ました。身なり一式揃えたいんですけど」
「……フゥ」

 いらっしゃいくらいはあるかなという考えは甘く溜息を吐かれた。どうやら店は店主そのものを表しているのは間違いないらしい。
ただ俺たちも取り敢えず身なり一式揃えてこの世界的に普通の格好が出来れば良いだけだからそっちの方が気が楽だ。

「失礼します」

 ファニーと共に奥の方へ進んで行くと耳の尖った肌が青白く目つきの悪い黒髪の男が肘をついて座っていた。

「適当に選べ。ダンディスの紹介なら安くしてやる」

 関わり合いになりたくないと言った風に答える店主。何だか同じ匂いがする……引きこもりの匂いが。

 となるとあまり色々聞かれるのは嫌だろうと考え早速店中を物色してみる。町中の人を見ていてオーソドックスな格好は長袖のシャツにベージュのベスト、ベージュのボトムスのようだ。
女性はワンピースに上着を羽織っている人が多かった。

 但しそれは町の中の人々の格好であって冒険者では無い。
なのでやはり通常の洋服以外にも鎧などが必要になる。

それがどんなものが良いのかはまた改めて色々見てから決めるとして、いくつかファニーには自分の好きな洋服を選んでもらい、俺はベーシックなものをチョイスしマントを加えた物を一旦店主の所へ持って行く。

武器は見たけどゴブリンたちの持っていたものよりはマシそうな感じがするが俺の力に耐えられそうなものは無かった。

明らかに前の世界にはない力を得ているのが分かるし最初に戦ったデカいのをノシた感じからして普通の武器なら叩きつけて終わりな気がするから買うだけ損になってしまうだろう。

「……ここは武器屋だってのは解ってるのか?」

 店主は不機嫌全開でそう言ってきた。その指摘はとても正しいけどこちらの事情を話すと嫌味になりかねない。どう言ったら良いものか言い淀んでいると店主がわざとらしく咳払いをして来た。

大分怒っているようなのでここは正直に話す他無いだろうなと諦めてそのまま言う。

「ええ……ですが残念ながら俺の力に耐えられそうな物が無いんで先ずは服だけでもと」
「……何?」

 店主は俺の答えにカチンと来たのか語気を強めて言った。難しいなぁこういう時に社交性があれば上手く伝えられたのにと思わずにはいられない。

この返しはどうしたものか。更に煽ってここで買い物が出来なくなるのは不味いしダンディスさんにも迷惑を掛けてしまうのは非常に不味い。

頭をフル回転させたものの碌な案も出てこない。実際どれくらいかは自分でも分からないが一か八かで近くにあった鉄の板を手に取り両端を掴んで思い切り力を入れてみる。

紙を折り曲げる様にスッと左右の端同士をくっつけて見せた。店主は目を丸くして驚いている。

「生まれつき馬鹿力なもんで。殴るだけでも十分だし」
「……こっちへこい」

 表情は驚きから元に戻ったものの殺気を発しながら更に奥にあった扉を開けて中へ入って行く。何がしたいのか予想がつかないが、食われる訳じゃないだろうし行ってみるか。

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